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作る側

 天井から降り注ぐ淡い光の中、エリオスは自分が座る椅子をグルグルまわし考え事をしていた。


(まさか、新規組を合わせると機材が足りなくなるとは思わなかった)


 元々の数と比べて、プレイする会社員の数は減っているのだが、新たに増えた新人の数が馬鹿にならない。

 用意してあったゲーム機の数は25万台あったのだが、これが全て稼働中。

 手を上げていたのにもかかわらず、ゲームに参加できなかった人々も多いだろう。今頃、大騒ぎになっているのが予想される。


(アダム達の事をどうこう言えないな。僕も人間のことをよく分かっていなかった)


 長いこと見てきたのにもかかわらず、この反応は予想できなかった。

 神としての視点で長く見てきたせいなのかもしれない。


(あれ? もしかしてアダム達がいつまでたっても成長しないのは、僕に原因がある? てっきり参考にしたプログラムに問題があるのかと思っていたけど……)


 徹が天使と称したアダム達。

 彼等の肉体そのものはエリオスが生み出した有機体であるが、その精神構造は未来で作られるはずのドール用のAIが元になっている。

 わざわざ流用したのは、アダム達の精神が成長できれば、あの未来へと進み始めても希望がもてるから。


(……必要なかったかもね。でも、今後の仕様変更次第ではどうなるか分からないし……)


 回していた椅子をピタリと止める。

 エリオスの目が、複数浮かんでいるスクリーンの1枚へと向けられた。

 そこに映されているのは、良治達と会った部屋。

 そして今もまた……


 良治と洋子の姿があった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「武器や防具。それに道具なんかも自分で作れるようにしたい」

「そうですね……18階を少し改良すればちょうどいい感じになると思います。あの階を最初に持ってくるのはどうですか?」

「いや、それだと俺のような人は何をどうしたらいいのか分からなくなるぞ」

「チュートリアル的なものを、NPC達にやらせれば問題は解決すると思いますよ」

「……どうだろう? そもそも店があるのが問題だ。あれがあると、上に進む必要性が薄いんじゃないか?」

「それは、店で扱っている商品が無料だからですよ。やっぱりモンスター達を倒すとお金がドロップするようにして、店の方でもお金をとらせたほうがいいです」

「家庭用ゲームならそれでもいいと思うが、あれだけ現実感があるモンスターが金を落とすって変だと思うんだ」

「現実味が薄くなると? じゃあ、どうします?」

「……いっそ、ゲームをする前に持っていたものは、全部データ化できるようにしたらどうだろ? 持ち込んだものはリスト化して、残せるかどうか決められるようにするとか……できれば、加工に失敗しても復元できるようにしたいな……」

「色々試せますし、面白そうですね!」


 この二人が何を話し合っているのか?

 それは今後、どうすればもっと面白いゲームにできるのかということ。

 ベーシックダンジョン(仮)で感じた不満をぶつけあうかのように、次々とアイディアを出し合っていた。


「モンスターの配置もいじってみたくないですか? 出てくるモンスターが毎回同じだとマンネリ化しますし」

「……どういうことだ?」

「例えば5階です。あそこはスケルトンとゾンビですけど、弱かっ……あっ、すみません」


 その名を聞くだけで、良治はリアリティのある2体を思い出したようだ。

 彼の全身が震え出したところを見れば、いくらゲームキャラだと分かっていても受け入れられないのだろう。最初の時に比べれば大分マシではあるようだが。


「……えっと、毎回同じ敵を出現させるのではなく、例えば8階と9階の敵を混ぜて、それをランダム的に出現させるのはどうでしょう?」

「つまり1フロアで出る敵の種類を増やすってことか?」

「はい。ただ、これだと両方の階で出現するモンスターが同じということになりますから……」

「元々の種類数を増やした方が良さそうだな」

「それがいいですね。あと、ラスボスの姿についても変えたいです。子供の姿はあり得ません。いかにも邪神っぽいのにした方が似合うと思います……可能かどうかは知りませんが」

「その辺はエリオスの仕事だ。俺達はアイディアを出せばいい。そういう約束だからな」

「はい!」


 嬉々とした表情で洋子が返事をすると、その笑顔に釣られたかのように良治もまた微笑んだ。

 この状況を望んだのは良治。

 洋子が一緒にいるのは、彼女に隠し通せることではないだろうし、一緒の方が良いアイディアがでるからもある。

 最初、この話を彼女にした時には『馬鹿ですか! また相談もしないで!』と久しぶりに言われたが、それをどうにか乗り超えたのが現在の状況。

 ログイン、ログアウトを可能にできるようにすることや、プレイ出来る時間を日曜と祝日のみに限定したのは良治の考えだが、今後の仕様変更については洋子も関わってくるだろう。

 おそらく土曜だけならず、平日の夜もログインできるようになると思える。


 さて、こんな二人を見ている、エリオスと言えば……


(君達まで夢を見すぎじゃないの!?)


 どこまで変更しようとしているのだろう?

 ただでさえ、新規組の件がある。

 スタート直後はいいだろうが、これが4人、8人となってくると、PTを組めなくなるという恐れすらでてくるだろう。そうした点も考えなければならないというのに制作やら新規モンスターの追加や配置だとか……エリオスは早くも頭痛がしてきた。


 彼が頭を痛ませる理由は、プログラムを組み立てているのがエリオスだけだから。

 元々、このゲームは人間達の手でも作れるかどうかを確認するため、基本プログラムに関しては全て手作業でやっている。二人の話を全て叶えるとなると、最初から作りなおす必要すらあるだろう。


 つまりそれは……


(このままだと僕の休みがなくなる!)


 平日はエリオスにとって休みになったはず。

 だが、このままいくと平日は仕様変更作業に追われ徹夜続きの連続。

 日曜、祝日は管理業務をしなければならなくなってしまうため、目を瞑る時間すらなくなるかもしれない。


 席を立ちあがりかけたが、現在は仕様変更直後のゲーム起動状態。

 席を離れるわけにはいかない。いつ何が起きるのか分からないのだ。

 だから、エリオスはアダムを部屋に呼びつけた。


「いかがなさいましたか?」

「あの二人を止めてくるから、ここを頼むよ!」

「御心のままに」


 彼が恭しく頭を下げた時……


『いっそ、モンスターをテイム出来るようにもしませんか?』

『テイム?』

『倒したモンスターを仲間に出来るようにするんです。もちろん条件つきで』

『……なるほど。それならPTが組めない人でもなんとか……もうちょっと詳しく聞かせてくれ』


 そんな声が、スクリーンの方から聞こえてきてしまっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ベーシックダンジョン(仮)が作られた理由は、本当の自分として会社員達に体験させることにある。

 そしてエリオスが体験させようとして選んだのは、ゲームとしての形だったわけだが、ゲームである以上、守らなければならない部分があると洋子は考えた。

 エリオスの提案は却下したのにも関わらず、嬉々として相談しあっている理由は、そこなのだろう。


 提案したのは良治なわけだが、エリオスが簡単に納得したわけではない。

 この事件を強制的に始めたのは、誰もが恐れるだろうということが分かっていたためであり、良治が言う事は理想論に思えたからだ。


 だが、やってみたところ結果は違っていた。

 仕様変更とは言っているが、もし反応が違っていれば元に戻すつもりでもあった。

 結果がエリオスの予想を上回ったのは、今までの事が宣伝効果じみたものになっていたからだろう。

 こうしている間にも、テレビやネットを通じて様々な情報がやり取りされており、それが宣伝効果を生み出しているのだから。


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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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