初めての報告拒否
竜の尻尾を使う場所へと向かうため、城の中へと戻る。
徹達の後を付いて行くと、途中で下に降りられる階段前へと出た。
(また地下に戻るのか?)
良治はそう思ったようだが、違っていた。
降りた先にあったのは、湿った空気を感じる直線的な地下通路。
さほど歩かないうちに地上へと出る階段を目にする。
一種の抜け道的なものだろうか?
そう考えた時、前を歩いていた徹が突然足を止めた。
「……出来れば、この先のことは掲示板で報告しないでほしい。たぶん、あいつらが知れば……」
「ここまできたならツベコベ言わない。見ればわかるはずよ」
「……そう、だな」
徹の声を、紹子が遮った。
気にはなるが見れば分かるという。
何か事情があるのだろうと思いつつ階段を上がっていくと、空が見える開かれた場所にでた。
「ここは城の後ろ?」
「そうらしい。そしてアレが……まぁ、中に入ればわかる」
徹が、言いづらそうに顎で指示したのは、一際大きな屋敷。
屋根は青く、おそらくは3階建てのもの。
城の建築様式と比べれば幾分時代が新しいが、それだけだ。
他に変わった事と言えるものが見当たらない。
(この建物を報告しないでくれってわけじゃないよな?)
徹が何を言いたかったのか?
それを良治が知ったのは、屋敷の玄関から入ってすぐの事であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「見ていないで帰りますよ! 今すぐ、ここを燃やすべきです!」
「分かった! 分かったから! 燃やすとか言わないでくれ!」
その光景を見るなり、洋子がパワー型の火球を使いそうになった。
良治が止めなければ、本気でやっていたかもしれない。
何故か?
理由は、屋敷に入ってすぐの場所で、肌が透けてみえるような服をきた美女達が出迎えたからだ。
『『『『『お待ちしておりました。勇者様達』』』』』
一人や二人ではない。
多種多様な肌と瞳をした複数の美女達が左右にズラリと立ち並び、奥の部屋へと続く道を作っている。
(報告しないでくれと言った理由はこれか!)
見てすぐに徹の気持ちが分かった。
もしこんな場所があると知られたら、どうなるだろうか?
『劣化版? だからなんだ! それよりハーレムだ!』
そんな言葉が、まず頭に浮かんだ。
彼等とていい大人だ。
こんな理由から、ドラゴン討伐に謎の扉を使うわけがない。
そう否定したくもなるが、言い切れる自信が薄い。
それだけではない。
下手をすればカップルが成立しているPTを刺激し、その騒動に巻き込まれるという可能性もあるのでは?
良治は、徹の判断が間違いではないと考えた。
「……眼福っすけど、これ全部NPCっすよね?」
「あら。須藤君は興奮しないの?」
「俺の心は、香織さんのものっす!」
「いらないわ」
「……まずは、お義父様を口説くことにするっすか……」
「やめなさい!!」
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
その諺を実践しようとでも思ったのか、攻略対象を変えようとする須藤に、香織は身の危険を感じた。
別の意味で危険を感じている洋子と言えば、まだ騒ぎ続けている。
「いいですね! 前だけを見てくださいよ。それ以外は駄目です!」
「どうやっても視界に入るんだが……」
「足下だけを見ればいいんです!」
前を見ても、そこには左右に立ち並ぶ美女ばかり。
下を見れば、目の端に女性達の素足がうつる。
この場所は危険極まりない。
何より洋子の目付きが怖い。
一刻も早くこの部屋を通りすぎよう。
徹が向かっているのは、正面に見える扉。
その先にある部屋まで行けば、きっと……いや?
「まさか次の部屋も、同じとかそういうことは?」
「それは大丈夫だった。とにかく慌てずに真っすぐ歩いてくれ。彼女達の方からは触れて来ないが、こちらから触れた場合は別だ」
「別? 何かあったんですか?」
「……満が、どこかに連れて行かれそうになった」
「言うなよ!」
満が大声で待ったをかけたが、少し遅かったようだ。
良治は、徹についていくことだけを考えることにした。
試練の部屋を抜けた先には、一枚の立て札看板があった。
徹達が、それを見るなり深い溜息をつく。
「復活するのか……」
「そうみたいね」
「また、壊しますか?」
「やめとけよ。どうせ無駄なんだしさ」
徹達の会話が気になり近づき看板を見ると『ちょっとした冗談だよ。気分転換にはなったでしょ? あと、この先にあるエランの石像に竜の尻尾を見せると19階に進めるよ』なんて書かれていて、良治は無言で蹴り飛ばした。
「……気持ちは分かる」
苛立ちを隠そうとしない良治の肩に、ポンと手を置き徹が言った。
さらに先への部屋へと進むと、壁際に威風堂々とした男の石像が置かれていた。
男の表情は張りつめたもので、背にマントをつけている。
頭部の左右から突き出た角が特徴的だ。
特徴的と言えば、持っている大剣を床に突き刺している姿もそう。
良治達は、これが戦うべき相手の姿なのだと考えた。
「洋子さんは、こういう奴をゲームで見たことはあるか?」
「似たような雰囲気を持つボスはいますが……」
石像を見つめがなら洋子が思い出したのは幾つかあった。
まず思ったのは、強制負けイベントで登場するような反則的なボス。
あるいは、やりこまないと倒せない凶悪な裏ボス。
はたまたムービーシーンでは強さを見せつけてくるが、実際戦うと思ったほどではなく、拍子抜けするようなボス。
自分が知るそれらのボス達について教えると、良治は目を閉じ呻くような声をだした。
「……どう判断すればいいんだ?」
「強敵と判断して進んだ方がいいと思いますよ」
「……そうか……じゃあ、さっそく竜の尻尾を……って、その前に……」
さっそく試そうとしたが、思いとどまる。
この石像が予想通り敵を示しているのなら、それは一つの情報だ。
先へと進む前に、この石像の姿を元に仲間達と相談した方が良い。
一度は戦ってはみたい。
そうでなければ、相手の実力が分からない。
そんな気持ちで来てはみたものの、好きこのんで負けるつもりはないのだから。