内緒話
『スキルで問題があったとは聞いていない』
ガチャで失敗した迷宮人はそう言っていたが、本当だろうか?
この書き込みを見た時、良治は20階で自分のスキルを試した事を思い出した。
(あの弾かれたような痛み。管理者との接触時にも感じたな……アレもスキルが発動したことによって起きた痛みだったのなら――ッ!?)
考え事をしている最中にヘイト・シールドを使った時のイメージが浮かびあがり驚く。杉田の固有スキル実験が続けられていたからだろう。試してみたいという欲求が湧くが、それよりも自分のスキルのことが気になり考えを続けた。
(俺のスキルにも峯田さんと同じく異常があったとするなら、ガチャ失敗人さんの推測通りってことになるんじゃないのか? ……あれ? でもそうなると洋子さんも同じ?)
その洋子を見れば、焦点があっていないかのような目つきをしていた。
何か考え事をしているようにも見えたため、声をかけづらい。
邪魔をしたくないと視線を外すと、満の呆れたような声が聞こえてくる。
「盾を装備していないのに、俺の固有スキルを使うなよ」
「無くても発動するか試しただけだ。大丈夫のようだが、ヘイトや無敵関連はどうなるんだ? お前が発動した時と同じになるのか?」
「自分で確かめてみたら?」
スキルを試したのは徹のようだ。
これといった変化は見てとれないが、発動はしているらしい。
満に言われたとおり試すつもりで自分の大剣を使って傷をつけようとしている。
「無敵効果は大丈夫か……しかし、管理者に通じるだろうか?」
「試さないと分からないけど、魔人の時と一緒だと思うぜ」
「……だろうな。あまりアテにしないでおこう」
言っているとおり、期待はしていないようだ。
その徹を見ているうちに、彼が掲示板で言っていたことを思い出した。
(峯田さんのスキルはメンタルによって変わるとか言っていたが、具体的にはどういうことだ? 洋子さんのスキルでも同じような異常があれば困……あっ)
その洋子に再度目を向けると、今度は視線が合った。
何かを訴えてかけてきるように見えたので、近づき声をかけてみる。
「どうした?」
「私達の固有スキルの事ですけど……係長はどう思います?」
「気になる事が出てきた。洋子さんは?」
「何か異常があったという事はありません。でも、前に峯田さんが言っていた事が気になります。私もドラゴンとの戦闘前から色々悩んでいましたし……もしかしたらと……」
その悩み事というのは当然良治とのこと。
さらに言えば、ドラゴンとの戦闘時にも良治が無茶をしたせいで頭の中がぐるぐるであった。
徹の固有スキルはメンタル次第で効果の変動を起こす。
スキル習得をする前に心の疲労を重ねていたのが原因だろうというのが当人の推測。ならば、自分も同じではないのだろうか? 洋子はこの時になって、そう考えるようになった。
「あっ。係長が気になる事って何ですか?」
「それは……」
尋ねられた良治が素直に思うことを話すと、洋子の視線が徹へと向けられる。
彼女も徹から詳しい話を聞いてみたいと思ったのだろう。
「話を聞くのは、後にしようか」
「そうですね」
今は実験の最中。邪魔をするべきではない。
その実験がさらに進んでいくが、良治達のように杉田の固有スキルが通用しない相手はいなかった。それも含めて新井が報告を始めると、2人が徹に近づき相談をもちかけた。
「確かに俺は自分の気持ち次第で、固有スキルに変化が起きるとは言ったが、細かいことまで分かっているわけじゃないぞ」
「それでも構いません。掲示板での話だと良く分からなかったので、もう少し詳しく教えてくれませんか?」
「……うーん」
徹が、困ったように眉をひそめる。
渋い表情のまま首をまわすと、新井と話し合っている紹子をみた。
彼女のタイム・アローを仲間達が発動した時、それぞれの手に光る矢が出現したためだろう。どう扱ったらいいのか相談しているようだ。
「分かった。だが、ここでは駄目だ。悪いが場所をうつしたい……あまり聞かれたくない話もある……それもあって、掲示板では詳しく言えなかったんだ」
「?」
徹の言い方から不安を感じたが、今ここで教えてくれる気はないらしい。
場所を彼の休憩所へと移し、その中で良治達がどうして相談をもちかけたのか、詳しい事情を説明した。
「思い当たることがあったのか?」
「本当にそうなのか分かりませんよ」
「でも、もし変化があれば確定ですよね?」
「そうなるな……」
あまり自信がなさそうに洋子に応えると、徹が少し考え込んだ。
元々もっていた持論と、良治から聞かされた話をあてはめ考えた結果、彼は隠していた事も含めて話し始めた。
「まず、俺の固有スキルについてだが、掲示板で言ったとおりメンタル的な部分が関係して変化が起きる。ここまではいいな?」
「はい」
「いわばスキル効果に変化を与える引き金だ。少なくとも俺のスキルは、そうしたもので……実は何が引き金なのかも分かっている」
予想していなかった告白に良治の口が開きかけたが、徹が手をあげ待ったをかけた。
「質問は全部おわってからで頼む。嫌な事はさっさと済ませたい」
「嫌な?……あっ。どうぞ」
つい質問しかけたが徹のやりやすいようにしようと、自分の口を閉ざす。
二人が聞く姿勢をみせると、徹は一度咳をついてから一気に言い出し始めた。
「その引き金となるものが何なのかについては、係長達と合流する前から確信していた。俺が習得しているスキルというのは……その……アレの名前は、自分に暗示に似たようなものをかける時に使っていた言葉だったからな……つまり、2人が最初にみた暴走気味の俺というのは、暗示にかかったような状態の俺となるわけで……なんだ……その、つまりそういうことだ!」
最初は理解できたが、後半になるにつれ理解できなくなった。
途中から歯切れが悪くなったからというのもあるだろうが、そういうことだと言われても困ってしまう。
良治と洋子が二人そろって何かを言いたそうにしていると、徹が再度手をあげ止めた。
「……すまん。結論だけを言う。引き金は、その固有スキルを得る前に強く考えていたことに関係しているはず。ドラゴンと戦う前に自分が何を考えていたのか思いだしてみてくれ。強く思えば思うほどに変化が起きやすい。もしそれで変化があれば、2人のスキルも俺と同じタイプだろう……これで勘弁してくれ」
本当にもう言いたくない。
徹の気持ちが伝わってくる。
顔に書いてあるようにすら良治には見えた。
(俺の場合は洋子さんになるんだろうな。ドラゴンと戦っている時に考えていたのは彼女のことだったし、管理者を頭の中から追い出せた時も同じだった……でも、どういう変化があったんだ?)
良治の中で、ピースがそろいパズルの絵が出来上がりだしたが、その絵が何を示すのかまでは分からなかった。
一方、洋子と言えば……。
(良治さんのことを思いスキルを発動させれば変化するって意味? ……でも、今までだって……思いの度合いが足りなかった? ……あるいは最初から推論が間違っているということも……やっぱり試すしかない?)
彼女なりに理解しているようで、徹は自分が言っていることが通じていると知った。
「分かってくれたようだな。なら、もういいだろ? あと……さっきの話については……特に暗示関係についてだが、極力言わないように頼む」
徹がパンと手をうち、良治達に頼みこんだ。
本人にしてみれば、かなり恥ずかしい話なのだろう。
徹の気持ちはさておき、良治と洋子は自分のスキルについて気になって仕方がないようである。