君はどう思う?
意識が朦朧とする最中、声が聞こえてくる。
それは旧知の友人が語りかけてきたかのよう。
微睡んでいた良治は何の抵抗もなく反応し始めた。
『君は彼等のことが嫌いだよね?』
かれ……ら?
『NPCの事さ』
……あまり好きじゃない。
『トリスは? あれも同じだよ?』
特には……思わなかった。
『それならどうして、彼等の事は嫌がるの?』
……あいつだけなら平気だ。
『人数の問題? 人が多いのが苦手なだけ?』
違……う。
『NPCに囲まれるのが嫌?』
……そう……だ。
『人は平気で、どうしてNPCだと駄目なのさ?』
……話が……意思が……通じない。
『でも君の彼女はNPCはNPCとして受け入れているよね? 同じように出来ない?』
彼女……よう……こ……さん……
『……この状態でも名前を思い出せるんだ。凄いね』
……それは?
『何でもない。忘れていいよ。それよりさっきの話。受け入れられない?』
……
『……うん。分かった。じゃあ、質問を変えるよ』
お……ま……。
『もし、この先の……?』
……だれ……だ?
『……あれ、もしかして……』
さっきから……
『うそ!?』
『なにを言っている!!!!! 』
瞬間、良治の頭の中で、何かが破裂したような音がした。
痛みも感じ頭を振るいやわらげようとする。
「……追い出された? 僕が?」
管理者の声を耳にするなり怒りの感情が膨れ上がる。
抱いた感情をありのまま顔に出すと、傍にいた洋子が驚いてしまう。
彼女から見れば、管理者が指を鳴らしたと同時に、良治が頭をふるい怒り出したようにしか見えていなかったからだ。
「俺に、何をした!!」
「君こそ何をしたんだ!? ――って!?」
驚いたのは洋子ばかりではなく管理者も同じ。
怒りの感情を露わにし、襲ってきた良治の手に剣が戻っていた。
「剣まで! どうやったの!?」
「知るか!!」
単純明快な返答をし、正面から2度3度と切りつけていく。
強い怒気をぶつけるかのように剣を振るう姿は、普段とは異なり過ぎた。
「無茶苦茶すぎる! 大人しくてもらうよ!」
「何を――ッ!?」
下がった少年の体が宙に浮きだすと、良治が地を蹴り追いかけようとするが、突然体が重くなり、その場で蹲ってしまう。
「グゥ!?」
「良治さん!」
洋子が駆け寄ろうとしたが、彼女の体も重くなり動けなくなる。
「こんなことする予定じゃなかったんだけど、重力設定を弄らせてもらった」
その言葉だけで、洋子は悟った。
自分達がいる環境すべてが、管理者の手の中だと。
(でもそれなら、どうして?)
悟ると同時に、疑問が浮かぶ。
良治がとった行動は管理者にとって予想外だったのは明らかだ。
何故そうした行動をとれたのかという理由が分からない。
洋子が考えを巡らそうとしていると、天井付近で浮いている管理者が見下ろし早口に言ってくる。
「ほんと驚いたよ。お礼にサービスをしよう。そっちの彼女。君が考えたテストの意味は正解だ。僕が一番知りたかったのは君達の反応。そこに間違いはない」
その内容に、洋子の眼が大きく開かれる。
知りたかった答えの一つだ
だが、本当に知りたいのはその先。
自分達の反応を知り、何をしたいのか?
それを問うチャンスと思えたが、洋子が何かを言う前に少年が言葉を繋いだ。
「だけどゲームバランスやシステムについて、全く気にしていないわけじゃない。問題はないと思うけど……うん。お礼はこれでおしまい。じゃあ、また今度ね」
手を軽く振って、口調そのままの笑みを見せながら少年の姿が消えた。
残された良治と洋子が動けるようになったのは、彼が消えたあと。
良治の拳が強く握られる。
歯をかみしめ、悔しそうな目つきで少年が消えた空間を睨みつけた。
「良治さん、大丈夫ですか?」
「……あっ。洋子さんも大丈夫か? 具合が悪そうだったが?」
「それは治まりました。それより……」
近付き声をかけてきた洋子も宙を見上げた。
互いの視線が一点に向けられたその時、騒めく声が戻ってきた。
「……戻ったか」
「みんなも無事のようです。とにかく伝えておきましょう。どう言えばいいのか分かりませんが……」
良治は全くだと心の中で返事をし、仲間達へと近付いて行った。
何も知らずにいる彼等の表情が一変したのは、すぐ後のこと。
その報告の最中、管理者の姿を撮影しておけば良かったと、二人共が後悔する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
雑談スレ part 87
126 名前 名無しの迷宮人
管理者が突然現れて、ペラペラしゃべって、かってに頭の中で問いかけてきた?
127 名前 名無しの迷宮人
そして一番テストしたかったのは俺達の反応だったという、ありがたい解答をしてドヤ顔をしながら帰ったと?
128 名前 467
きっと、サムズアップしたんだろうな。
129 名前 大剣術士
お前達は、係長の話を信じていないのか?
130 名前 槍の派遣社員
係長達と実際に会って話さないと、信じられないとか言い出すんじゃねぇだろうな?
130 名前 R
本当の事なんですが、信じてもらえませんか?
131 名前 名無しの迷宮人
そうじゃないんだよ。
係長がそういう嘘をつく人じゃないのは分かるんだ。
132 名前 名無しの迷宮人
467は知らないが、俺達は真面目に聞いているよ。
どう受け止めたらいいのか分からないだけ。
133 名前 467
隙あらば、俺をディスるスタイル。
嫌いじゃない。
134 名前 剣術士
>>133
お前な……
さすがに空気よめよ。
135 名前 467
分かってる。ただ、俺達の気持ちも考えてくれ。
突然すぎて、反応に困る。
136 名前 杖術士
そのNPCってどういう感じなの?
トリスと変わらない?
137 名前 Y
そう言い出す人がいると思っていました。
>>NPC達の写真
138 名前 杖術士
>>137
これ全員NPCだよね?
そっちのメンバーの誰かが混ざったりはしていない?
これだけ見ると、NPCと人の区別がつかないんだけど……。
139 名前 Y
間違いなく、全員NPCですよ。
140 名前 名無しの迷宮人
何故いきなり出てきたんだろ? そこから分からないな。
141 名前 槍の派遣社員
係長に確認したかった事があったからだろ?
142 名前 名無しの迷宮人
それって、係長の頭の中でされた問いかけの事でしょ?
姿を見せてまで聞くような事なの?
143 名前 名無しの迷宮人
管理者の考えをズバリ読み解いたYさんなら、理由が分かるんじゃないか?
144 名前 名無しの迷宮人
そういや、大剣術士の推測は間違っていたんだな。
145 名前 Y
それは違いますよ。
大剣術士さんが考えたとおり、システムの方についてもテストしたかったようですから。
146 名前 大剣術士
フォローしてくれるのはありがたいが、無視していい。
そんな事よりYさんはどう考える?
147 名前 Y
分からないことばかりですね。
そもそも、私と係長だけが動けた理由すら分かりません。
148 名前 短槍術士
管理者の奴が、そうしたからじゃないか?
149 名前 Y
疑問なのは、その動機です。
NPCに関係したことを聞きたかったようですけど、何故、私と係長にだけなんでしょう?
150 名前 名無しの迷宮人
たまたま……ってのは考えにくいか。
151 名前 Y
えぇ。アレは最初から私と係長狙いですよ。
テストプレイヤー全員に確認したいのなら、大剣術士さん達も動けたはずです。
152 名前 大剣術士
二人が目を付けられているのは確かだろうな。
だが、その理由が分からないといったところか。
153 名前 Y
そうです。
これだけの事をやったんですから、管理者の目的に関係していると思うんですよ。だけど、何故、私や係長? それが分かりません。
154 名前 467
宝箱や扉の発見が理由じゃ?
ゲーム運営側として言えば、バグ的なものを見つけてくれるプレイヤーってありがたいもんだろ?
155 名前 R
そういうもの?
156 名前 杖術士
俺は違うと思うな。
157 名前 Y
>>156
何か分かります?
158 名前 杖術士
管理者が一番気にしているのは、俺達の反応なんだろ?
なら、そこが理由なんじゃない?
159 名前 弓術士
係長とYさんだけがこのゲームに特別な反応を示した?
そう言いたいんですか?
160 名前 杖術士
そうかもしれないし違うかもしれない。
俺は、467が言うバグ的な発見的なもので目を付けられたとは思えないだけ。
161 名前 名無しの迷宮人
じゃあ、一番攻略が進んでいるからだとか?
これだって反応の一種だと思うけど?
162 名前 杖術士
そうじゃないんだよな……
467の考え方もそうだけど、そういう考えって常識の範疇じゃないか。
でも相手は管理者なわけだし、そんな理由で動くように思えないんだ。
163 名前 名無しの迷宮人
意外と467は常識人だった!?
164 名前 467
意外ってなんだ、意外って……。
165 名前 名無しの迷宮人
あーもー!
さっぱり分からなくて、イライラする!
イベントの方も、歓迎パーティーが開催されてから全然進んでいないんでしょ?
それもどうなるんだよ!
166 名前 R
……いい加減終わってほしい。
167 名前 槍の派遣社員
同じ会話が続きすぎて、俺も苛ついてきたっすよ。
168 名前 Y
イベントの方はフラグ次第かもしれませんね。
169 名前 名無しの迷宮人
とりあえず今日も終わりの時間だし、お疲れ様。
170 名前 R
本当に疲れた。
今日は早めに眠ることにしますよ。
お疲れさまでした。