アレなパターン
田中から情報公開について相談を受けたが、良治達は判断が出来なかった。
そのまま管理者との戦いについてどうするのかという話に移る。
この相談時に、管理者が田中達のことをどう評価したのかについても聞く事が出来た。
「資格がある?」
「偉そうに、そう言われたよ」
「……どうする係長? やってみるか?」
徹が判断を求めると良治が悩みかけたが、田中の手が上がる。
「悪いが、挑戦するにしても2、3日待ってくれ。俺達は魔人との戦いを終えたばかりだ。あいつらを少し休ませたいというのもあるし、その間に爪術士のPTが……いや、流石に無理か?」
「……そうですね。分かりました。管理者のことについては来週からにしましょう」
良治がそう決断すると、田中がニコリと微笑み握手を求めてくる。
その手を拒む理由もなく、互いの右手で握手をした。
「今後とも、その調子で……と、とにかく、よろしく頼むよ」
言い方が気になり首を傾げると、田中が良治の肩を叩き誤魔化すように笑った。
「これってまたアレなパターンじゃないっすか?」
「なるようにしかならないわよ」
「それも、そうっすね」
香織と須藤が呟く声が聞こえてくるが、何を話し合っているのか今一つ分からない。洋子ならば分かるかと思い彼女を見てみると、微笑み返されるばかりであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
良治達との相談後、田中が18階へと戻る。
レストランじみたメニューがある店の中で仲間達と合流するが、杉田達の姿がない。
「あいつらはどうした?」
「17階に行ったよ。自分達だけで4竜と戦ってみるってさ」
椅子へと座りかけた田中の動きが止まる。
篠田(杖術士)の話を聞き険しい表情をしたが、何かを言う事もなく椅子へと座った。大声で生姜焼き定食を注文すると、今度は坂井(棍術士)が顔を近づけてくる。
「リーダーの件はどうだった?」
「なんとかなりそうだ」
「えっ? 係長、承諾してくれたの?」
「やったな!」
田中の返答を聞くなり篠田と坂井が手を合わせ叩き、パチンという音を響かせる。喜び合う2人を木下(ハンマー術士)が呆れたように見ながら、ステーキ肉を噛み飲み込んだ。
「ふぅ……しかし、よく説得できたな。係長は嫌がっていると聞いていたが?」
「直接は言っていない。木下さんの真似をした感じだ」
誰とも目を合わせず田中が言うと、彼以外の動きがピタリと止まる。
場の空気すら足を止めてしまったかのような空気の中、篠田が慌てたように言い出した。
「か、係長ってどんな感じ! 掲示板の通りのイメージの人だった?」
「……俺としては思っていたとおりの人だったな。少し違ったのはYさんか? 前に会った時は気付かなかったが……いや、今になって思えば彼女はどこかこう……」
田中が思い出すかのように顔を上げ呟き言うと、仲間達の視線が集まる。
これからPTを組むのだし、気にしているのだろう。
それは田中にも分かったが、彼はそれ以上言おうとしない。
「何だよ? Yさんがどうした?」
坂井が怪しむような声で尋ねたが、田中は無視するかのように頬杖をつく。
「それより写真の件だが、あれは伏せておくことにする」
「あっ。やっぱり? 係長達もそうした方が良いって?」
「いや、判断ができないらしい。だが俺達が気にしたように、わざわざ見たいと思えるような代物でもなかったようだな」
篠田に真顔でそう言い返すと、今度は坂井が代わって言い出した。
「やっぱりそうだよな。それに、あの写真には田中の顔も映っているし公開したら駄目だろ。係長じゃないけど、お前だって騒がれるのは嫌なんじゃないのか?」
「まぁ……な。掲示板には、すぐに追い返されたとでも書いておく。お前達も余計なことは書くなよ?」
お前達。
そういった田中の目が向けられたのは篠田と坂井に対してだった。
釘をさされた篠田と坂井が互いに顔を合わせると、2人揃って同じ人物について思い出した。
「杉田にも言っておいたほうがいいよな?」
「だろうね……呼び戻した方がよくない?」
「……そうだな。休むのも大事な事だと……」
田中が愚痴をこぼしかけた時、給仕担当の女性型NPCがやってくる。
彼が注文した生姜焼き定食が置かれるとさっそく箸を手にして食事を始めた。
黙って話を聞いていた木下が、残っていた飲み水を喉へと流し込む。
そのコップをテーブルの上におくと、坂井達へと向け言った。
「俺達も杉田達と同じことをするべきかもしれんな」
「どうして?」
まだ食事途中の坂井が手を止め聞き返すと、木下の目が細まる。
「係長達は予定どおり管理者と戦うつもりなのだろ? それも早くに」
坂井に向けていた視線を、そのまま食事を始めたばかりの田中へと向ける。
尋ねられた田中は手を止めずに一度だけ頭を下げた。
その仕草をみた篠田と坂井が、2人そろって大きな溜息をついてしまう。
「足……引っ張りたくねぇよな……」
「今の俺達だと、そうなりかねないよね……短い休みだった」
「……あぁ、だから杉田も?」
「あいつというより新井さん達じゃない? 杉田は連れて行かれた感じだったし」
2人のそうした会話を聞いていた田中の手が一瞬止まる。
誰にも見えないように苦い表情をしてしまうが、生姜焼き定食のせいではないだろう。