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魔法の扱い

　12時を回ったあたりで、休憩所に本日の食事が出現した。

　しかし出現したのは、アンパンではなく海苔で覆われたオニギリである。

「おっ、やった！」

　思いがけない出来事に、鼻歌を出しながら昼食を取り始める。

　出現したオニギリの数は2個。中は梅干しと鮭。どちらも良治の好物。

　ご機嫌な様子で食べながら、迷宮スマホを使い掲示板を読みだした。

雑談スレ part34

626 名前　名無しの迷宮人

もう、係長とか槍派遣は4階に突入したかな？

627 名前　槍の派遣社員

槍派遣で止めるな！

社員つけろよ！

628 名前　名無しの迷宮人

噂をすればなんとやら。

>>627

お前、クビでも良いとか言ってたじゃないか。

629 名前　槍の派遣社員

それとこれとは別だろ！

社員であることには間違いがない。

630 名前　名無しの迷宮人

正社員になろうぜ？

631 名前　名無しの迷宮人

派遣から正社員になるのは結構難しいぞ。

病欠も駄目。残業は当然やれ。実績もあげろ。アイディアも出せ。

うちはこんな感じだ。

632　名前　名無しの迷宮人

>>631

嘘だろ？　うちは1年ほど勤めあげれば社員採用の話がでるぞ。

633 名前　名無しの迷宮人

現実の話はやめろ！　今はゲーム中だろ！

634 名前　名無しの迷宮人

テストプレイというお仕事中だけどな。

635 名前　名無しの迷宮人

神様がゲーム作ってどうすんだよって話だ。

このピーな神のいう事は、何一つ信用しない方が良いぞ。

それより、新しい情報をくれ。

槍の派遣社員は4階に行ったのか？

636 名前　槍の派遣社員

いや、今度こそ魔法が欲しいから、係長の確定情報まち。

２階と同じミスは繰り返さない！

637 名前　名無しの迷宮人

見つかると良いな。

638 名前　名無しの迷宮人

その係長は、いま掲示板にいないのか？

639 名前　槍の派遣社員

来ないな……

オニギリでも食べてるんじゃねぇか？

640 名前　名無しの迷宮人

え？

641 名前　名無しの迷宮人

ちょい待て。何言ってんだ？

642 名前　名無しの迷宮人

裏技でもみつけたか？

643 名前　467

>>639

お前、俺達を裏切るつもりか？

644 名前　槍の派遣社員

>>643

何でだよｗ

もしかして、お前らアンパンのままか？

俺の所、オニギリが用意されていたぞ。

645 名前　Ｒ

あ、それ俺もです。

全員一緒かと思っていました。

646 名前　名無しの迷宮人

なんてこった！　ついに係長まで裏切った！

647 名前　R

いや、どうして裏切りに？？？

648 名前　名無しの迷宮人

>>647

男どもは、遊んでいるだけですから、生真面目に受け取らない方が良いですよ。

649 名前　名無しの迷宮人

係長さん。

オニギリ以外の新情報ってありませんか？

あと、スラッシュの位置を教えてもらえることって出来ます？

650 名前　名無しの迷宮人

槍の派遣社員がきてから反応が早くなったな。

651 名前　名無しの迷宮人

新情報を待っていた連中だろ。

俺も気になるから、教えてくれれば有難い。

652 名前　R

新情報は無いですね。

スラッシュは、階段を上って右側の壁に沿って歩けばすぐです。

俺の場合、その前に戦闘があって盾が壊れました。

653 名前　名無しの迷宮人

盾が壊れた？

係長って片手剣だろ？　盾無くても戦えた？

654 名前　Y

大丈夫ですか？

655 名前　R

>>654

大丈夫だよ。完全に壊れたのは戦闘終了後だったので。

スラッシュ入手後は結構楽になったし。

あの剣欲しかったな……

656 名前　槍の派遣社員

やっぱり剣を欲しいって思ったのか。俺だけじゃなくて良かった。

槍ばっかりでなくて他の武器も使ってみたいよな。

657 名前　名無しの迷宮人

剣と防具装備済みのコボルトだっけ？

ゴブリンの方は棍棒残すのに、そっちは残さないとかズルイ。

槍の派遣社員は棍棒で我慢！

658 名前　名無しの迷宮人

と言いつつ、誰も棍棒を使ったという報告をしないな。

めちゃくちゃ重いから無理もないけど。

659 名前　名無しの迷宮人

あれ、おかしいだろ。

大剣使いの俺だって重くてまともに使えなかった。

660 名前　R

また忘れてた……

それで思い出したんですけど、最初は両手で持たないとキツイと思った片手剣が簡単に振り回せています。なんだかオカシイぐらい筋力がついたような感じなんですよね。

661 名前　名無しの迷宮人

筋力の方は、たぶん、この迷宮がゲームだからだと思う。

俺ハンマー使っているけど、初日はとんでもなく重かったのに、2日目はそうじゃなかった。

気になったんで、現実の方でバーベル上げしてみたが前と変わらなかったんだよな。

だいたい筋肉痛感じた奴いる？　そこからオカシイと思わないか？

662 名前　名無しの迷宮人

オカシイと言えば、ゴブリンとの戦闘に慣れる速度だ。

1、2日もあれば慣れるってオカシクないか？

なんだか、尋常じゃない速度で俺達って成長している気がするんだが？

663 名前　名無しの迷宮人

>>662

分かる。

もし現実だとしたら、こんなに早く慣れないと思うんだよな。

やっぱりゲームなんだろうか？

664 名前　Y

係長。4階の方どうしますか？

665 名前　R

地図完成させたらチャンレンジするつもり。

666 名前　Y

分かりました。なら、私も急ぎますね。

667 名前　名無しの迷宮人

ん？

668 名前　名無しの迷宮人

つまり？

669 名前　名無しの迷宮人

Ｙさんもっと具体的に！

670 名前　係長になりたい杖男

お前ら、467のようになりたいのかよｗ

普通に考えて、この2人は一緒の方がいいぞ。現実の方で騒ぎになっているんだからさ。

671 名前　名無しの迷宮人

>>670

言っている事は同意できるが、名前おかしすぎるだろ……

杖術士でいいんじゃないのか？

672 名前　名無しの迷宮人

ＰＴって何人まで可能なんだろうな？

それで争いが起きそうな気がするんだが。

673 名前　名無しの迷宮人

早い者勝ち！

って感じだろうから、みんな4階突破目指し始めているんだよ。

俺達も頑張ろうぜ。

674 名前　名無しの迷宮人

おうよ！

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

　敵との実践経験を積みながら進むと、また宝箱を見つけた。

　3階で宝を見つけたのは、これで2つめ。

　今度は何だろう？　と近付き無警戒に開けてみる。

「よし……」

　中に入っているのは、見慣れた羊皮紙だった。

　それが魔法なのかスキルなのかは、まだ不明だが見慣れたものが入っていたという事に頬が綻んだ。

「今度は……」

　羊皮紙を手にしてみると、頭の中に風牙(ウィンドカッター)という魔法が思い浮かぶ。

　イメージした地点から風の刃が無数に発生し、敵を切り刻むという魔法。

　1度に出現する刃は複数だが、威力そのものは弱い。薄皮一枚を切りつけるという感じのようだ。

（牽制ぐらいには使えるか？　でも、スラッシュ一発で片が付くし今の所不要かも？　……先々の事は分からないけど）

　入手したばかりの魔法をそう判断すると、目にしている宝箱を凝視した。

　『え？　まさか……』と言っているように見えたようだが、試す気にはならない。

　威力そのものは弱いようであるし、水弾でも破壊できなかった宝箱に試した所で多少浮き上がる程度でしかないだろう。そう判断した。

　しかし、良治の手が宝箱に伸びる。

　すでに1箱入手しているが、アイテムポーチには余裕がありすぎる。役にたつかどうか不明だが、とりあえず持っておこうとポーチの中へと突っ込んだ。

（これ売れれば良いのに。材質が良く分からないけど高く売れる気がする。それで日本円がもらえたら問題がありそうな気がするけど……）

　そんな事を考えながら、宝の位置を地図に記す。

　報告すれば槍の派遣社員が喜ぶだろう。そう考えると口角が緩んだ。

（もう少し探索してから報告……って、またかよ）

　ヒタヒタと2匹のモンスターが歩く足音が、壁を挟んだ先から聞こえてきた。

　このまま黙っていれば通り過ぎる可能性もある。それでも良いが……と思った時、ピンと閃きが走った。

（もしかして……）

　足音が聞こえる先を見つめる。

　目を閉じ、大体の位置を見当づけた。

　たぶん、この辺りを歩いているのだろうと見当をつけ「風牙(ウィンドカッター)」と唱えてみる。

「グルゥウ――！！」

「ギェ！？」

　コボルトとゴブリンの声が同時に聞こえた。

　命中したのか、あるいはまったく見当違いの場所に発生したのか分からない。確認する為に壁の向こう側へと進んだ。

　回り込んでみると、そこには腰布をつけたゴブリンだけが立っていた。コボルトはどこかへ逃走したよう。血の跡が残っている。

「キシャアア―――――――！！」

「風牙(ウィンドカッター)」

　自分へと威嚇の声をだすゴブリンに対し2発目を放つ。

　風がゴブリンの足元から発生し、全身を切り刻み青い血で体を濡らした。

　さらに、

「火球(ファイアーボール)」

　立ち尽くしたゴブリン目がけて追い打ち攻撃。

　その一発がゴブリンの胸元に命中すると、小規模な爆発を起こしブスブスと火と煙が発生。

　一方的な勝利。そう言ってしまって良い結果となった。

（……戦ったという気が全く無いな）

　肉を切る。間近で流れる血を見る事や、鼻につく匂い。

　そうした嫌なものが全く感じられないせいなのか、命を絶ったという感覚が無かった。

　スラッシュで2匹まとめた時も手ごたえが全くなかったが、今度は魔法のみで同種の結果を出してしまう。

（魔法も使い方次第って事だろうか？　扱い方次第で攻撃手段が増えるかも？　……火、水、風……何かないかな？）

　少し考えたくなり、休憩所を出し中へと入った。

　風牙の発見について掲示板で報告すると、予想どおり槍の派遣社員が拾いに行ってくると書きのこし消えた。

　良治は少し魔法について考えてから、残された未探索地区へと足を向ける。

　4階はボス戦だ。

　その前に少しでも出来る事を増やすため、敵と遭遇した際に思いつく限りの事を試し始めた。