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隠し事

 ――洋子の部屋。


 頼まれた地図の写真については迷宮掲示板に貼ることが出来た。

 武具や道具の受け渡しについては翌日からとし、強制退社となる。

 自宅に帰ってきた洋子は、さっそくブログを更新。

 そのあと夕飯の支度にとりかかり、アジの開きをメインに食事を始めた。


「……うん。いい出来」


 焼いたばかりのアジの開きを口にし、満足気に頷く。

 付け合わせは、ナスの漬物や、野菜のサラダ。

 機嫌よく食事をしていた洋子であったが、テレビで管理者と良治の接触についての話が流れると表情が曇りだしてしまう。


(無理ないだろうけどさ……)


 洋子にとってみれば困る話題だ。

 本日更新したブログにも、この事で何か書かれているかもしれない。

 『何か隠しているだろ』的な書き込みをされたこともあり、ファン達との間で口論まで起きた。


 無視したらいいのに。

 彼女の本心として言えばそうなるが、そのままを書き込むわけにもいかない。

 さらに酷いことになったらブログの閉鎖も考え始めているが……


(良治さんに何て言おう?)


 拒否されるとは思っていないが、あまり気が進まない。

 納得できたオカズの品々を前に気が重くなりつつあった洋子であったが、良治から電話がかかってくるなり一気に明るいものへと変わった。


「はい、もしもし!」

『こんばんは。さっそくだけど、今週の土曜日は空いてる?』

「勿論、空いていますよ!」

『そうか? なら良いんだが、また温水プールにいかないか?』

「トレーニングですか?」

『そうだけど、嫌だったか?』

「いえ、それは構わないんですけど、ゲームの方はいいのかと」

『……あれな』


 一気に良治の声が小さくなった。

 その理由について心当たりがあり、洋子は苦笑した。

 現在地下4階までゲームが進んでいるが、そこにいくまで何度か全滅しかけており、良治はその度に呻き声をあげている。


 その4階には大事なアイテムがあるのだが、無論洋子は教えていない。

 初見でしか味わえない楽しみを奪いたくはないからだ。

『ここには超重要なアイテムがあって、それがあれば実はですね……』とか言いたくて仕方がないが、言うわけにはいかなかった。


『ゲームも気になるが、土曜日は温水プールと……』

「……?」


 何かを口にしかけた良治の声が止まった。

 少しの間、続きを話しだすのを待ってみたが……。


『……いや、とにかく土曜日はトレーニングって事で頼む』

「それは構いませんけど?」


 一体どうしたのだろうとは思いつつ、それ以上言わずにいると良治の方から電話が切られた。


「どうしたんだろ?」


 良治の方から誘ってくれたのは嬉しい。

 しかし、何かを隠しているような言い方にも思えた。


(悩んでいるとかそういうんじゃないと思うけど……うーん?)


 分かりそうで、分からない。

 問い詰めてやろうかとも考えたが、気乗りしない。

 良治の声が、普段と少し違っていたからだ。

 ……もしかしたら。

 思うことがある洋子は、尋ねるのを止めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日も分かれたまま情報収集を行っていた。

 その彼等が合流したのは、武具や道具の供給を望むプレイヤー達の望みを叶えるため。

 昼頃まで供給活動をしたが、これだけで全ての需要に対応できるわけもなくキリのいいところで活動を停止。

 その後、街の中にあった宿の一階で休みをとり、適当な料理と飲み物を注文してから情報交換を始めた。


「まず、竜の尻尾についてだが、使う場所を見つけることが出来た。やはり19階に進むキーアイテムのようで、そこに魔人がいるらしい」

「予想どおりですかぁ……他には何か?」

「あとはトリスだな。街の方でもそうだったらしいが、城でも頻繁に名前がでてきた」

「……何かあるのは間違いなさそうですね」


 思案するような顔つきで良治が言うと、そこに店員がやってきて鶏肉料理やスープ、それにサラダの類がおかれた。

 各自が小皿に少しずつ盛り、木製のフォークやスプーンを使って口にしてみるが、誰もが複雑な顔つきをしてしまう。

 味にうるさく言うつもりはないが、もう少しあるだろうという微妙な味だった。


「俺の方からは以上だ。街の方はどうだった?」


 続けてされた徹の質問に、洋子が食する手をとめ応え始める。


「街の外には出られませんでした。広さも思ったほどではなく、使える店もそう多くはないようですが……たぶん、使えたとしても……」

「この飯と同レベルって感じじゃないっすか? 極端に不味いってわけじゃないっすけど……」


 須藤が横から口を挟み愚痴を言い始めると、一人、また一人と愚痴を口にしだす。

 その愚痴が収まってきた辺りで徹が尋ねだした。


「アランダについては、何か新しい事がわかったか?」

「トリスと仲がいいって話は聞いたな。でも、それだけだったぜ」

「あいつが関係しているのか?」

「じゃねぇの? トリスにも聞いてみたが、あいつ反応しやがらねぇ」


 徹と須藤がそうした話をしていると、良治が手にしていたスプーンをスープ皿の横に置いた。


「竜の尻尾の件ですけど俺達は持っていますし……19階にいけますよね?」

「……恐らくは可能だろうな」


 徹の返事を聞いた良治が、顎に手をあて考える。


(また、数日かかると思っていたけど違ったのか? トリスとアランダの件は気になるけど、その前に一度……)


 良治の中でフツフツと湧き上がってきているのは、魔人への挑戦。

 NPCを相手にする時とはうってかわって、気持ちが高揚してきた。


 謁見の間で言われた事は気にはなる。

 今の自分達では勝てない可能性が大きいような言い方をされているのだし、何かしら新しい力を得てからの方が得策だろう。

 頭ではそうした判断は出来たが、口から出てきた言葉は違っていた。


「一度戦ってみたいですね……」

「……うん。まぁ、そうだな」


 徹が歯切れの悪い返事をすると、良治の眉が寄る。

 徹も同じような気持ちでいると思っていたが、違っていたのだろうか?


「もちろん、無理にとは言いませんよ」

「……いや、俺としても同じような気持ちだ。実際戦ってみない事には、分からないことだってあるだろう。……ただ、その……」


 ゆっくりと徹の視線が良治からズレていく。

 ズレた先で紹子の視線と合うと、動きが止まった。

 妙な雰囲気が2人の間で作られる。

 理由が分からず困惑していると、好奇心がありそうな声で、香織が話しかけてきた。


「私も気になるわ。一度だけでも挑戦してみない?」

「香織さんもっすか? 俺も戦えるなら、やってみたいっすね」


 須藤と香織は同意見の様子。

 洋子はどうだろうか? と彼女を見てみると、少し首を傾げ悩んでいる。


「洋子さんは、反対か?」

「もう少し見て回ってからの方が良いと思いますけど、でも……」


 そう言いつつ、黙ったままでいる徹に視線を向けた。

 何故か、紹子に睨まれたまま固まっている。

 こうした話には加わってこない満にも目を向けてみると、視線が合うなり顔を逸らされた。


(……怪しい)


 つい先ほどまでいつも通りであった彼等の様子が一変している。

 まるで隠し事をしているかのようだ。

 昨晩も良治に同じようなことをされたが、アレとは何かが違う。


「やっぱり試してみませんか? 私も気になってきました」


 そう洋子が返事をしたことによって反対するものがいなくなった。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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