力を求めて
最終章の開始です。
良治達が管理者に選択を伝えて3日ほどたつ。
その間に、剣術士達は竜の尻尾を入手し、中断したままであったイベントを進め始めた。
新たにドラゴンを討伐できたプレイヤー達も出現し、爪術士をリーダーとした新たなPTが出来上がったようでもある。
そうした報告が続く間に良治達が何をしていたのかと言えば、17階での探索のみであった。
「ここも駄目だったか」
「諦めずに次にいきましょう」
「……あぁ」
洋子にそう返した声に力がない。
リング・シールドを発見できたような大きな建物を見つけることが出来たはいいが、期待外れに終わったからだろう。
彼等が管理者に挑まず17階の探索を続けている理由は簡単だ。
人数制限の解除によって予想できた戦力不足もあるが、少年が操るキャラの反則的な強さを身をもって知っているからだ。
少しでも対抗できる力を求めて探索しているわけだが、これといった成果が出ない日々が続いている。
(このまま何も見つからなかったらどうする?……いや、有るかどうかも分からないものに頼るより……)
「敵だ! 構えろ!」
考えごとをしていると、徹の声が聞こえた。
思考を切り替え、剣を抜く。
身構えながら、姿を形成しおわった火竜の姿を目に入れた。
多少遅れはしたものの、問題というほどでもない。
指示らしきものは一言も出さず、水竜へと向かう。
正面へと立つなり、一発のスラッシュを放つ。
パワーこみではなく通常のスラッシュ。
それも近距離ではなく、中距離から放ったもの。
ダメージと言えるだけのものは与えられていないが注意だけは引けたらしい。
良治がそうした動きをすることは知っていたかのように満が動く。
水竜の注意が彼に向かうと、その背に回りこみパワーを開始。
満が攻撃準備を始めると、一足早く火竜の始末を終えた徹がやってきて、彼もまた攻撃に加わり始めた。
数回の攻撃を加えたあと水竜の悲鳴があがる。
地に倒れ、その姿を消すと満が毒づいた。
「チェッ。係長に仕事をとられたぜ」
「誰がやってもいいだろ。それより次だ」
「へいへい」
言葉は不満じみたものであるが、その声から冗談半分だという事が分かる。
少し毒づいた満を徹が連れ、土竜と戦っている香織のもとへと向かった。
良治はその場で周囲を見渡すが、動こうとはしない。
応援が必要そうには思えなかったからだろう。
(強くはなれた。余裕をもって勝てるようにもなった。だけど……)
良治は、どうしても拭えない不安を抱えたまま、地に落ちてきた風竜の姿を目にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼の休憩後、徹が一つの提案を出してきた。
「二手に分かれる? 4竜を相手にですか?」
彼が出してきた提案は、今以上に強くなるためのもの。
それは分かるが、賛同できるかどうかはべつ。
判断に迷っていると、今度は洋子が意見を言い出した。
「やるにしても早すぎませんか? せめて17階の探索を終わらせてからの方が良いと思いますよ」
「危険だからか?」
「はい。戦闘をするだけならともかく、調査をしながらでは厳しいと思います」
洋子の考えを知った良治は、肯定するように小さく頷く。
徹の考えが悪いというのではなく、時期尚早だと言いたいのだろう。
洋子が言う通りだと判断し、徹の提案は17階の探索が終わってからにしようという結論を出した。
そのまま午後の探索を開始し、小一時間ほどたったころ、代わり映えのない建物の中で宝箱を1つ発見。
「ありましたね!」
「……もう無いかと思っていたよ」
「1つだけってことは羊皮紙っすかね?」
「まずは、鑑定じゃない?」
香織の言う通りだと鑑定虫眼鏡をとりだすと、背後から須藤の声が聞こえた。
「いいんすか? 銀の鍵でも十分っすよ?」
「使う機会が他にあるのかどうか分かりませんから」
「あぁー…そうっすね」
何の話をしているのだろうと後ろを振り向いて見ると、紹子の手に黄金の鍵が握られている。アランダから購入できた鍵を一度も使った事がないため、それを使ってほしいということなのだろう。
紹子が言いたいことを須藤は理解したようで、黄金の鍵を手にもち宝箱へと近づいた。
宝箱があるのは、おそらくこの17階が最後。
何かの確証があるわけではないが、そうした共通認識が彼等の中にある。
特別これといった問題もなく罠の解錠に成功。
銀の鍵が無くてもこのゲームはクリアができると管理者が言ったのは、この鍵の存在があるからだろう。
自分の記憶を掘り起こしながら鑑定してみると『バランス』という文字が表示された。
「魔法じゃなくてスキルか?」
「そうだと思いますが……バランス? とにかく覚えてみませんか?」
「……だな」
その名前だけでは効果が分からない。
手を伸ばし習得してみたが、浮かんだイメージを見ても意味が分からなかった。
「どうしました?」
「……いや、これは何だろ? どう言えばいいんだ?」
良治の頭の中に浮かんだイメージ。
それは、フラフープのような輪が周囲にできあがり、その輪から白く光る線がでている光景であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バランスというスキルを習得したはいいが、どのようなスキルなのか不明。
イメージは浮かんでも、それが何を意味するのか分からなく、彼等は19階へと戻り実験を開始していた。
「バランス」
良治がスキルを使用すると彼の腹部を中心とし周囲に光の輪が出来上がるが、イメージにあった白い線がない。
「次は私が……」
次いで洋子がやってみると同じように光の輪が出現し、白い線が伸びていく。
それと同時に良治の周囲に出現していた輪からも同じ線が伸び始め、二つの線が繋がった。
「……これだけってことはないよな?」
「それは無いと思いますが……」
すでに分かっていたことを改めてやっただけであり、この先が分からない。
さらに仲間達が次々と輪を作り出していくと、彼等全員の輪が全て白い線によってつながっていく。
「……この状態で魔法やスキルを使ってみませんか? もしかしたら、パワーと同じようなタイプかもしれません」
そして、試行錯誤の連続が始まることになった。
試しに水弾の魔法を使ってみる。
変化が見てとれない。
次に火球の魔法を使ってみる。
同じように何も変わらない。
スラッシュは?
ジャンプは?
パワーはどうだ?
フリーダム+ジャンプはどうだろうか?
……だが、何も変化がなかった。
それぞれの位置が離れても、白い線が伸びるだけ。
輪は消えるということもなく、彼等の周囲に出現したままだった。
「なんだ、このスキルは?」
「あとは防御系や回復系の魔法ですかね?」
「固有スキルや融合魔法もあるな。まぁ、やってみよう」
そうこう話している間に美甘が土鎧を自分へとかけた。
しかし、これも通常どおり。
次いで闇鎧、さらに金剛鎧もかけてみたが、普段と変わらない。
「光陣はどうだろ?」
「何でもいいので試して……」
洋子が良治にそう言いかけた時、全員の頭部にポワっとした薄い光が現れ、すぐに消えた。
「……今のは?」
「回復魔法の光だったな?」
「おー これか!」
「満君がやったの!?」
「ハハハハ。みつけたぜ!」
「マジか!」
満に一気に注目があつまり……かけたが、すぐに彼から目を離し全員が試しだす。それぞれ適当な場所に手をおき回復魔法をかけると、全員の体が眩い光に包まれた。
「おぉ!?」
「回復魔法の全体化が可能になる? 徹。そういうことよね?」
「……おそらくな。だが、何故バランスという名前なんだ?」
「わかんねぇけど、これはこれで便利だろ?」
「そうなんだが……」
腑に落ちない。
そう言いたそうな顔をしているのは徹ばかりでは無かった。
更に調べるために手当たり次第にやっていると、突然フラフープのような輪が消え、全員が同時に膝をつきはじめる。
「これは……」
ソレは魔力きれによる症状。
意識を手放したくなるほどの強い目眩が彼等を襲った。
即座に魔石を手にし、魔力回復に努めだす。
「みんなも?」
「偶然……ではないな。つまりそういうことか?」
「あー…なんか、分かったっすね。これって、アレっすよ」
徹と須藤は理解したようだが、上手く説明出来ないようす。
洋子は顔を伏せ一人でブツブツと呟き始めている。
尋ねたくもなったが、集中しているようなので他の仲間達を見てみた。
少し遅れたが満も理解したようで、美甘に向かってニヤニヤとした意地のわるそうな笑みを向けている。
その美甘がムっと唇を尖らせると、彼の笑み具合がさらに増したが、美甘が閃いたような表情をすると、一緒になって喜び始めた。
香織は少し悩んでいた。
だが彼女も理解はできたのだろう。
いつもであれば須藤が教えはじめるが、今回は自分で把握したらしい。
紹子はあまり考えず、徹に聞いていた。
彼女に説明するために、徹が言葉を選びながら話し始めた。
「……つまりバランス……平均化される。ということなんだろう」
「魔力が?」
「いや、回復魔法が全体化されたということは体力も関係していると思う。両方……他にもあるかもしれないが……とにかくこのスキルで繋がっていると、そうした所が平均化され続けるんじゃないか?」
「……それって、何かに使えるの?」
聞いていた良治も紹子と同じようなことを思った。
今までとは少し違う感じのスキル。
何かに有効利用できそうに思えたが、どういう場面で使えるのだろう?
良治なりに考え出した時、
「これは……神スキルかも!」
そんな声をだし、良治が思う『楽しそうだな~』という笑みを見せながら洋子が振り向いた。