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予期せぬ戦闘

 徹の休憩所から出ると、仲間達の視線が向けられた。

 何も言わずに相談していたため、気にされたのだろう。

 徹が気にしている部分については触れないように事情を明かし、これから自分達の固有スキル実験を開始することを伝えた。


「試すつもりなんすか!?」

「分からないままにしておくのもちょっとな……できれば、皆の前で試しておきたい」


 良治がそう思う理由についても説明してあり、洋子もまた実験を試みるつもりでいる。


(これは駄目ね。もうやる気でいるわ)


 並びたつ二人の表情を見て、香織が溜息をつく。

 良治から実験を始めるようで、洋子を横目でみたあと目を閉じた。


 仕事での付き合い。

 ダンジョンでの行動。

 彼女とかわした電話でのやりとり。

 そして、想いの告白。


 次々と浮かぶ数々の想い出。

 自然と表情が綻びかけたところで目を開く。

 これだけ思っても変化がなければ見当違いの話だったのかもしれない。

 そういうこともあり得るだろうと考えながら、スレッド・スキルを発動させた。



 良治の固有スキルが変化する条件は正解だ。

 そして彼の固有スキルが変化した時に起きる現象は、アクセス制限の解除。

 以前はシステム介入も出来たが、それは管理者が扱っているキャラと接触していたから起きたこと。


 だが、今の良治は管理者どころか、他の誰とも接触をしていない。

 そして変化した形で発動した場合、彼の固有スキルは『暴走』する。

 アクセスする『方向性』を得られない彼のスキルは周囲にあるもの。


 つまり『ゲームそのもの』へとアクセスを開始した。


 その結果……


「係長!」

「お、おい!」

「なに!? どうしたの!」


 突然良治の目蓋(まぶた)が閉じ、前のめりに倒れこんでしまう。

 洋子が上げた悲鳴も、彼の耳には届かなかったことだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 良治が倒れたあとのこと。

 洋子の休憩所に彼を運び、この出来事で話し合った。

 回復や治癒魔法を使っても目を覚まさない為、1日様子をみようとも考えたが、これがもしシステム上のトラブルであればどうだろうか?


 田中に見せられた写真から推測するに、VRスコープのようなものを使っているわけではない。それとは違う系統によって作られているゲーム機のように思えた。


 この状態が続くのはマズイのでは?

 そう考えた徹が、直接管理者に言いに行くことを決意。

 すると彼の仲間達が付きあうと言い出し、その流れに田中や杉田達がのった。

 須藤達もと思ったが、数人は傍にいた方が良いということで、彼等は残されてしまう。


 徹達が20階へと到着すると……


『いらっしゃい。でも、今は君達の相手をしている暇がない。だから大人しく帰ってね』

「帰れ? 俺達が何故ここにきたのか、どうせ知っているんだろ!」

『その為に時間を()いている。だから邪魔だと言っているのさ。分からないなら、もういい』


 普段とは違い余裕が感じられない。

 叫び声をあげたばかりの徹が戸惑う。

 判断に迷う彼等の前に、頭上に光輝く輪をもつ男が現れた。


「……誰だ?」

「初めまして。私は主様の使い。それ以上でもそれ以下でもありません」


 淡々とした口調でいう彼の眼差(まなざ)しは冷たいもの。

 金色に光る短くまとまった髪や、その頭上にある光の輪。

 整った目鼻や眉の形。

 精工に作られた人形であるかのように表情が動かない。

 そうした特徴的なものは、管理者の隣によく立つ青年と似ているが別人だ。


 勿論、徹達はそんなことを知らない。

 彼等が出現した男に感じたのはNPCに近しい感覚であったが、同一のものとは言い切れない別の何かがあった。


「こうした状態で戦うのは我々としても本意ではありません。それでも、これ以上騒ぐのであれば実力行使にでますが、いかが?」

「何を勝手なことを!」


 今の自分達がこうしてゲームをしているのは、一体何が原因なのか?

 それを分かっているのかどうか、それすら怪しい。

 身勝手すぎる言い分に徹が激高すると、彼の肩を田中が掴んだ。


「なんだ!!」

「落ち着け。係長のことは(すで)に分かっているようだぞ。どういうつもりなのか知らないが、その為に管理者も動いているようだ……それよりも……」


 ジロリと目の前に現れた男を睨みつけながら田中が前へとでる。


「お前は誰だ? 噂になっていた管理者の仲間か?」

「私は主様の使い。そう言ったはずですが?」

「……」


 相手の力を値踏みするように田中の目が動く。

 感じる気配は奇妙なもの。

 強いのか弱いのか、それすら分からない。


「(どう思う?)」


 背後にたつ木下に小声で尋ねた。

 相手の力量を判断するという点でいえば、田中が知る限り木下が一番(すぐ)れていたから。


「(あやふや過ぎて分からん。それに、こいつだけでもないぞ)」

「(やっぱりいるのか?)」

「(いるな。同じような奴が……今までの連中とはかなり毛色が違う。どこか妙だ。気を付けろ)」

「(……分かった……木下さんは皆を抑えておいてくれ。俺は話を続けてみる)」

「(焦るなよ)」


 そうした2人の会話を聞いていた徹と杉田も下がり、自分の仲間達を抑え始めた。


「帰らないのですか?」

「見ての通り騒ぐつもりはない。話すぐらいなら邪魔にはならないだろ?」

「それは我々が判断します」

「……」


 話し合う気が無い様子に、心の中で舌打ちをしてしまう。

 どうにかして情報を引き出したい田中は、広間の中を見回した。


「周りにいる連中は出てこないのか?」

「帰らないのですか? 私はそう言ったはずです」

「それぐらい教えてくれてもいいだろ?」


 会話が出来るのであれば18階のNPC達とは違うはず。

 もう少しだけ情報が欲しいと思う田中の前で、男の右手が高くあがった。


「最終通告です。これ以上何か言うのであれば……」

「お、おぃ?」


 田中が、さらに何かを言いかけた時には遅かった。

 上がった手が振り下ろされ、彼等の前に同じ服装をした男女が現れる。

 新たに出現したのは2人のみ。


 田中達が身構え武器を手にすると、彼等の背中から一対の光翼が出現。

 さらに光の槍が出現し……


「「「全ては、御心のままに……」」」


 戦闘が開始されることになった。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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