剣術士達の動き
剣術士達が魔人への再挑戦を行ったのは、78日目の水曜日のことであった。
「彼等が勝つことができたら、管理者に挑んでみます?」
「一度は戦ってみたいが、剣術士さん達も返事をする必要があるんじゃないか?」
「選択のこと? 私達と合流できたら、そのままって形になるんじゃない?」
「そういや、その辺りわからないっすね?」
この事に管理者は触れていない。
どう扱われているのか分からないが、まずは魔人に勝ってからの話になりそうだ。
そして彼等が勝てば……
良治達ばかりではなく、分かれたままとなっている徹達も、その日が近づいてきていることを肌で感じ始めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の午後3時頃。
休憩所の中で休んでいた良治が、大きく目を見開いた。
魔人に再挑戦した剣術士達が、勝利報告を始めたからだ。
「よし! これで……っと、その前に……」
まずは、おめでとうと言わなければならない。
自分達が言ってもらえたように、剣術士達に対しても同じことを書き込んだ。
(いい感じだ。17階に進み始めた人達も増えてきているし……実地講習かぁ……アレが大きかったみたいだな)
ドラゴン討伐を果たし17階へと進み始めているプレイヤー達が急増し始めているが、その大きな理由として実地講習が上げられる。
場所の選び方や建物の壊し方。それにタイミングの取り方等を教えられたことによって、成功確率が高くなったのだろう。
残念なのは、その講習を開いた当人達が17階へと進んだため、現在は行われていないことだろうか。
(……ん? 剣術士さんたち、もう行くのか?)
魔人討伐を成功させた剣術士達が20階へ行ってみると言い出している。
良治達が気にした選択についてと言うよりも、管理者との会話が成立するのかどうか試したがっているようだ。
(どうなるか気になるな)
出来るのかどうか?
そもそも出来たとして、何を話すつもりなのか?
結果が気になるのは良治ばかりではなく、他のプレイヤー達も同じ。
今日中に報告が欲しいと思うが、この話がされている時点で夕方の4時前。
結果を聞くのは明日以降になるだろう。
残念だと思いつつ休憩所を出ていくと、近づいてくる洋子の姿が見えた。
「見ましたか?」
「剣術士さん達のことなら……どうした?」
何かを気にしている様子を知り、理由を聞いてみると、
「もし剣術士さん達と管理者が直接会ったらどうなるか気になりません? ……あの気配に耐えられるでしょうか?」
「……あっ」
剣術士達がクリアした喜びもあって、言われるまで気付かなかったらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――剣術士視点。
20階へと辿り着いた俺達は、まずその室内の広大さに圧倒された。
係長達から聞かされていなければ、きっと動揺を隠しきれなかっただろうな。
「田中。早く管理者を呼び出せよ」
「そう急かすな」
杉田(467)のやつが俺を急がせる。
社長だと言うが、本当にそうなのかと疑ってしまうような奴だ。
ズケズケと無遠慮にこっちの懐にはいってくるような性格だから、社長がやれているのか?
思えば、うちの社長も似たところがあるな。
突拍子もないことを平然と言ってくるのが一番困る。
おかげで人事移動の時期には、同僚達と飲みにいくことができない。
「あれ? 係長の話だと、向こうから話しかけて来るんじゃなかった?」
篠田(杖術士)が天井を見渡しながら言ってきた。
言われてみればそのはずだったが、どうしたんだ?
「……分からないが、とにかく……」
『ようこそ20階へ。遅れて御免ね。こっちもバタバタしていてさ』
声をかけようと思えば、これだ。わざとじゃないだろうな?
『あー…でも、君達の場合、選択については迷いがないんだよね? 本当の目的は僕と話し合えるかどうかを試す事だったと思うけど違った?』
この野郎……やっぱり掲示板を覗いているのか。
前にそんな話が掲示板でされた事があるが、その通りだったんだな。
そうじゃないかと思ってはいたが、こうして言われると腹が立ってくる。
「分かっているのなら聞くな」
『……やっぱり? もう少し考えてみても良いと思うんだけど?』
考えるも何もない。
他の2つは記憶の消去がある以上、選ぶつもりになれない。
大体、このまま管理者を殴る事も出来ずに終わったのでは、記憶をなくした自分に対して腹が立つだけだろう。
「つべこべ言わずに出てこい。係長の前には姿をみせたはずだろ!」
『怒りっぽいな。君がリーダーなの? 見覚えはあるけど、そんな調子でやってきたから今まで時間がかかったんじゃない?』
……またか。
こいつの業務連絡を聞いていて思ったことの一つに、俺達をわざと煽っているんじゃないかというのがある。掲示板で言うかどうか迷ったあげく言った事が無いが、みんな同じような事を思っているに違いない。
「相手による。お前相手に遠慮する必要が俺には無い」
『……そこまで言うのなら、お望みどおりにしてあげるよ』
案外素直だな。
もう少し煽ってくるのかと……!?
やつが言葉どおり姿を見せた瞬間、俺達は同種の反応を見せた。
なんだこれは?
いきなり鳥肌が立ち、寒気すらしたぞ。
何度か同じような経験をしてきたが、それらの比じゃない。
Yさんが具合を悪くしたと聞いてはいたが……なるほどな。
いつものように戦えるか疑問だが、俺達を見る管理者の目つきも気にはなる。
一瞬……本当に一瞬だけだが、少しだけ物悲しい目つきをしたように見えた。
俺がイメージしていたものとは違う。
まぁ、すぐに悪ガキ小僧のような目つきになったが……
「……少し足りないかな?」
「何の話だ?」
「君達の強さだよ。例の係長と最初に会った時と比べれば大分マシだけど、魔人を実力で倒せた前と後とでは違うだろうし……一応、僕と戦う資格はあるとは思うから、ガッカリしなくてもいいよ」
余計な言葉が癇に障るが、言わんとしていることは分からなくない。
思えば魔人と初めて戦った時、俺達は気圧されかけた。
アレを克服できるだけの力が無ければ、ここには立てないのだろう。
そういう意味でのボスだったということか?
「それで話って何? 大口をたたいてまで僕を呼びつけたんだ。つまらない用件なら、そのまま回れ右して帰ってほしいんだけど?」
つまらない?
そうかもしれない。
本当に今さらの話だからな。
こいつがどう思うかは知らないが、とりあえずは聞いてみるとしよう。