拠点
謁見の間にいくと、18階に来たばかりの時と似たような光景を目にした。
違っていたのは、パーティー会場で見かけた立派な黒ひげを生やした男の姿があったこと。
玉座に座る王のすぐ傍に立っていた、その男が話し始める。
『勇者様達もすでに聞かれたと思いますが、我らが国は、魔人の脅威にさらされております。すでに多くの兵達が倒れた今となっては、勇者様たちの力におすがりしなくてなりません』
宰相的な地位にいるのだろうか?
名前すら分からないが、偉い立場の男だろうと思いながら話を聞いていると、後ろに立つ須藤が『んん?』という奇妙がる声をあげた。
『ですが、我が国としても援助を惜しむ気はございません。街で扱っている武具や道具、それに食事や宿代といった金銭に関する全てが無料となっております』
一つ一つを理解しながら聞いているうちに、今度は隣に立つ洋子が『あれ? そっち?』と奇妙がる言い方をした。
黒ヒゲの男が話を終えると、今度は王が玉座から立ち上がった。
『魔人エランは強い。今の勇者様達であっても勝つことは難しいだろう。彼の地に行くだけでも竜の尻尾を必要とする。詳しいことは、城にいる者達から聞けるだろうが、まずは力を高めるのが先決。我が国で、今以上の強さを身に着けてほしい』
言い終え席に座ると『そうきたか』という徹の声が聞こえてきた。
彼等がどう思ったのか、あとで話を聞こうと思いながら続きを待ったが、これで終わりのようだ。王達の動きが止まり、入ってきた扉が開く。
『さぁ、勇者様達の出発だ!』
『『『おおおおぅ――――!!!』』』
「……つまり終わりか?」
「そうなりますね。出ましょうか」
茶番に付き合わされたような気分を味わいながら、謁見の間から出ると、さっそく満が肩を回しはじめた。
「ふぅ。俺こういうダラダラとしたイベントって嫌いなんだよな。さっさと着替えたいぜ」
「満君は、そうだよね」
「美甘ちゃん、街の方が気にならない?」
「あっ! 気になります!」
「紹子。羽目を外しすぎるなよ」
「徹は一緒に行かないの?」
「俺は、このまま城の中を見て回りたい。竜の尻尾についても気になるからな」
「もう。ほんと徹って……」
解放されるなり、徹達がいつもの調子に戻った。
良治も気分の悪さが収まりつつある。
香織も同じようで、不気味がるといった様子がない。
「係長は、どうしたいんです?」
「俺は街の方が気になるが……。あぁ、その前に確認しておきたいんだけど、さっきの話って、この国全体が、俺がやっているゲームのスタート地点のような扱いと考えるべきか?」
洋子に質問してみると、彼女は『そうだと思います』と言い頷いた。
良治が言うゲームについて仲間達は分かっていないが、何を意味するのか察している者達もいるようだ。
良治が洋子のアパートでやっているゲームでは、最初のスタート地点で街が登場する。
そこでキャラを作成しPTを組み、武具や道具の売買をするわけだが、このベーシックダンジョン(仮)では、18階がそれに近しい場所として用意されているという事なのだろう。
ただし、違う点が幾つかあり、その点は良治も理解している。
須藤や徹。それに洋子が謁見の最中に呟いたことも、そうした事柄に関係したこと。
金銭を必要としなかったのは、彼等にとって意外だった。
また、それ以外にも予想していなかった点がある。
「ダンジョンゲームの中には、途中で休めるような場所が出てくるのは珍しくないんですけど、このゲームのように最初にはなく、終盤で出てくるのは珍しいかもしれませんね」
「つか、王や偉そうなオッサンが言っていたことってストーリー部分に関係したことじゃないっすか? 何で今ごろなんすかね?」
須藤が不満を口にすると、徹や満も同意するといったように何度か頷いた。
仲間達がどう思っていたのか知ると、今度はこれからどうするべきかと考える。
「峯田さんは、城の方を調べたいんですか?」
「俺はそうしたいが……」
「……わかったわ。私も城の方に行きます」
徹が紹子の事を気にしたような顔つきで見ると、彼女の方が折れた。
すると、いつものように美甘や満も仕方がないといった顔をし、徹の方に付き合うと言い出し始める。
「係長達はどうする? 別行動をとった方が効率的だとは思うが?」
「……そう……ですね。あと、やっぱり峯田さんがリーダーをし……」
「では、行ってくる」
「ちょっと、徹!」
「お前、また暴走するんじゃないだろうな!」
「もう! すいません係長。何かあったら、掲示板の方に書き込んでおきますから。待ってよ満君!」
「……」
全てを言い切る前に、徹を先頭に逃げ出すように行ってしまった。
「諦めた方がいいですよ。あの人、引き受ける気が全くありませんから」
洋子が苦笑しながら言うと、良治はガクリと両肩を落とす。
そんなやり取りに須藤が肩を震わせ笑いを堪えていると、香織が大きな溜息をつきながら彼の頭を軽く叩いた。
「……俺達も行くか……っと、その前に着替えだな」
徹達が去ったあと、適当な場所で各自の休憩所を出す。
自分のポーチにしまってあった服や装備品を身に着けてから城の外へと向かう。
あまり気乗りしなかった良治であったが、18階の街並みを見るなり元気を取り戻した。
「おー…。良く作られているな」
「嬉しそうっすね……」
「何が違うの? 私には17階と変わらないように思えるけど?」
「いやいや違うぞ。補修工事をした跡もあるし、建築に使うレンガも準備されている。今までと違って人が住んでいるという感じが強いだろ?」
「……でもNPC達の態度は同じじゃない?」
「そっちは気にしないことにする……」
香織が言う通り。
いや、それ以上であった。
NPC同士の会話は城の時のようにスムーズに行われているが、良治達のことが見えていないかのように歩いている。
キーワードが分かればと思い幾度か試してみたが反応がない。
城の時とは違うのかもしれないと、彼等は考え始めた。
街の光景に関しては、現在進行形で使われているという印象を受けるもの。
香織が言う通り建築様式は17階と似ているが、生活感という面で上のようだ。
そうした街並みを迷宮スマホで撮影しはじめた良治の後ろで……
「手あたり次第にツボ割りして良いっすよね?」
「まずは、箪笥じゃないですか?」
須藤と洋子が、そうした事を当然のように言っていた。