ゲームを舐めるな!
――大剣術士が用意したチャットルーム
467:
誰か、Yさんのブログを見た人いるか?
名無しの支援者:
見て来たよ。
結構複雑な話だったね。
大剣術士:
まさか、未来が関係してくるとは思わなかったな。
だが、これで色々と合点がいった。
弓術士:
そうですか?
私は逆に分からなくなりました。
467:
俺は何となくだが分かるぞ。
大剣術士:
1つの可能性として考えた方がいい。
管理者も、かなり確率が低いと言っていたようだしな。
棍術士:
俺にはさっぱりだ。
人間関係がオカシクなるような事が書かれていたけど、どういう意味なんだ?
467:
仮想と現実の区別がつかなくなるっていうことじゃないか?
他人をモノのように見るとも書かれていたし、それが常識的なものになったら、本当に社会が壊れていくかもしれない。
名無しの支援者:
管理者が嘘をついたって線も考えられるけど、どうなんだろうね?
467:
Yさんがいて騙されるということは無いと思えるな。
大剣術士:
係長も、時々鋭い事を言うぞ。
それもあってリーダーを任せていたんだ。
467:
あれ、そうなの?
俺はてっきり、あの人が作る空気みたいなものに惹かれたのかと思った。
大剣術士:
それも大きな理由だが、それだけというわけでもない。
まぁ、あの二人がそろっていて騙されたということはないだろう。
棍術士:
じゃあ、なにか?
本当に仮想現実の世界が実現したら、そんな世の中になるっていうのかよ?
大剣術士:
そう簡単に、なってたまるか。
確率が低いようなことも書かれていたし、他の未来が無数にあって当然だろう。
弓術士:
あまり現実感がない話でしたし、真面目に考えない方が良いかもしれませんね。
467:
その方が良いと思うな。
ところで、名無しの支援者さん。
迷宮の方はどう?
名無しの支援者:
私のPTは、ようやくドラゴンを突破できたよ。
爪術士さん達も、初見で魔人に勝てたみたい。
剣術士さん達が残してくれた体験談のおかげだって喜んでいたね。
棍術士:
マジ?
あいつらにも言っとく!
大剣術士:
初見で突破できたとは驚いた……
後に続きそうなPTは?
名無しの支援者:
一応、それっぽい話はあるんだけど、コテハンがなくて誰々とは言えないかなぁ?
467:
名前をつければいいのにな。
弓術士:
467さんだけには誰も言われたくないと思います。
467:
なんか、これ愛着がわいてさぁ……
そんなに悪くない名前じゃないか?
名無しの支援者:
えぇ……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
徹達が話し合っていた頃、遠藤満と中川美甘は、とある猫カフェの中にいた。
二人が住んでいる場所を考えれば、毎日会えるような距離ではない。
だが、週末ぐらいならどうにかなる。
大体にして満の方から会いにきており、近くの街で買い物をするのがお決まりだ。ここでの軽食を終えたあとも夕方近くまで一緒にいることだろう。
週末は一緒にいるというのが当前の感覚になっている2人だが、両方とも1人暮らしをしているわけではない。必ずお出かけとなってしまうので、何かと金がかかっていた。
街中を歩いていると『今日ぐらいは……』『まぁ、来週我慢すればいいか』『2人きりになる為だしなぁ……』などといった気持ちから、お札に羽が生えて飛んでいってしまう。
金は大事だ。何をするにしても必要である。
クリア報酬としてもらったゲーム機が高額で売却できればいいのだが、どこに売ったらいいのか判断がつかない。
ベーシックダンジョンから解放される時に掲示板に書かれたことも気になるが、自社での買い取り宣伝はするのに、値段がないせいでもあるだろう。
そもそも、あんな代物が本当に売れるかとすら満は思う。
解放された当日にもらったのは、サイズ違いのリングが複数個と、小型のDVDドライブのようなものが1つ。あとはコンセントのみであり、これらが箱詰めされていた。
本当にそれだけ。
ゲームソフトなんてない。
仕様説明書もない。
遊ばせる気もない。
そんな呆れ果てるような代物だ。
当日に偽物の画像が出回ったが、それと同じくらい偽物じみている。
すぐに売ろうとしても、足下を見られて買いたたかれかねないだろう。
だから洋子のブログに期待する。
記事の内容次第では、そうした不安が消えて大金が手に入るかもしれない。
一番安い食事とドリンクを注文したあと、洋子のブログを満が見ていた理由は、そうした所からだ。
「長文、乙」
スマホを片手に満が言うと、三毛猫を抱いて撫でていた美甘が顔を上げた。
「急に、どうしたの?」
「柊さんのブログ。さっそく長文コメが書き込まれていて、ついな」
「洋子さんの? 更新された?」
「された。みんな注目していたみたいで、かなり凄いことになってる」
「へぇ……ちょっと見てみる」
美甘はそう言うと、テーブルの上に置いていたハンドバックを片手で引き寄せた。もう片方の手は、抱いていた三毛猫を触り続けている。
注文した料理はまだ来ておらず、テーブルの上にあるのは飲み物のみ。
店内にいる客の数から考えて、料理がくるまでもう少しかかるだろう。
「うわぁ……なんか複雑……」
「結構面倒くさい内容だよな。柊さんも良く書いたよ……でも、下の方が別の意味で凄いぞ」
「うん? ……あっ……洋子さん毒舌だね」
美甘が言うように。
満が言うように。
本日更新された洋子の記事の下には、こうした文面があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
言いたいことは分かります。現実と変わらない光景を仮想空間に実現できるからこそ、痛覚が必要だと言いたいのでしょう。
ですが、それと私達を誘拐していたことは別問題です。やっていいわけがありません。どれだけの迷惑を各会社にかけているのか分かっているんですかね?
おそらくゲームという分野で試したのは、その方が私達を楽しませやすいと判断したからだと思いますが、こんな事情をゲームに持ち込まないで下さい。不愉快でしかありませんよ。
そもそも、肝心のゲームもハード性能に頼りすぎているという印象が強かったですし中途半端な部分も目立ちました。やるならもっと作り込むべきでしょう。それが出来ないならシンプルなものでもいいんです。ゲームを使ってプレイヤー達を楽しませたいというのであれば、この業界を舐めているようにしか思えません。今までどれだけのゲームクリエイターさん達が頭を悩ませ、制作してきたと思っているんですか。神を名乗るのは、せめて名作と言わせるゲームを作ってからにしなさい!
それとラスボスの姿が子供ってどういうことです? これ大問題ですよね? 五感が成立しているゲームで子供を相手に戦わせようとするとか悪趣味すぎです。私達人間の未来について思う前に、自分がしたことを考えるべきではないでしょうか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「洋子さんゲーム好きだもんね……侮辱されたような気持ちがあるんだよ」
「それもあると思うけど、一番許せなかったのは係長を利用しようしたからだろうな」
「利用? ……あっ、これ?」
「一番下に、あるだろ?」
「うん……でも、どうしてこんな事を言われたんだろ?」
「俺達が他のグループと比べて早く冷静になれたのって、係長のお陰だからじゃないか?」
「……だから、仮想現実の世界ができたらってこと?」
「そうだと思うな。でも、作られたとしてもゲームとは限らないだろうし、その場合どうなるんだ?」
「さぁ?」
思案する様子もなく、あっさりと美甘が返事をすると、満がガクっと頭を垂れた。
(少しは考えてもいいんじゃねぇの?)
そう思いながら洋子のブログを消した満であったが……
(あれこれ悩む美甘より、今の美甘の方が良いか)
満面の笑顔で三毛猫の背中を撫でている彼女を見つめ、そう思う満であった。
明日も本日と同じく4話分投稿します。