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優先されるべきもの

 手入れがいつからされていないのか見当がつかない寂れた神社。

 境内(けいだい)は雑草によって蹂躙され、色あせた鳥居には我がもの顔で草が絡みついている。


 何故そうした光景を目にしているのか?

 以前の接触時と違う事に、良治と洋子は頭を悩ませていた。


「……これは聞いていないな」

「早まったでしょうか? 罠だったのかも?」

「あの通知(・・)がか?」

「ええ。でも、あんな真似(・・・・・)をする意味が……それに何故こんな場所なんでしょう?」

「……神社か……この寂れよう。もしかしてだけど、誰からも御供(おそな)えものをしてもらえなくなった神様が、実は管理者だったとか、そういう……」


 周囲の景色から良治は昔聞かされた御伽噺(おとぎばなし)の一つを思い出した。

 その御伽噺では、誰からも相手にされなくなった土地神様が自己主張をするために、付近の住民に悪事を働き、助けを求めさせようとする話であったのだが……


「勝手に話を作らないでよ。僕がそんなタイプじゃないことぐらい、いい加減わかるでしょ」


 空中に現れた少年が、不機嫌そうな声で話を止めた。


「まったく2人共いるとか、メチャクチャだ」


 ブツブツ言いながらゆっくりと降下を始めた少年であったが、足下に生えている雑草を見るなり止まる。

 不快そうな表情のまま右手を大きく振るうと周囲の景色が一変。

 今度は曇った空の下にできたスラム街のような場所へと変わった。


「……もういいや」


 不満はありそうだが、修正する気はないようだ。

 そう思えてしまうような態度をしつつ、少年が地上に降り立つ。


「それで、どうして彼女と一緒なの? 仲良く手を繋いでいるようだけど、その状態ならスキルの暴走が抑えられるとか?」


 少年が言う通り2人は手を繋いでいる。

 薄ら笑いのようなものを向けられた良治が、意見を求めるかのように洋子を見ると、彼女は口を閉ざしたまま首を振るった。まるで余計なことを言わないようにと忠告しているかのよう。


(何かある?)


 2人の仕草を見た少年の顔から笑みが消えていく。

 剣を抜こうとしないし、身構えようともしない。

 片方の手が塞がっているからなのかもしれないが、妙な態度だ。

 以前の接触時と違うのは、管理システムへのアクセスを不可能にするため。

 それは良治達も分かっているように見えるが、絶望しているわけでもなければ、足掻こうともしていない。


(……目的は別?)


 そうだとすれば何が狙いなのか?

 少なくとも勝とうとはしたはず。

 今ここに良治達がいるのも、そのためなのだろう。

 狙いがシステムで無いのだとすれば……彼等が勝利を得るには、もう……


「まさか!」


 思いつくなり手を振って半透明のスクリーンを表示させた。

 最初は薄っすらと。

 徐々に1つの光景が色濃く表示されていく。

 それは少年が予想していたとおりのものだが、到底信じられない光景。


 良治達の仲間によって囲まれ、地に伏している自分の姿が映し出されていた。


「……どうやった」


 少年が驚くのも無理はない。

 18階で接触した時のように、ゲームの方では何一つ変わらないはず。

 時間が止められたかのように、プレイヤー側は全員動けないはずなのだ。


 一つだけ可能とするならば管理システムの造反。

 しかし、システムが最優先とするのは制作者である少年の望みを果たすこと。

 良治が倒れた際にも少年の望みを優先し、問いかけに答えなかったほどに忠実だ。

 だから、少年は……


「システムに何をした! 答えろ!」


 心情そのままに、良治を怒鳴りつけると、


「……掲示板を見てみろ。それで分かる」


 不満が伺える声音で言い返された。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 雑談スレ part 107


 312 名前 

 セト、カイナン、エノク……リミッターの一部解除を確認

 マスター自身の命令によるもの


 313 名前 

 バランス設定に変更があるものの勝利条件に変化はなし。


 314 名前 

 マスターキャラクターの設定変更を確認。

 同じくマスター自身によるもの。


 315 名前 名無しの迷宮人

 なんだこれ?


 316 名前 

 マスターの望みを叶えるのに不適切と判断。

 プレイヤーサイドに支援を与える


 317 名前 

 現状変更可能なのは、固有スキルのみ

 即使用可能なのは、4名。


 318 名前 名無しの迷宮人

 いきなりどうした?


 319 名前

 1名は固有スキルに対する恐怖が内在。

 1名は攻撃に使用可能であるが、離れているため即時対応には不適切。

 残りの2名も不適切であるが、条件変更次第で即時対応可能と判断。

 支援を開始。両名の固有スキルに迷宮スマホは関与しないものとする。


 320 名前

 支援内容及び、掲示板を使用しての状況説明を本人達に告知。

 固有スキルの制限も一部解除。


 321 名前 ガチャで失敗した迷宮人

 コテハンが無い?

 どういうことだ?


 322 名前 名無しの迷宮人

 消しただけだろ。


 323 名前 ガチャで失敗した迷宮人

 何も入力しなければ、普通は名無しの迷宮人

 コテハンが付くのは、自分で入力した時だけだ。


 324 名前

 こうやってだよ。

 空白で埋めれば名前が消える。


 325 名前 名無しの迷宮人

 知らなかった!?


 326 名前 

 これネットの方でもそうなのか?


 327 名前 名無しの迷宮人

 知らん。自分で試せよ。


 328 名前 名無しの迷宮人

 そんなことを気にしている場合かよ。

 この内容ってもしかしなくても……


 329 名前 名無しの迷宮人

 たぶん係長達のことだろうな。


 330 名前 名無しの迷宮人

 これを書き込んでいるやつって、システムとしか思えないんだが?


 331 名前 名無しの迷宮人

 いや、管理者の仲間じゃないのか?


 332 名前 名無しの迷宮人

 どちらにせよ管理者への裏切りじゃ?


 333 名前 名無しの迷宮人

 係長達にとって都合がいいのなら、それでいいだろ。


 334 名前 爪術士

 うわぁああああ―――!!!

 これで係長達が勝ったら、一緒に戦えないじゃないか!

 それだけが目的で頑張って来たのに!!!


 335 名前 大斧術士

 >>334

 お前は黙ってろ!


 336 名前 名無しの迷宮人

 どうなるか分からないけど、係長達には是非とも勝ってほしいな。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「僕の望み……だから……あぁ、でも……」


 少年が頭を両手で抑え、(うめ)き始めている。

 自分の中で葛藤(かっとう)しているのだろう。

 だが、どうする事も出来ない。

 すでにラスボスとなっている彼のキャラは倒されたのだから。


 良治達が考えていた作戦というのは、本来の攻略方法に近しいもの。

 少年が見て感じたように、用意されていたものを多少アレンジしたものであり、管理システムにアクセスすることについては考えていない。


 18階での接触時。

 19階でのゲームへのアクセス。

 それによって起きた現象は、良治が意識的に操作したわけではない。

 仮に管理システムに接触できたとしても、何が起きるのか分からないのでは作戦に組みようがなかった。

 

 その良治がこうした手段を選んだのは、管理システムから提案がされたから。

 提案がされた理由については、掲示板を見て大体のことは察しているが、望みが何であるのかまでは具体的に分かっていない。


 管理システムが提示した作戦について簡単に言えば、良治と洋子に意識を向けさせ、その間に討伐を済ませるという単純明快なもの。


 とは言え、洋子が習得した本来の状態では不可能。

 そのため管理システムが固有スキルの内容を一部変更した。

 2人が同時に精神接触しているのは、そうすることで通常とは異なるようにするため。これはシステムが仕様変更したのではなく、複数人が同時に接触する事で起きる現象を予測演算していたからになる。


 とにもかくにも勝つことは出来たのだが、


(……こういうのはなぁ……)


 自分でも分からない不満が残されたようである。

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