融合火球の一撃
雑談スレ part 89
100 名前 R
Yさん、融合火球の準備だ!
101 名前 剣術士
どうした係長?
102 名前 名無しの迷宮人
指示だしだろ。
19階で戦闘中なんだろうけど、スキルを使うほど広い場所なのか?
103 名前 名無しの迷宮人
実況希望。
104 名前 杖術士
火球ってどっちのだろ?
魔法職同士の方かな?
105 名前 棍術士
>>103
気持ちは分かるが、実況は無理じゃないか?
106 名前 名無しの迷宮人
また初見で倒せるといいな。
107 名前 名無しの迷宮人
係長達が20階に到達しても、俺達まで解放されるわけじゃないぞ。
108 名前 名無しの迷宮人
>>107
そういうことじゃないから。
頑張っている人って応援したくなるだろ。
109 名前 名無しの迷宮人
こっちも頑張ろうって思えてくるよな。
110 名前 名無しの迷宮人
それなら、ここ見てないで頑張れよ……。
111 名前 名無しの迷宮人
だが断る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
掲示板の空気とは異なり、良治は焦っていた。
(あんなの反則だろ! 洋子さん頼むぞ!)
洋子に魔法職同士のパワー型融合火球を頼んだのは数秒前。
それを決断させたのは、インチキじみた魔人のタフネスさにある。
須藤が放った一撃は、彼の思うとおり魔人の背へと突き刺さり胸へと貫き出た。
普通の相手ならば致命傷といって言い一撃だったことは、良治もその目で確認している。
しかし、倒せていない。
そればかりか須藤の槍が魔人の手の中にある。
攻撃をうけたはずの魔人が須藤をしりぞけ、その後自分の手で引き抜いた結果だ。
実にシンプルで信じられない行動をみせつけられた良治は洋子達に頼むことにした。
頼んだはいいが、火球の一撃を決めるのは難題だ。
どうするべきかと考えた時、紹子の声が届いた。
「どいて!」
真横からの声に、近接組の4人が散る。
同時に数本の矢が連続で飛来し、その一本に光輝く矢があった。
紹子がもつ固有スキル、タイム・アロー。
その効果は敵の動きを2分ほど止めるもの。
矢に宿った光が魔人の肩に命中すると、薄い光が全身を覆い始めた。
「よし!」
敵の体を包む光は、タイム・アローの効果が出た証明。
ボスにまで効果が出るかどうかは賭けであったが、その結果に徹が喜ぶ。
効果があったのを目にしながら、須藤と香織が紹子の元へ。
遅れて、徹と良治が洋子達の元へと走りだそうとしたが、魔人を包み込んでいた光が消えたのを見て立ち止まってしまう。
(はやすぎる!?)
驚く徹に見せつけるように、魔人が二ヤリと笑う。
手にしていた槍を投げ捨て、肩に突き刺さった矢を自分で抜くと、離れていった須藤へと視線を向けた。
大剣が振り上げ、衝撃波を放たんとしたその時、良治が切り込んだ。
「パワーを!」
「――!?」
アルティメット・チェンジ。
良治は最初、徹にそれを望もうとしたが、口にしたのはパワー。
理由は融合火球の準備が終わっているから。
ここで徹に暴走されては、何もかもが狂ってしまうだろう。
切りかかってきた良治に、魔人の目が向けられる。
攻撃対象というよりも、煩い蠅を追い払うかのような目つき。
大剣を振り上げた魔人から良治が2歩、3歩と離れたがお構いなしに振り下ろされた。
地面が砕かれ石と衝撃波が襲ってくるが、良治はこれを予想。
横へと飛び跳ね、空を蹴る。
勢いをつけ魔人へと攻撃を行うと、そのまま離脱。
出来るのは時間稼ぎ。
一撃でも受ければ、砕かれた地面同様の姿になってしまう。
魔人の攻撃を受けないことだけを考え動きながら、徹の声を待った。
その徹が叫び声をあげたのは、3度目の攻撃を躱した時のこと。
「飛べ!」
声の通り良治が飛びのくと、彼がいた場所をパワー+スラッシュの一撃が通る。
魔人がもつ大剣によって一部止められるが、受け止め切れていない部分もあり、魔人の体勢が大きく崩れた。
今しかない。
タイム・アローの時は距離をとってからと考えたが、それが通用するような相手ではない。チャンスを感じとった良治は即座に『Yさん、やれ!』と掲示板に書き込んだ。
合図を聞くなり、徹が闇鎧を使いながらジャンプで緊急離脱。
良治も同様に急ぎ逃げ出すと、味方殺しすらありえる魔法が動き始めた。
最初はノロリと。
すぐに速度を増し、魔人の頭上から着弾。
爆発と同時に発生した熱と衝撃が、離脱したはずの良治と徹を巻き込んだ。
「うぉ!」
「係長! ぐぅ!」
まずは良治が。
次いで徹も、爆風の影響を受ける。
闇鎧の効果によって熱に関しては緩和されたが、衝撃までは防げていない。
空を飛び跳ねていた事も悪かったらしく、2人共が観客席目掛けて飛ばされていく。
「係長!?」
洋子が慌てた声を出した時、2人の体が観客席の手前でガツンという音をだし止まった。まるで透明な壁がそこにあるかのよう。
良治達が口から血反吐を吐き出しながら地面へと落ちると、その場に洋子達が慌てた様子で駆け寄った。
その一方で、須藤、香織、紹子の3人は、魔人を包み込む火柱を見守っている。
「こういうとき、言っちゃいけないセリフって分かるっすか?」
「急にどうしたの?」
「……嫌な予感がするんすよ」
須藤と香織が肩を並べそんな事を話している。
胸を貫いても、痛みというものを感じた様子がなかった。
だから良治は、火球による爆発と熱を利用しようと考えた。
その考えは仲間達も察する事ができたし、結果も彼が考えていたとおりになっている。
十分すぎるダメージを与えられたように見えるのだが……
「私も、終わったとは思えませんね」
「紹子さん、平気?」
「はい。魔石を1つだけ使用しましたから」
「……それ、あと2、3個使っておいた方がいいっすよ」
まだ戦闘は続くと、須藤は確信している。
理由は、実際に手を合わせた感覚から。
非常識ともいえる腕力や、不死身では無いかと思えてならないタフネスさ。
いくら洋子と美甘による火球の融合魔法が凄まじく、未だ衰える事なく燃え上がっていたとしても『やったか?』などとは言えない。
「須藤君、武器はどうするの?」
「ミスリルの槍を残しているんで、それを使うっす」
これが終わったら、18階の武器屋でアダマンの槍を1本もらっておこう。
そんな事を考えながらポーチから槍を取り出した時、火柱の勢いがさらに増した。
「……何故?」
「紹子さん下がって! 須藤君早くしなさい!」
「思ったとおりか!」
香織が身構え、須藤が槍を慌てて引き出す。
紹子は、弓に矢を1本つがえつつ後ろに下がった。
勢いが増した火柱の中で黒い影が奇妙な動きをしながら、立ち上がる。
光景を見ていた香織が唾を飲み込むと、火柱の中から叫び声が上がった。
『やってくれたな!!!!』
ハッキリとした声が耳に届く。
しかし、それは自分達に対してではない。
魔人の顔が向いているのは洋子達の方。
「ヤベ!」
「いくわよ!」
「援護します!」
3人が動きだすが、それより先に魔人が動く。
魔人が両膝を軽く曲げたかと思うと、燃えている体ごと良治達へと一気に迫った。
迎えるは、回復途中であった良治と徹。
洋子達を押しのけ、2人の男が前に立つ。
一気につめよってきた魔人を迎え撃つ為に、互いの得物を大きく振り上げた。
「峯田さん!」
「うぉお―――!!!」
良治と徹が、魔人の体を燃やしている炎に負けず劣らずの気持ちを載せスラッシュを放った。