表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/227

攻防

 19階へと辿りついた良治達の前に、古代ローマの闘技場を彷彿(ほうふつ)させるような風景が広がっていた。


「広いなぁ……」

「というより広すぎませんか? まさか、サイクロプスみたいな敵ですかね?」

「……それ、ありえるっすよ。あの石像は、フェイク情報を流すのが目的だったとかじゃないっすか?」

「話はそれくらいにして。……たぶん、アレがそうよ」


 ヌンチャクの鎖をこすり合わせる音をたてながら、香織が前にでる。

 彼女の目の先を追えば、向かって正面の壁に巨大な鉄格子が降りた通路があった。


 その通路の奥に、うっすらとした影が見える。

 姿形については距離がありすぎてハッキリとしない。

 自然と全員の足が向きだした。


 徐々に、敵の姿や大きさが分かり始める。

 おそらく石像と同サイズ。

 通路の高さは7、8mほどだろうか?

 そんな事を考えていると、香織が突出し始めた。


「待て、香織さん。まずは遠藤君達だ」

「……そうだったわ。私も鈴木さんと変わらないわね」

「俺?」

「なんでもないわ」


 香織が走り出そうとしていた体を起こし、良治に作り笑顔を見せた。

 その彼女と入れ替わるように満と氷狼が前へと出る。

 続くは、赤いマントを羽織ったキング・キャット。

 ピシっと背を伸ばし二足歩行で立つ姿は堂々としたもの。

 時折王冠を触っているのは、位置が気になるからだろう。


「ミイちゃん、頑張ってね!」

「ニャ!」


 良治の知らぬ間に決められていた名前に、白猫のミイちゃんが大きく頷き応えた。


 美甘が操れる魔法なら全て使用可能な上に、複数操作も出来る。

 出現している間も、主である美甘は魔法を扱えるし、効果時間は20分。

 そうした利点はあるが、融合魔法やパワーを使えないという欠点もある存在だ。

 

 良治達の方では準備が出来ている。

 あとは、戦闘が開始されるのを待つだけ。

 その瞬間を見守る彼等の前で、鉄格子が重々しい音をたてながら開いていく。

 あと少し。

 完全に開き、中から敵が出て来てからが戦闘の開始。

 誰もがそう思った瞬間、通路の先から真紅の刃が飛んできた。


「ウォン!?」

「舐めやがって!」

「ニャニャ!?」


 火属性のパワー+スラッシュに酷似しているような刃が、地面を焼き焦がしながら満達を襲う――が、距離があった。

 焦げた道を挟み2匹と1人が左右に分かれると、まずは氷狼が走り出す。


「ウォオオオンンン!!!」


 魔人へと迫った氷狼が白銀の息を吐きだす。

 標的を凍てつかせるブレス攻撃が、氷の道を作りだしながら魔人へと迫り命中。

 氷結の魔法を扱った時と同じく、魔人の体が氷で覆われた。

 さらに、


「ニャニャァ―――!!!」


 ミイが鳴き声をあげ、雷光の魔法を使った。

 一筋の光が折れ曲がりながら、氷狼と満の間を通りぬけ凍てついた魔人へと命中。


「おおっ?」


 命中はした。

 氷が砕けるのも見た。

 しかし、同時に土煙が舞ったため、どうなったのか良く分からない。

 状況が不明なまま満が短槍を逆手にもち走る――が、彼の目前で小粒の氷が周囲に散乱。


「――ッ!?」


 満の前で砕け散ったのは、氷狼の体を作り上げていた氷。

 その場に残るは、地面から突き出た黒く大きな影のようなもの。

 巨大な棘のような形をしたものが霧散し消えると、凍てついたはずの魔人の姿を目にする。


 迷いが満の足を止めた。

 その満の頭上を8つの火球が飛んでいき、魔人へと着弾。

 キング・キャットと、美甘による火球の連続攻撃だ。


『ヌッ!』


 爆発による煙の中から魔人の声がした。

 迷っている暇はない。チャンスだ。

 煙が晴れる前に満が迫り、見えた影に向かい短槍を振り下ろす。

 ――が、突き刺すよりも早く、煙の中から右手が伸びてきて喉を掴まれてしまう。


「(ヘイト・シールド!)」


 声は出せないが、心の中で思う。

 彼が所持していた盾がサイズを変え、喉の痛みが消える。

 しかし痛みが消えたというだけであり、掴まれたままでいるという事は変わらない。

 魔人は、子供でも扱うように満を近くの地面に投げ捨てた。


「この野郎!」


 ダメージはない。

 だが、屈辱的な行為だ。

 怒りの感情が満をすぐに立ち上がらせたが、その彼に向かって魔人の左手が付き出されていた。


無常之闇(むじょうのやみ)』 


 静かでよく通る声音。

 それを聞いたのは満のみ。

 彼の全身を闇色の雲が包み込み始める。


「なんだこれ!?」

「満君!?」


 光景を目にした美甘が声を上げた。

 すでに、良治達は走り出している。

 洋子がパワーを使用し、紹子が矢を放ち援護射撃。

 近接組の4人の中から、まず攻撃をしかけたのは香織と須藤。


「ミラージュ!」


 香織が分身を生み出したタイミングで、須藤が空へと駆け上がる。

 魔人が大剣を両手で横一閃にふるうと、その剣筋をなぞる様に真紅の刃が発生。

 2人の香織達へと向かった。


 魔人の攻撃を、彼女達は飛び跳ね避けたが、後ろにいた良治と徹は足を止める。

 互いに目の端を向け合うと、相手が何を考えているのか分かったかのように頷きあった。


「「スラッシュ!!」」


 良治と徹による同時発動。

 迫っていた刃と、2人が放った衝撃波がぶつかりあう。

 互いの攻撃が同時に消滅。

 2人が回避行動ではなく、攻撃を消滅させることを選んだのは、後方にいる3人と1匹を気遣ったため。

 一安心した良治が満を見る――が、彼の姿が無い。


(消えた? そういう魔法か?)


 自分達が知らない魔法。あるいはスキル?

 ミミックも即死攻撃をしてきたが、それと似たものだろうか?

 しかし肉体が無い。

 一体どうなっているのか分からないが、今は考えこんでいる暇はなかった。


 2人の香織が魔人に詰め寄り、ヌンチャクや自分の四肢を使い連続攻撃。

 苛烈な攻撃で魔人を攻めたてるが、大剣によって攻撃が邪魔をされている。

 このままでは、香織の呼吸が乱れるだけ。

 すぐにでも交代をしようと思った良治の目に、魔人の後方に降り立った須藤の姿がうつる。


(そこだ!)


 良治が思う前に、須藤の全身が動いた。

 体を捻り振るった槍の穂先が弧を描き、魔人の首に迫る。

 香織の攻撃を受け止めている魔人の背後からの一撃。

 これ以上ないというぐらいのタイミング。

 見ていた良治は絶対に避けられないと思ったが、結果は違う。

 魔人は、その穂先の刃を下から殴りつけ、手づかみで掴んだ。


「!?」


 一番驚いたのは須藤。

 絶対の自信をもって振るった一撃が、顔を向ける様子もなく刃ごと掴まれている。


 驚いたのは須藤ばかりではなく、香織も同じ。

 彼女から見ても、大きなダメージを与えられると確信していた。

 その確信が、隙を作る。

 攻撃が止まったその隙を魔人は見逃さず、手にしていた大剣を勢いよく振り下ろした。


 身の危険を知り香織達が後方に下がる。

 一呼吸おくれて大剣が叩きつけられたが、その場には誰もいない。

 躱せた。

 ――そう思ったが、地面が爆発したようかの光景をみせ、下がったはずの香織達を襲う。


「「キャッ!!」」


 襲ってきたのが土や石だけならば良かった。

 それらは土鎧の魔法でも十分無効化できるもの。

 しかし、ふられた大剣によって発生した衝撃波に魔法効果が耐えきれず消失。

 彼女達の体を傷つけふらつかせた。


 そこへ良治と徹がやってきて、2人の香織達を抱きしめ止めた。


「大丈夫か?」

「……えぇ。それより……」


 血は流れているが自分で回復魔法を扱えそうだ。

 当人の意識も、戦いを続けている須藤へと向いている。

 魔人は、香織の時と違い大剣を使って防ごうとはしない。

 身体能力のみで攻撃をさばいているようだが、槍の穂先が幾度かかすめていた。


 魔人の体に傷がつく。

 チャンスだと良治は思うものの、須藤にとってみれば違っていた。

 本命となる一撃が当たらない。

 傷をつけているのは、手を抜いたような攻撃によってのみ。

 その傷ですら、彼の目の前で治っていく。


(自己回復ありかよ!)


 須藤が内心で毒づきながら後退すると、魔人が距離を詰めた。

 ニヤリと須藤の口元が緩む。

 予定外ではあったが、自分が引きつけ役となっており、攻撃役となる二人が魔人の背後にいる。

 それは、香織達から手を離した、良治と徹のことであった。


「峯田さん!」

「おぅ!」


 互いの呼吸を合わせ、魔人めがけて同時にスラッシュを放つ。

 至近距離から放った二人のスラッシュが魔人の体を切り刻んだ。

 通常のスラッシュとはいえ、至近距離であれば威力は折り紙付き。

 相手が人間サイズであるなら、大ダメージが予測できたが……


『ほぅ……』


 魔人が着ていた衣服を引き裂き、体にも複数の傷口を与えられた。

 しかし、そのダメージが異常な速度で治っていく。

 通常のスラッシュは体を突き抜け内臓にまでダメージを与えるはずだが、それすら回復されているのだろう。

 魔人は楽しんでいるかのような顔をし、良治と徹を見ていた。


『これはどうだ?』


 何を? と思うまえに、魔人が大剣を横ふり。

 身構えた良治達の目の前で、小型の竜巻が発生した。

 溜めというものがほぼ無く発生した竜巻が良治達を飲み込む。

 

 その時だ。

 須藤がもつ槍の穂先が魔人の胸から貫きでたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
作者のツイッター
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ