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(はぁー…迷宮の方でも俺と洋子さんの関係が疑われているのか……おかげで、剣を簡単に振り回せている事言いそびれた。皆はどうなんだろう?)


 片手剣を持ったまま軽い足取りで考えていると、邪魔するかのように聞きなれた声が響いた。


『ぴんぽんぱーん。はーい、お久しぶり。土日はゆっくり休めたかな? 今日からまた5日ほど迷宮でしっかり仕事してね。まぁ、ゲームテストするだけだけどね! アハハハ。ここ笑ってもいいよ?』


(だから、笑えないって)


 声が聞こえてくる途端、気分が最悪になる。

 子供。あるいは少年のような声と口調。

 完全に自分達を見世物にしているかのような言葉。

 どこをどう笑えばいいというのだと、不機嫌になるのは良治ばかりではないだろう。


『さて、本日の業務連絡なんだけど……驚くなかれ! なんとヌンチャク課長が4階へと到達! 僕もびっくりだよ! まさか、あんな状態でボスに挑むなんてね! ……あ、教えちゃった。僕ってうっかりさん』


(ボス?……って、いるのか! じゃあ、それ倒せば終わり? おぉ!)


 剣を握りしめ、抱いていた不機嫌さが一気に消えていくが、


『もちろん4階のボスを倒せば終わりじゃない。それぐらいは分かっているようだね。さすが僕が見込んだ人達! まぁ、選択は適当だったけど!』


(……おい)


 良治の内なる声は、果たしてどちらなのか?

 終わる事を喜んでいたのに、それがあっさりと覆された事に対する憤りなのか?

 それとも、ランダムに選ばれた事に対して?

 両方という線が濃いだろう。


『と、言うわけで皆さん3階へと……ってはならない。さすがに、まだ戦闘方面で不慣れなテストプレイヤーが多いからね。僕だって、意地悪したいわけじゃないんだ。ああ、でも……』


(今度はなんだ? また嫌がらせか?)


 今までのパターンからすれば、自分達が嫌がる事を喜々として言い出すんじゃないだろうか? と予想してしまう。


『社長さん。君は例外だ。本当に何もする気が無いね。休憩所にいる間の分は日給から引かれているはずだけど気付いていないのかな? それとも金なんかどうでもいい?』


(そういえば、前に死んだ時も減らされていた気がするな。昼休み休憩とか金でないのが普通だし、気にもしてなかった……)


 詳しく計算していなかった事から、良治も言われるまで気付いていなかったようだ。

 引きこもり時間が長いプレイヤーはすでに気付いているのだろうが、良治はそういった話を目にしたことが無かった。


『テストしてもらわないと、僕としても困るんだよね。君のようにサボりまくる人が増えてきているし、休憩所の利用に制限時間を付けさせてもらおう。1日3時間って所が妥当かな? あと、今日は勘弁してあげるけど、君だけは明日から3階コースだ。この先……あれ?』


(うん? 急にどうした)


 いきなり言葉を止めたことに疑問を覚える。

 なにがどうした? と待っていると、


『……嘘。もう、倒したの? 一発チャレンジで成功? 信じられない。ここまでスラッシュって凄かった? ……あ、もしかしてバランス設定間違えた? マズイな……調整しなおさないと』


「おい! お前、何をしようとする! やめろ!」


 嫌な予感が的中しそうになり、思わず大声を出してしまう。


『……いや、やめよう。もう入手している人がそれなりにいるしね。まいったな。これじゃあ、3階にきてスキル取得したら難易度変わるじゃないか……ああ、そうだ!』


(なんだ、今度はどうした! 妙な事考えるなよ!)


 薄暗い洞窟の中で剣をブンブンまわしながら、そんな事を考えている姿は少し滑稽に見える。


『えーと、実は、誰か1人が5階に到達したら、迷宮スマホにPT募集というものを追加する予定だったんだよね。だけど、これを変更します! 5階に到達した人のみが募集でき、なおかつ5階以上にいる人達としかPTを組めない事にします。うん。これなら大丈夫! 僕ってかしこいね! さすが偉大な神様! 尊敬してもいいよ? あと、4階突破の課長さん。君5階にいったら時給700円ね。おめでとう! 以上業務連絡でした』


(尊敬はしない。そしてPT募集ってなんだ? そこ詳しく教えろ!)


 そんな思いは当然無視される。

 すぐに休憩し掲示板を見てみると、大騒ぎになっていた。

 PT募集の件も話題となっているが、社長のように引き籠っていた連中が多いらしく、不満や文句が一気に書き込まれている。


(強制移動の次は休憩所の時間制限か……PT募集ってのは、別の迷宮の人達と組めるってこと? 色々やってくるな、この拉致神は……)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後も探索を続ける。

 12:00になる前に、何度か出現するゴブリンとコボルトのペアを順調に撃破。2階での難易度が嘘のようで、本当に雑魚のように思えてならなかった。


(地図も順調だし、あとは宝箱がないか気になるところだ)


 この時点で、3階の地図が4割ほど出来上がっていた。2階の時と比べ、猛スピードでの速さだ。警戒しながら歩くという事が自然と身についているからだろう。


(……まてよ。3階にきて方向を間違えばスラッシュはすぐに手に入らないよな……これだけでも情報を流した方が良いか? 洋子さんのブログの方はどうしよ? このままなら、今日中に宝の配置が全部分かるだろうし……昼過ぎあたりに少し相談してみるか)


 うん。と一つ頷き、再度歩き出す。

 内心では今日中じゃなくてもいいと思いつつ、歩く速度が彼の心境を語るかのように早くなる。

 だが、そうした事によって敵との遭遇確率があがった。


「キシャ――――――!!!」

「グルルルゥウウ―――!!!」

「おっと!」


 曲がり角で遭遇し戦いが始まった。

 大体においてコボルトは、ゴブリンの後ろから襲ってくる。

 2体同時に出てくるというのに、一歩遅れてくるのは本能的な怯えからなのかもしれない。顔は狂犬さながらなのに。


 ただ、ゴブリンが攻撃をしかけると、その後少し遅れ連続攻撃を繰り出してくるのが厄介。


「スラッシュ!」


 剣を振るうとでる謎の衝撃波。

 ピーな神をもってしてバランス設定をしくじったと言わしめる威力。

 その一発でゴブリンの体全体が吹き飛ばされ壁へとぶち当たった。

 青い血を壁に付けながらズルリと落ちる様子を、剣を振り上げコボルトが見ていた。

 体を硬直させていると、そこへ良治の火球が放たれる。


「!?」


 放たれた魔法が皮の胸当てへと命中し、小規模な爆発によって皮の鎧が破れてしまう。もう消えるのは知っているのだから、遠慮する必要はない。


「グルルゥゥ……」


 コボルトが剣を床におとし、胸に手をあてる。

 弱った顔を見せるが、その口からは涎がダラダラ流れ落ちた。

 狂気じみた表情であるが、この時ばかりは哀れみすら感じさせると良治は思う。


 勝つことは出来る。

 先に進む事も出来る。

 スラッシュや魔法による止めが出来るようになって、嫌な感触を味わう事も減った。


 だが、モンスター達の最期を見るのが好きなわけでも無い。


 すり減る精神を休ませる為、少し早い昼休み休憩にはいる事にした。

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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