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信頼されている(?)予想スレ

 解雇処分の話は無くなった。

 それは良かったと思う良治達であったが、話しづらい雰囲気のまま会社を出てしまう。


「……まぁ、解雇処分が無くなって良かったな」

「は、はい! 結婚がなくなりましたよね!」

「……」

「――あっ」


 駅へと向かう歩道を歩いている最中、先ほどまでとは少し違う空気が作られる。

 自分で何を言ってしまったのか理解した洋子が、気恥ずかしそうに顔を背けた。

 その仕草が可愛らしく良治が肩をふるわせると、洋子の頬が面白いように膨らんでしまう。


 周囲の視線もあるため笑い声を上げることだけは必死に堪えきり思う。


(結婚かぁ……)


 自分は独身を貫くだろう。

 彼はそう思い込んでしまっていた。

 友人知人の結婚式に出る事はあっても、そこに自分をイメージすることもない。

 こうなる自分を予想できなかったためだろう。

 もう少し友人達から詳しい話を聞き、頭の中にいれておくべきだったなぁ……っと、若干の後悔中。


(いくら何でも早いと思うが、もしプロポーズをしたら受けてくれるだろうか? その時は、洋子さんのご両親に……あっ)


 大事なことを思い出し、立ち止まる。


「良治さん?」

「……今日だった」

「今日? 何がです?」

「須藤君が……その……香織さんの父親に呼ばれて……」

「???」


 何の話かさっぱり分からない洋子が、須藤と香織の父親について知ったのは、その後すぐの事であった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 何がどうしてこうなった?

 この言葉を心の内で呟いてしまうのは良治ばかりではない。


 土曜の夕方。

 会社から帰宅途中の香織が、とある道場へと寄った。

 そこは彼女の父親が近所の子供たちの為に管理している道場であり、香織が寄ったのは少しだけ鍛錬を積もうと考えたため。

 この時間ならば父親以外はいないはずなのだが、見慣れた人物の姿があった。


「どうして、あなたがいるのよ!?」

「車で、きたっす」

「そういう意味じゃない!」


 いたのは道着姿の須藤。

 上着を脱ぎ肩と背中に湿布薬を貼っていた。

 彼の前におかれている救急箱は道場主である香織の父親が用意したものだろう。

 その父親がどこにいるのかと探してみると、奥の方からタオルを首に巻きつけ出てきた。


「そう大きな声をだすな」

「父さん!」


 香織の声を聞いて来たのだろう。

 その男は、香織を見るなり溜息交じりに言った。


 男の名前は久遠 大吉。

 本職は香織と同じ会社の営業。

 新規の会社へと出向けば、その体躯の良さや似合わないスーツ姿のせいもあり、嫌な意味で注目されることもしばしばある。


 その父親に香織が足早に迫りかけた時、須藤が呆けたように言う。


「スーツ姿もいいっすね……」

「うるさい!」


 言い捨てるように須藤を一喝しつつも、香織の足が止まらない。

 板張りの壁に肩をつけ立っている大吉の傍に近づくと、彼女は締め付けるような擬音すら聞こえてきそうな目つきで睨んだ。


「どうして須藤君がここにいるのよ!」

「俺が呼んだ。管理者について聞こうと思ってな」

「そんな嘘が本気で通じると思う?」

「本当だぞ? そうだろ、須藤君」

「……あー そうっすね」


 躊躇いなく聞かれた須藤が肯定するが、その前に少しの間があった。

 香織が更に怪しむが、管理者について『も』聞いたのは確かだ。

 だが、その質問というのは姿や性格についてのみ。

 香織に聞けばいいような事を、わざわざ須藤と会って聞いている。

 その後は香織についての質問が続き、その結果が須藤の体にでていた。


 何故こうなったのかは須藤も良く分かっていないのだが、それでも香織にジロリとした冷たい眼差しを向けられている。迷宮で見せるものとは凄みが違い、彼女にとって触れてはいけない領域だったことだけは確実なのだろう。


「あなた本当になんなの? どうして、ここまでするわけ?」

「……」


 睨まれつつ言われた須藤の目が、ここまですることになった原因へと向けられる。しかし、その原因であるはずの大吉は我関せずとばかりに明後日の方向を向いていた。

 派遣会社の担当に要領が良いと評価されている須藤は、状況を理解。

 このピンチは、自分で何とかしなければならない案件なのだと。


「……香織さんと一緒にいたかったんすよ」


 とぼけたような口調と顔つき。

 香織の表情が、さらに険しくなる。

 派遣会社の担当者は、須藤のことを過大評価しているのかもしれない。


「今すぐ帰りなさい。いいわね!」


 言い切り2人に背をむけると、彼女の長く伸びた髪が軽やかに浮き背におちた。

 須藤の肩から力が抜けたのは、彼女が玄関口から出て行ったあとのこと。


「……で、どうする? 帰るか?」

「一晩ここに泊めてもらってもいいっすか?」

「構わないが……そこまで痛むか?」

「運転のことを考えて、一晩様子を見たいだけっすよ」

「なるほどな……まぁ、好きにしたらいい」

「じゃあ、お言葉に甘えて……あっ。来週も来ていいっすか?」

「来週? ……なんだ、懲りていないのか?」

「……むしろ助かるっす」


 その一瞬。

 須藤の顔つきがかわったが、次の瞬間には普段どおりの彼に戻った。


「土曜ぐらいなら付き合ってやる」


 不愛想な態度で大吉が返事をすると、彼はそのまま道場から出ていく。

 一人となった須藤は、そのまま白いマットの上に背を倒し、古めかしい天井をみあげながら、ニヘラとした笑みを浮かべた。


(やっぱ強いわ……ちょっと鍛えたからって本物に勝てるわけねぇよな……まぁ、でも……ちょうど良かったか?)


 浮かび上がったばかりの彼の笑みが止まったのは、肩にズキリとした痛みが走ったから。その瞬間だけは彼の顔から薄ら笑いが消えたが、すぐにまた嬉しそうに微笑んだ。


 須藤が道場内で寝転んだころ、外にでた大吉は立ち止まり自分の道場を見ていた。そこにいるはずの須藤のことを頭に浮かべながら、彼との手合わせを思いだす。


(経験だけは十分なようだが、動きが鈍いな。香織と一緒にいる連中も同じなのか?)


 大吉は何も言わず須藤に道着を渡した。

 その時点で何をしようとしているのか察しぐらいはついたかもしれないが、それでも迷いというのは出るもの。


 だが手を合わせ始めてみると、それが全くといっていい程なかった。

 大吉にとって予想外であり力を入れ過ぎてしまったわけだが、須藤の体は彼の実戦経験についていくことができず、その結果が彼の体にでている。


(しばらくは様子を見てみるか……どこまで続くのかは知らんが)


 そう思いながら道場に向けていた目を戻す。

 自宅への帰路を歩き始めると、彼の顔が緩み始めた。

 その表情は、何か面白いものをみつけたかのようである。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



――現実にある過疎ってしまった掲示板。


俺達の予想は外れてばかり! ベーシックダンジョン(仮)予想スレ part75


1 名前 名無しの予想人

 このスレは神を名乗るものが作ったベーシックダンジョン(仮)というゲームの先々を予想するスレ『でした』。

 今までの情報から先々を予想して、ピーな神を悔しがらせてやろう的なものでしたが、今では予想スレの『逆張りをした方が当たる』ともっぱらの評判となってしまったスレです。

 俺達は負けたんだ……それを認めて次のステージに進もうぜ。


……

……


78 名前 名無しの予想人

保守


79 名前 名無しの予想人

保守


80 名前 名無しの予想人

もうやめろよ。

このスレッドはいらねぇだろ。


81 名前 名無しの予想人

そう思うなら、お前も書き込むんじゃない。

つい、見にきちまったじゃないか。


82 名前 名無しの予想人

また何か外れる予想がされたのかと思ってきてみたら……


83 名前 名無しの予想人

20階に到達しても終わりじゃないっていう予想は当たっただろ!


84 名前 名無しの予想人

アレを予想といっていいのかどうか疑問だ。


85 名前 名無しの予想人

まだだ。

まだ俺達は管理者に負けていない。

報酬について予想できるやつはいないのか!


86 名前 名無しの予想人

ことごとく外れている時点で敗北は決定済み。

スレのテンプレにも書いてある。


87 名前 名無しの予想人

そのテンプレは、スレの総意じゃない。


88 名前 名無しの予想人

過疎スレでスレの総意とか言われてもなぁ……。

だいたい、次のステージってなんだよ。


89 名前 名無しの予想人

俺が一つ予想してやろう。

これが正解したら、このスレの勝利な。


90 名前 名無しの予想人

なぜ勝利になるのか知らないが、ネタになるようなら総合スレでも受け付けてやるぞ。


91 名前 名無しの予想人

どんだけ……


92 名前 名無しの予想人

総合スレ民ならしょうがないね。

なにしろ総合スレだしね。


93 名前 名無しの予想人

変なのがいるようだが、俺の予想は報酬についてだ。

金銭的なものが関係してくるという話だし、俺は正式サービスの運営権限か、あるいは、その参加資格的なものだと思う。


94 名前 名無しの予想人

逆張りが正解ということは、正式サービス開始は無いな。

はい、解散。


95 名前 名無しの予想人

管理者って本当に神なんだろ?

それなのに、ゲームの正式サービスを開始してどうすんだよ。

むしろ、人間以上の存在にしてくれるとか、そういう方向じゃないか?


96 名前 名無しの予想人

進化みたいな?

ベーシックダンジョン(仮)はその権利を得るための、試練だったとかそういう感じ?


97 名前 名無しの予想人

被害者達にゲーム運営をさせて、どうすんだよって話でもある。

それに比べれば、進化とかそういう感じのものの方がシックリくるかな?


98 名前 名無しの予想人

進化して金が手に入るのか?


99 名前 名無しの予想人

そりゃ人間以上になったら、金なんかどうとでもなるだろ。

というか、クリアしたプレイヤー達だけでゲーム運営とか無理すぎる。

そっち方面の専門知識があるやつならまだしも、そうでない奴らの方が多いんじゃないか?


100 名前 名無しの予想人

大事な事を忘れているな。

管理者は神だ。

だったら、専門知識だけではなく施設ごと与えることもありえる。

進化とかの話よりも、そっちの方が現実的だ。


101 名前 名無しの予想人

それって現実的なのか?


102 名前 名無しの予想人

知識や施設をもらったからといって運営ができるだろうか?

進化の方も、いきなり言われても怖いだけじゃないかな?


103 名前 名無しの予想人

まぁ、プレイヤー達は解放されたいだけだからな。

そんなのを報酬にされても困るだけだろう。


104 名前 名無しの予想人

だったら、売ればいいだろ。

運営できるだけの施設だろうが、権限なんかも売れるきがする。

進化の方だって、その権利を誰かに売却できるかもしれない。


105 名前 名無しの予想人

なるほど!


106 名前 名無しの予想人

何が「なるほど」だよ。

久しぶりに書き込むやつが増えたかと思えば、また外れそうな予想しやがって!

これでまた、このスレの逆張りが正解だって言う奴が増えるじゃねぇか!


107 名前 名無しの予想人

お前ら神を目にしておいて、よく平然としているな。

何か思うことはないのか?


108 名前 名無しの予想人

最初は驚いたし、怖くもあったぞ。

世界が大きく変わるかもしれないという期待感は少しあるけど、俺らが思い悩んでからといって何かが変わるってわけでもないだろ。


109 名前 名無しの予想人

総合スレではパニック状態になってからすぐに止まっていたけど、今じゃあっちも平常運転になってたな。


110 名前 名無しの予想人

こっちは別の意味で止まっていたけどな。


111 名前 名無しの予想人

もう逆張りが正解というスレタイでもいい気がしてきた。


112 名前 名無しの予想人

この予想の逆張りってなんだ?


113 名前 名無しの予想人

さぁな。

一つ言えるとしたら、ここで予想されたことは不正解ってだけだろう。


114 名前 名無しの予想人

信頼性ゼロのスレはここですか?


115 名前 名無しの予想人

いえ、ここほど書かれたことが外れるスレはありません。

なので、ある意味信頼できるスレです。

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