表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/227

反撃の合図

 田中や杉田も、良治達と同じく管理者から天使を引き離そうとしていたが、その動きが急に止まった。


「あの天使、何か喋っていない?」

「言っているな」

「おい、杉田達が相手をしているやつも動きを止めたぞ」

「一体どうし……!?」


 様子が気になり立ち止まると、坂井が何も言わず棍の先端を天使へと向けた。

 躊躇なく火球の一発が放たれ天使へと命中。

 わずかな爆煙が発生したが、天使の様子が変わらない。


「無視かよ。これ、マズイんじゃないか? もし管理者の方に戻られたら、作戦がパーだ」

「それは分かるが、お前は攻撃を控えろ」

「これぐらい大丈夫だって……あっ、係長達の方も止まっているぞ!」


 坂井に言われ見てみると、彼等の方でも同じように止まっていた。

 近くにいるのであれば良治達と相談したくもなったが、距離が遠すぎる。


「……ここじゃ掲示板が使えないんだよね?」

「だめだ」

「どうする? もう勝手にやっちゃう?」

「いや合図を待つ。このまま……」


 続けよう。

 篠田にそう言いかけた時、動きを止めていた天使の頭上に5本の槍が出現。

 ブォーンという奇妙な音が鳴ったかと思うと、一斉に飛んでくる。


「おィィ!?」

「――ッア!!!」

「篠田!?」


 飛んできた槍は5本。

 そのうち4本は回避する事が出来た。

 だが、残りの1本が篠田の腹部に命中。

 闇鎧の効果は反応しているが、槍は消えることもなく腹に突き刺さったままだ。

 その槍を田中が即座に掴む。

 苦痛に歪む篠田の顔を一目みたあと、一息で槍を引き抜いた。

 回復(大)の魔法を使い傷口を塞ぎはしたが、


「またくるぞ!」

「やらっせかよ!!」


 木下が叫び報せると、坂井が全員を庇うように前に出る。

 ポーチから宝箱を取り出し、飛来してくる光の槍を5本とも防いでみせた。


「ど、どうよ!」

「……お前、よくもまぁ……」


 坂井が出した宝箱は羊皮紙が入っていたもの。

 こんなこともあろうかと売らずにとっておいたものだが、勢いに任せた行動であったせいで蓋が開いてしまっている。


「さすがの宝箱だな。そのまま防いでくれ」

「お前達もあるだろ! やれよ!」

「……あぁ!」


 言われて思い出した田中と木下が宝箱を出すと、倒れていた篠田が立ち上がった。


「頭にきた! 田中! 攻撃してもいいよな!」

「お前はドンドンやれ。あとバランスはちゃんと使っておけよ。今のショックで消えているぞ」

「分かってるって!」


 篠田が意気込みよくいい、バランスを再展開したあと水弾の魔法を使い始める。

 彼の場合、変化させる気はないらしい。

 手数の多さを意識してなのか、作り上げた水弾を片っ端からぶつけていく。

 注意を引き続けることは篠田に任せ、田中達は宝箱を使いながらジリジリと後退していった。


 天使は遠距離攻撃を中心に行うが、ランダム的に近接戦闘を仕掛けてくる事もある。予備動作が大きいため分かりやすいのだが、出来れば近づくなと思う田中であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方、杉田達と言えば。


「おっ! 宝箱! アレいいんじゃないか?」

「俺達も真似るか」

「お前は大きいものしか持っていないだろ?」

「伊藤さんの分は、私が出します。それより杉田さん。本当にこのままでいいんですよね? 何か間違っているとかありませんか?」

「くどいって! 作戦どおりだから心配しなくていいよ!」


 杉田の言葉にひっかかりを覚えたが、問い詰める前に光の槍が襲ってきた。

 各自が宝箱で器用に防ぐと、ぶつかった時の衝撃が腕に響いてくる。

 伊東、山田、新井の3人が前にでて宝箱を使って防ぐが、杉田は1人下がり火球の魔法を放っていた。


 しばらくすると、彼の視線が良治達へと向けられた。

 何かを期待しているかのようであるが、その表情が徐々に曇り始め、苛立ちすらし始めている様子。

 今度は徹達の方を見てみると……


「……あっ」

「どうかしましたか?」

「やばいなぁ……もう誰かやられてる。猫もいないが、時間切れにしては早いし……」

「……厳しそうですか?」

「ラスボスだし当然だろけど、思っていたより早い……あっ。もしかして天使の攻撃が変わったのは、管理者の命令?」

「どういう意味です?」

「早く終わらせにかかってきたってことだよ……こっちも短期決戦狙いだけど……うん?」

「今度はどうした?」

「……いや。管理者のやつが動かない」

「は? なぜだ?」

「知るか。というか伊東……いや、全員バランスを解け。合図を待っていられる状況じゃないぞ」

「いいのか?」

「足止め役の峯田達が全滅したら終わりなんだよ。もっと距離を離した方が良いとは思うけど……これ早めた方が……」


 杉田が普段とは違った様子で指示を出し始める。

 この4人の中で杉田がリーダーを務めていた理由はいくつかあるが、こうした側面もその一つだ。

 普段はやる気をみせない杉田だが、こういった時だけは頼りになるらしい。

 それは、一緒に頑張ってきた3人がよく知っていた。


 その杉田が普段と違う顔をのぞかせた時、良治達の方から大きな火球が飛来。

 空中高くで爆発音が鳴ると、不機嫌そうにしていた杉田の表情が一変する。


「係長も腹を決めたぞ! お前等、いけ!」

「2人ともお願いします!」

「いくぞ伊東!」

「ようやく出番だ!」


 新井が返事をすると、伊藤と山田が宝箱をその場に置き去りにし飛び出す。

 合図を見ていたのは彼等だけではない。

 田中達の方からも、坂井と木下がジャンプとフリーダムを使い飛び出していった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(制限を一部解除した。少し強い攻撃をしてみて)


 数分前に天使達に下された命令はそうしたもの。

 田中達が見た天使の独り言は、その命令に従った時の返事だ。

 彼がそうした命令をした理由は、徹が言った「今は…」という一言にある。


 勝とうとしていない。

 情報の正しさを確認しにきただけ。

 良治達がそうした気持ちで来ていると考えていたが、徹の一言で180度変わった。


(勝とうとしているのなら、何かあるんだよね? それを早く見せておくれ)


 そう考えたからこそ、天使達の攻撃を強めた。

 追い込まれた良治達がどう動くのかを、少年は早く見たかったのだろう。

 徹と紹子を倒したあと、満と美甘にあまり手を出していない理由も、そこにある。


「ようやく動いたようだね……さぁ、蘇生していいよ」

「……お前、ほんと何を考えていやがる」


 満にとってみれば助かるタイミングといえた。

 ヘイト・シールドのスキル効果がもうすぐ切れるからだ。

 そうなれば巨大化した盾は元の大きさになり、無敵化も解除されるだろう。

 背後にいる美甘だけではなく、死んでしまった徹と紹子の遺体も守り切れなくなる。


 そうした状況を作り出した本人の言葉に従うのは(しゃく)だろう。

 それでも、美甘が急ぎ蘇生を始めたが、すぐに目を開けるわけではない。


 2人が意識を取り戻す前に、坂井と木下、伊藤と山田。

 そして香織と須藤が駆け付け、それぞれが少年の前に立った。


(少しアレンジされているようだけど、僕が用意しておいた攻略方法に沿った形かな? でも、やっぱり彼は向こうか……)


 目の前に良治がいない。

 それだけで不満がでてくる。

 少年の口から落胆したような溜息が出たが……


「「「「「「オール・アップ」」」」」」


 6人共が新井の固有スキルを使用。

 さらに、彼等の体を薄っすらとした光が包んだ。

 それは田中のディフェンス・アップの効果が発動した証。

 同じ固有スキルを重ね掛けすることは出来ないが、別のものなら可能。


 防御と身体を強化された彼等が一斉に攻撃を開始すると、少年の顔から落胆の色が消えることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
作者のツイッター
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ