剣術士達からの報告
剣術士達の勝利報告が掲示板を賑わせていた。
「ドラゴンに勝ったか!」
良治が知ったのは昼の休憩中。
棍術士と杖術士が興奮気味に書き込んでいたのを見たばかり。
剣術士が大騒ぎするなと言うが、冗談を含んだ書き込み方をしている。
ハンマー術士の口数も多く、彼も同じ気持ちでいることが伝わってきた。
「楽しそうだな」
報告をする剣術士達はもちろん、それを見ている皆も同じく楽しそうだ。
まるで勝利者の気持ちが、掲示板の中で広まっているかのよう。
最も多く書き込んでいるのは杖術士と棍術士。
この二人が討伐の流れについて話している。
(ほとんど峯田さん達と同じで、違うのは風牙の融合魔法を使用した事か……。結構効いたんだな)
報告を見ながらウンウンと何度か頷く。
前半は徹達と同じようだが、後半の主力攻撃は近接職同士による風牙のパワー型融合魔法。ドラゴンの火の玉攻撃によって防がれないようにしたのだろう。
ただし……
(討伐にかかった時間は少し短くなっただけか……)
徹達と比べれば幾分短くはなったが、それでも長い。
何度かやられながら戦い続けたという点は徹達と同じらしく、立て直しにかかる時間がネックになっている。
(でも勝てて良かった。ドラゴンで悩む事からは解放されたわけだし……で、固有スキルの方は?)
書き込まれるのを期待していたが一向に出てこない。
騒ぎぶりを見る限り、言いづらいものを習得したわけではないだろう。
自分で尋ねれば済む話だということは分かっているが、楽しそうにしている彼等の邪魔をするのは気が引けた。
(そろそろ眠くなってきた……)
歓喜を感じさせる掲示板の話は見ていて楽しくはあるが、習慣による睡眠欲は抵抗するのが難しい。我慢する事は出来るが、掲示板の情報は今読まなければならないものでもないだろう。
後の楽しみにすることにし、目を閉じ横になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼からの探索を始める為に皆が休憩所から出てくる。
誰もが普段と同じ顔をしていたが、ほぼ同時にニヤついた顔を見せた。
「やったっすね!」
まず須藤が口を開いた。
良治は朗らかな笑みを見せつつコクリと頷く。
香織が何のことが分からない様子を見せると、いつものとおり須藤が教えだす。
「係長も見ていたのか?」
良治の反応をみて徹が聞いてきた。
「ええ、読みましたよ。凄く嬉しそうでしたね」
「それなら、何か言えば良かったんじゃないか?」
「おめでとうぐらいは言ったんですけどね……」
ハハハと苦笑いをして徹に返す。
他のプレイヤー達も一気に「おめでとう」と書き込んだ為、見逃しているだけだろう。
そうしていると、洋子が近づいてきて隣に並んだ。
「スキルの方はどう思いました?」
「報告があったのか? そこは、まだ読んでいないんだよな……」
「昼寝でも?」
「……いつもどおりな。で、どんな感じだった?」
「私は、良いと思いましたね」
「おぉ……。詳しく聞かせてもらっても?」
「えぇ。いいですよ」
洋子がニコリとした微笑みを良治に向ける。
誰も、自分のスキルで掲示板を見れば良いのにとは言わない。
洋子との会話を楽しみたい気持ちが仲間達に筒抜けだ。
「剣術士さんのスキルは『ディフェンス・アップ』というものでした」
「それは、どんなスキルなんだ?」
「自分のPTメンバー全員の守備力をあげるもののようです。物理と魔法両方に効果があり、従来からある防御系の魔法とも重複出来ると書いていました」
「……」
知るなり良治は黙ってしまった。
自分のと比べて考えると、効果が素晴らしすぎる。
(やっぱり、俺のは劣化版じゃないだろうな?)
疑わしく思っている間にも洋子の説明が続けられる。
「効果時間は5分。魔力が全回復状態で2度の使用ができるらしいです」
「防御系というやつか……。剣術士さんがPTリーダーであることが条件だとかそういうのは?」
「無いみたいですよ」
「……なんて羨ましい」
本音を漏らしてしまうと、洋子が苦笑した。
前を歩く徹達がグっと両肩を縮め震えさせる。
何も聞こえてこないが、笑いを堪えようとしている事だけは見てとれた。
多少の気恥ずかしさに耐え、次に棍術士の事を聞いてみる。
「あの人は身体速度をあげるスキルでしたね。名前は『クイック・ムーブ』でした」
「それもPTメンバー全員に?」
「自分だけのようです。魔力消費は微々たるもので、効果時間も1分ほどらしいです」
「……それは良いのか?」
「良いスキルだと思いますが、この手のタイプは本人次第かと思います。棍術士さんも分かっているようで、練習時間が欲しいと言っていましたね」
「彼のは練習が必要なタイプか……。人によって変わるもんだな」
思案するかのように顔をあげて言うと、洋子がクスリと笑った。
先ほどと違い笑わられるような事は言っていないはずだ。
困惑していると、否定するかのように手を左右にふりだした。
「係長を笑ったわけじゃないんですよ。棍術士さんって、スルースキルを得るんじゃないかって、気にしていたじゃないですか」
「覚えているけど、それがどうしたんだ?」
「彼がスルースキルを得ることを期待していた人達がいたらしく、それで責められました」
「……それは責められる事じゃないだろ?」
「そうですけど、期待していた人達にとってみれば違うんでしょうね。その時の会話を思い出してしまって、それで……」
説明をしていた洋子が、口元を隠す。
思い出してしまったが為に、吹き出しかけたのだろう。
棍術士が言うには、スルースキルだけは来るなよ。という考えでいたらしい。
その事が影響したのかどうかは知らないが、望み通りにはなったようだ。
棍術士の話をしていた洋子が笑うのを止め、次にハンマー術士について言い始める。
「ハンマー術士さんは『サイレント・ハンマー』というらしいです」
「サイレント? ……音を消すのか?」
「いえ、違いますよ。相手が使う特技や魔法関係を使用不可能にするものらしいです。有効時間や成功確率については、まだ分かっていないみたいですが」
「えっ? それって、ドラゴンのブレス攻撃もか?」
「どうなんでしょう? 色々試してみないと分からないと思いますね」
「なるほどなぁ……。で、杖術士さんは?」
「彼は……」
最後の杖術士になった時、洋子の口が尖りだした。
何かマズそうなスキルでもとったのだろうか?
もしかして、杖術士も徹のようなスキルを得た?
良治はそう考えたようだが、全く違っていた。
「スキル名は『マナ・ブースト』。魔法の威力を一定時間増幅できるものらしいです。どこまで増幅されるのか本人もよく分かっていないようですけどね」
「……あれ? それってかなり良いんじゃないか?」
「良いですよ。増幅がどの程度かまだよくわかっていませんが、もしパワー並みであればとんでもない事になりそうです」
「スキルを使った時に消費する魔力はどの程度だ?」
「おそらくは4分の1程だとは言っていましたね」
「……本当にいいスキルだと思うが、デメリット的なものはないのか?」
そこでチラリと徹の事を見る。
良治が何を気にしたのか知ると、すぐに首を横に振った。
「大丈夫のようです。杖術士さんだけではなく、他の3人も同じで特にこれとった問題はないらしいですね。……私が欲しかったですよ」
最後にボソっと呟いた一言で、彼女が口を尖らせた理由について知った。
良治同様に、洋子も杖術士の事を羨んだのだろう。
杖術士いわく、彼が習得したスキルは、以前やっていたオンラインゲームでも存在していたとのこと。どうせスキルを得るならそれが良いと考えていたらしい。
その思考が反映されたというのであれば、徹が言ったとおりベーシックダンジョンには記憶や心を読み取り反映させるシステムがあると思われる。
それは洋子も認めるが、管理者が第一にテストしたい部分については以前の考えから変わっていなかった。
スラッシュが近接職をゲームに惹きつける為の餌だったのだとしたら、この固有スキルもまた同種の類。特に自分が欲しいと願うスキルが得られるのであれば、餌としての効果は大きいはずだ。
スラッシュと違うのは、場所さえ分かれば簡単に手に入るものではない点。
そこでも洋子は考える。
(難易度の高いボスから、高い報酬をもらった時の達成感って、凄く嬉しいのよね)
簡単に手に入るものであれば、喜びというものは少ない。
自分達が強くなったという実感と、それに見合った報酬。
この二つが重なった時の達成感というのは、ゲームの評価をあげる。
謎の扉を使用し勝った場合、そうした喜びは少ないのでは?
もし、それが狙いだとしたら?
だから、あのような変更をした?
だとすれば、やはり自分達の反応をテストしたがっている?
洋子の中で彼女自身の推測が真実味を増したが、相変わらずその先にあると思える管理者の目的がわからずじまいであった。