条件が満たされていない
――徹が用意した現実のチャットルーム
名無しの支援者:
でも力負けしてやられちゃったと……。
その後は?
弓術士:
後は……ボロボロでしたね。
私達が駆け付けた時には遅く、Yさん達までやられてしまい立て直す事も無理でした。
大剣術士:
あれは異常だ。
やはり18階で達成しておかなければならない何かがあったんだろう。
棍術士:
それが分かっていたなら、挑む必要は無かったんじゃないか?
大剣術士:
それは思ったが、どの程度の敵なのか知っておきたかった。
でないと何が必要なのか分からない。
棍術士:
それで分かったのか?
大剣術士:
……いや、駄目だった。
467:
お前……w
いつもの冷静さは何処にいったんだよ。
弓術士:
誤解しているようですけど、大剣術士さんは元々こういう人ですよ。
管理者を引きずりだすために、あんなことをした程ですからね。
大剣術士:
それを言われると弱い……
棍術士:
係長達の影響を受けての挑戦かと思ったけど、違うのかw
弓術士:
言い出したのは係長でしたけど、大剣術士さんも反対しませんでしたね。
……むしろ賛成していました。
名無しの支援者:
話の途中で悪いんだけど、16階のドラゴンをデバフなしで倒したっていう噂は本当のようだったよ。
467:
その話、俺も調べてみた。
だけど、4度目での成功だったらしいぞ。
棍術士:
2度目じゃなかったのか?
名無しの支援者:
違うみたい。
本人は4度目ってことで情報流していたみたいだけどね。
467:
たぶん話が変わったのは総合スレが原因だろう。
あそこに書かれた情報を鵜呑みにした人が数人いたことだけは確認してある。
弓術士:
前から知ってたんですか?
467:
違うって。
面倒だったけど気になったので調べてみたの。
名無しの支援者:
誰も訂正や否定をしなかった?
467:
訂正していた人はいたな。でも、遅かったんじゃないか?
あるいは愉快犯的な動機だったのかもしれないが、そこまでは分からない。
大剣術士:
自分から魔人の話をしておいてなんだが、話の続きは明日の迷宮でするとしよう。
それより20階到達による全員の解放についてだが、係長は、あの話を誰かに言われても気にしていなかったらしい。頑張ることには変わりないというのが理由だった。
名無しの支援者:
じゃあ、今度その話題がでても、意図的に話を逸らさなくてもいい?
棍術士:
心配するだけ損したってことか?
大剣術士:
そうかもしれないが、とにかく例の話がでても意図的に話を逸らさなくてもいい。
弓術士:
管理者が係長達以外と接触しない件はどうでした?
迷宮掲示板で騒がれました?
棍術士:
少しは騒いだけど、すぐに落ち着いたな。
大剣術士:
問題は世間やマスコミだろう。保護の会では今以上に圧力をかけるのは難しいらしい。またしばらくは騒がれるかもしれないな。
名無し支援者:
アテに出来そうにないの?
467:
ごめんね、アテに出来なくて。
名無しの支援者:
そういえば、467さんも保護の会のメンバーだったね。
467:
お願いしますから、忘れないでよ!
弓術士:
467さんは、ほとんど迷宮にいるわけですし仕方がありませんよ。
大剣術士:
管理者の奴が何かするようだから、それでまた世間の動きが変わるかもしれないな。
名無しの支援者:
今度は何をする気だろう?
ネットの方をみたら、早速色々書かれていたみたいだけど……
467:
中には、正式サービス開始の告知がくるとかあったな。
大剣術士:
管理者の性格を考えると、それもありえそうで嫌になる。
棍術士:
俺は、467のスキルが気になる。
いい加減、吐けよ!
467:
明日あたり報告する予定。
たぶん、そのまま合流すると思うぞ。
名無しの支援者:
剣術士さん達と合流したらリーダーは誰がやるの?
467:
俺は、もう嫌だ。
剣術士に任せる。
棍術士:
467がリーダーだと絶対無茶苦茶になる気がするし大賛成。
大剣術士:
合流したら、まずは17階探索か?
棍術士:
俺は早く18階に行ってみたい!
467:
実は俺も18階を優先したい。
17階探索はその後でもいいんじゃないか?
弓術士:
……何故?
棍術士:
防具が傷だらけだから。
係長達に頼めば新品がもらえるけど、ちょっと気が引ける。
467:
そもそも俺達がこうしているのは係長達を支援するためだって忘れていないか?
追い付いて色々調べて回ったほうが手助けになると思うんだけど?
名無しの支援者:
まず拠点を確保するのはゲームの常道だし、17階探索をスムーズに進めるためにも、その方がいいかもしれないね。
大剣術士:
……弓術士さん。
弓術士:
この分だとすぐ知られそうですね。
この人達には、釘を刺しておいたほうがいいかもしれません。
棍術士:
何の話?
467:
釘って何のことだ?
大剣術士:
この際だから言っておくが、実はな……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
徹達が話し合っていた頃、良治は洋子と電話をしていた。
自分がやられた後の事を聞いてみると、彼女達もすぐにやられたらしい。
しばらく話し合ってから電話を切ると、今度は魔人について調べ始める。
検索してみた結果、魔法を使う人型の存在という事になっており、知った良治は安堵の溜息を大きく吐き出した。
(あいつらじゃなくて、よかったぁ……)
良かった。
本当によかった。
少しだけだが、生理的に無理なアンデッドと同じ類かと思ったが違うようだ。
(しかし、あれだけやっても倒せないってことは火球じゃ駄目ってことか? ……いや4竜の時とは反応が違うし、俺たちの武器に付与した属性も大差がないように見えた。……うーん)
ノーパソの画面を見ながら、腕を組み考える。
18階にいる王に言われたことが頭に浮かんでくるが、あれはどういう意味だったのだろう? 力をつけろと言われたが、それでどうこうなる問題だろうか?
(あの王様もNPCか……管理者のやつ何だって、あんな質問を?)
思うのは管理者がとった行動について。
ほぼ毎日のように洋子と相談しているが、これといった推測が浮かばない。
NPCについて問われ自分がどう答えたのか?
それは覚えているが、洋子の名前を呟いたという記憶すら彼には無かった。
(……何かあったはずだ)
あの瞬間だけは抵抗できたという確信がある。
一矢報いることができた――とまでは言えないが、その理由さえ分かれば、今の状況を変える事ができるかもしれない。
そうは思うものの、良治には何かをしたという記憶が無い。
気にはなるが……
(今は魔人の討伐だな。18階……いや、もしかしたら17階に何かあったのか?)
いくら考えても分からない事は頭の隅に追いやり、再度魔人の姿を思い出していった。