使い時
昼ぐらいまでに見て回った結果、1つの発見があった。
「カレーだ! 本当にカレーだ!」
良治達が見つけたのは、とある食堂。
一階建てのもので、あまり目立たない場所にあった小さな食堂であったが、そこにあったメニューにカレーの文字をみた時、良治は躊躇いなく注文。
彼の仲間達もそれぞれ気になるものを注文し、一つのテーブルで食事を始めていた。
「普通に美味いな……」
徹が頼んだのは餃子定食。
醤油やラー油の瓶もしっかりとテーブルの上にある。
「普通に美味いって変な言い方だけど、分かるわ」
隣に座る紹子が食べているのは、ミックスサンド。
彼女の隣には美甘がいてミートソーススパゲティを食べていた。
「美甘。それ美味いか?」
「普通? 満君のステーキは?」
「少し固いけど、いける」
満が頼んだのはステーキセット。
ファミレス等であるものと、ほぼ変わらない。
「ん? 洋子さんは、食べないのか?」
「いえ。少し考えごとをしていただけです」
良治にそう返し、目の前に置かれたオムライスセットを食べ始める。彼女が手を止めていたのは、良治がカレーを嬉しそうに食べていたのを見たから。
(さすがに温水プールにカレーはもっていけないしなぁ……何か方法は……)
自分で頼んだオムライスを口に運びながら、彼女はそんな事を考えていた。
須藤は、トンカツ定食のようだが、香織が頼んだエビチリ定食を気にしている。
一口といって箸を伸ばしては、香織に睨まれるという妙なやりとりをしていた。
この食堂には、他にも多種にわたった品々があるようで、この事を掲示板で報告すると『食堂というより、レストランかな?』と返された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
食後の昼寝を、街にあった宿で済ませる。
休憩所で休むと時給がもらえないのだから、こちらの方が良いという考えからだが、あまりいい部屋ではない。これなら休憩所のベッドで休んだ方が良かったかもしれないと思いつつ掲示板をみると、467達が固有スキルについて報告をしていた。
長刀術士のスキルは、オール・アップ。
自分の身体能力を10分間だけ上昇させるもの。
総合的な身体能力が上がるという点では徹のアルティメット・チェンジと似ているが、彼女の場合、副作用的なものは確認できていない。
その代わりなのか大幅にパワーアップするわけでもなく、また徹のようにスラッシュや魔法の威力変化などもない。単純に身体能力全般が上昇しているようで、消費する魔力量も少なめのようだ。比較的扱いやすいと本人が言っていた。
刀剣術士のスキルは、フォース・ウェポン。
発動と同時に、扱っている武器の分身を宙に4本出現させ操る事が可能。
効果時間は3分で、1度の発動で全魔力を消費。
魔法職が操る魔法とは違い、遠距離になれば難しくなるという欠点が無いが、個別に操るためのコツが必要なのは同じ。その為、練習時間が欲しいらしい。
当人は居合切りのようなものを望んでいたらしいが、全く違うものを習得。
その理由として数日前に見たロボットアニメの影響だろうという推測話もされた。
鎖鎌術士は、チェーン・バインド。
視認した敵の足に鎖が出現し、動きを封じるスキル。
1、2度使った程度では目眩がおきないらしいが、封じる箇所を選べないことや、有効射程距離(約1m)の短さ。そして鎖の強度不足といった欠点もあった。
聞いたプレイヤー達の意見は分かれたが、本人にとって一番の不満は別にある。
それは、このスキルを得た理由。
ドラゴン討伐を果たす以前に467の特訓を行っていたわけだが、その際逃亡を図ることが幾度かあったようで、それを鎖鎌術士が止めていたという。
その出来事が習得理由に繋がったとしか思えないようで、鎖鎌術士はそれが気に入らないようだ。
最後にその467だが、
「スキル・リンク?」
報告を見た良治が、どういう意味かと首をひねった。
具体的な内容を聞いてみると……
(使用した相手の固有スキルが、同じPTメンバーも使用可能に……えっ?)
良治が気付く前に、掲示板を見ていたプレイヤー達が騒ぎ始めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『俺のスキルは、かなり良いはずだ!』
467がそう言っていたなぁ……と、思い出す。
確かに凄いと良治は思う。
効果時間が5分だけであることや、一度の使用で全魔力を消費するとしてもだ。
彼の固有スキルは、他人の固有スキルをPTメンバー全員が使用可能にするもの。
例えば、刀剣術士のフォース・ウェポン。
このスキルをもつ刀剣術士に使用すると、全員が同じスキルを5分の間だけ使う事ができる。使用した場合、それぞれの武器が出現対象となるらしい。
「本当にびっくりしたよ。あんなスキルもあるんだな」
「全体効果があるものに対してはどうなるんでしょうね?」
「剣術士さんのがそうだったな。合流するようだし、すぐに分かると思う。もし効果が重複できればとか聞いている人がいたけど、可能性は高いと思うか?」
「分かりませんね。全員の守備力が一気にあがるでしょうし、そうなったらゲームバランスが崩壊するかも?」
「……あれ? もし俺のヘイト・シールドを全員が使えたとしてもバランス崩壊じゃね? 魔人にも余裕で勝てたりするかも?」
「そんなに都合よくいく? 満君のスキルが凄いのは分かるけど」
「お前、あのスキルを使っていても消されただろうが。忘れてんじゃねぇよ」
「……あんなのチートだろ。何で俺だけ消されたんだよ……」
揶揄われたことで気分を害したのか、満が不機嫌そうに愚痴ると、須藤が彼の首に腕をまいた。
「お前のスキルだって大概チートだろうが。使い時さえ間違わなければ、それでいいんだよ」
「……雑魚用って言いたいのか?」
「知るか。自分で考えろ!」
「――ッ! この!」
「ブッ!」
まいた腕に力をいれて満の首をしめはじめる。
すると満の肘が須藤の腹にはいった。
二人の間でジャレ合いが始まるが、誰も止めようとはしない。
見慣れた光景になってしまっているからだろう。
(使い時か……467さんの場合、その辺りが特に難しそうだな)
長刀術士のオール・アップや、鎖鎌術士のチェーン・バインドならば良い。
だが、刀剣術士のスキルの場合は違う。
当人すら扱うのが難しいスキルを使用可能にされても困るだけだ。
467の固有スキルは1発で全魔力が消費するのだから、そんなことをされたら魔石で魔力回復するまで戦力の減少にしかならない。
誰の固有スキルであっても使い時というものがあるだろうが、467の場合は特にそれがあるように思えてならなかった。
(……って、467さんのことを気にしている場合じゃないか。こっちも頑張らないとな)