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迷宮の残り階層

 掲示板で新情報を流し終わると、昼寝についた。

 ぐっすりと休みたい良治は、しっかり13:00まで休憩時間をもぎ取っており、眠りについていたのだが、


『ぴんぽんぱーん。はい、神様登場』


(最悪の目覚めだ……)


 残り10分ほどは眠っていられたというタイミングで聞こえてきて、不機嫌そうに目を細めた。


『さて、業務連絡といこうか! えーとね。まず、君達全員3階以上に入っちゃってるね。5階到達者も続々出て来て嬉しいよ。という事で、明日には4階に強制移動だ。もちろん社長もね。いやー良かった。ボス討伐楽しんでくれ。もう楽勝でしょ? え、まだ? じゃあ、今日のうちに慣れておいてくれたまえ。ハハハハ。……ボス部屋は討伐が成功するまで休憩所は出せないからね? あと、強制移動された人達は敗北しても、次の日もボス部屋スタートです』


(はぁ!? い、いや、あのボスは確かに楽だったけど、まかり間違えば普通に一発で死ぬぞ!)


『あともう一つ。気にしだしている社員の方々がいるようだから、この際ハッキリしておこうと思う。この迷宮は全部で20階。そこまで来たら君達の望みが叶う。つまり、ゲームクリア。上手くクリアして日常生活に戻れることを祈ってあげよう。感謝してもいいよ? 以上業務連絡でした!』


(20階!? そこまでいけば解放されるのか? 今の調子なら3ヶ月以内の突破は余裕じゃ……いや、こいつが作ったゲームらしいしな……)


 そうした不安を覚えると、余裕をもって行動するのではなく、出来るだけ急いだほうが良いように思えた。


「目が覚めたし、探索の準備をしておくか」


 嫌な目覚め方をしてしまったけど、やる事は一緒。

 それに迷宮が20階までしかないと分かり気合を入れたのだが……


「ゾンビとスケルトン……。俺は地図作りがメインだから。大丈夫だ。そう、うん……PT組めて良かった……」


 いれたばかりの気合が、タイヤから空気が漏れていくかのように抜けていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「係長、どうです?」

「もう5割できた。凄く早いよ」

「敵が本当に雑魚ですからね。3階より楽です」


 休憩時間が終わり、良治と洋子がそれぞれの部屋から出てきて、さっそくと迷宮探索に乗り出した。

 洋子が殲滅しつつ歩いていると、遭遇した1体が青白い石を残し消滅。

 2人が近づいて、腰を下げ見てみる。


「何でしょう? 係長は見たことありますか?」

「いや、無いな。見た事のないものだ。それに大きい」


 大きさで言えば、手の平でガッチリと掴めるサイズだ。


「原石…じゃないな。カットされている。宝石をそのまま大きくしたような……どれ」


 拾い上げたのは良治であった。

 まったく警戒しない様子の上司に対し、洋子は不安そうだ。

 そんな事を知らないまま、鑑定虫眼鏡で見てみると、



 マジックアイテム:魔石


 使用するという意思をもって握ると魔力が回復できる。

 回復力は全魔力の1/3程。



 と出た。


「あ、これ私が持っていた方が良いかも」

「そうなのか?」

「魔法は魔力を使いますから、そっちを頻繁に使う私がいいと思います」

「なるほど。……え? じゃあ、これが一杯あれば魔法は使い放題みたいな感じになる?」

「……近い感じにはなるでしょうね」

「おぉ! それは凄い! よし、もっと倒して出そう!」

「倒すの、私なんですけど?」

「頑張って! はい、洋子さん」


 そっちは任せたとばかりに拾った魔石を洋子へと手渡した。

 洋子は、何か納得がいかないと首を傾げつつ受け取り、自分のポーチにしまい込んだ。


 ゾンビはともかくスケルトンの方は足音が分かりやすいので、近付かせる事なく処理が進んでいった。

 魔石欲しさに近くにいないか? と探しはすれど遭遇率は今までと一緒。

 2個めのドロップが無いままに、7割ほど地図を作り上げた所で宝箱を発見。中には見慣れた色の盾が入っていた。


「……青銅か」

「なんだか、こう……」

「分かるよ。こう……」


 互いに同じ気持ちのようだ。

 2人そろって宝箱に入っている盾を見つめたまま、目を細めている。


「盾なのは嬉しいんだけど、なぜこの段階で青銅なんだろ? 武器が鉄なら防具も鉄にしてほしい」

「3階のコボルトが使っていたの、たぶん鉄の剣ですよ。この先って普通にそれ以上の武器がでてきそうですけど、それなのに青銅って……」

「それに1個だけ。…洋子さん欲しい?」

「いりません。普通に考えて前衛の係長用かと思いますよ」

「……そういう事になるのか」


 確かにその通りだ。

 しかし、そう思うのであれば、何故自分の木の盾を……いや、言うまい。


 良治は思ったことを口にはせず、薄青い盾へと手を伸ばした。

 お飾りのような模様も無くただ丸いだけ。木の盾同様、盾の後ろにバンドがついている。

 これもまた左腕へと装備してみた。


「うん? なんだか木の盾と同じくらいの重さしか感じられないな」

「そうなんですか?」

「ちょっと待って。具合を確かめてみる」


 そう言い、装備したばかりの青銅の盾を前へと突きだしたり、敵がそこにいるかのように殴りつけてみたりと動かし始めた。


「……やっぱり。ほとんど重さが一緒だ。なんだこれ? ゲームだからか?」

「久しぶりに装備したからでは? 試しに私の盾を装備してみます?」


 洋子がそう言いながら自分の木の盾に触れると、良治はコクリと首を倒した。

 提案にのり互いの盾を交換。


「普通に重いじゃないですか。私が使うには、難しいですよ」

「あれ? この盾って、こんなに軽かったか? まるで何も装備していない気がする」


 洋子は青銅の盾を。良治は木の盾を。

 互いに、手にしている盾の感想を呟くと2人が、ある事に気づきだす。


「腕力がついた?」

「いえ前衛系だから、全身の筋力ステータスが成長したのでは?」

「……うん? 前にもステータスって言っていたけど、どういう意味だ?」

「えっと……そうですね……前に、ハンマーを使う方が、筋肉痛について書き込んでいましたけど覚えています?」

「それは覚えてる。あれもステータスなのか? 治癒の魔法報告時にも使ったけど、また違う意味?」

「……あー…係長の場合は、そのうち勝手に分かると思います」


 洋子が説明を諦めた様子を見せる。

 良治は一度だけ食い下がろうと言葉を出しかけたが、黙って飲み込むという選択をした。


 新人の頃に、分からない事をしつこく聞いた事がある。

 その時に「分からなかったら自分で調べろ! 調べる方法を学べ!」と怒鳴られた経験があり、それを思いだしたからだ。


(洋子さんに頼ってばかりじゃなくて、自分でも調べてみるか……分かればだけど)


 調べられる自信は全くないが、自分で動いてみようという気持ちだけは湧き出したようである。

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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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