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 休憩を挟み掲示板を見ると、剣術士達がドラゴン討伐に向かった事が書かれていた。


(もう行ったのか? それだけ勝てる自信がある?)


 次は必ず勝つ。

 そうした言葉を剣術士が書き込んでいた記憶はある。

 言葉通り見事勝利したのであれば、昼前には結果報告がされるかもしれない。

 さらに続きを読んでいくと、467達が書き込んでいない事を知った。


(あれ? いつもなら、一言二言あるはずなんだが?)


 それが無い。

 以前にも似たような事があったが、あの時は……と思い出す。

 まさか、また誰にも知らせずにドラゴン討伐に挑んだ?

 良治が思い出したと同時に、似たような事が書き込まれたが、その後すぐに467が自分が何をしているのか話し始めた。


(なんだ特訓してい……ッ!?)


 特訓内容が書き込まれるなり驚く。

 その内容はミノタウロスとのタイマン勝負。

 467は敵の攻撃を回避するのが苦手らしく、それを克服するためらしい。


(あの人って魔法職だろ? いいのか?)


 近接職と違い前衛という立ち位置には慣れていないはず。

 それなのに両手斧を振り回してくる6mサイズの敵と1対1?

 スパルタすぎないだろうかと思うが、ここ数日の特訓成果が出てきているようで、一人で戦えているという。


(それにしたって……)


 若干やり過ぎ感があるように思える良治の目に、名無しの迷宮人が俺もやってみるかと書き込み始めたのが映る。467に触発されたのだろう。

 ただ、その話から……。


『アラクネから離れるのは嫌だがしょうがない』

『ラミアの方がいいだろ』

『ラミアは蛇だろ。気持ち悪い』

『それを言うならアラクネは蜘蛛だぞ。そっちの方が気持ち悪いだろ』

『あぁ? やるか?』

『白黒をつける時がきたな』


 などという口論を発端とし、さらにアラクネ派とラミア派の他プレイヤー達が出てきて口論に混ざりだす。良治は、こめかみを指先で抑えながら掲示板を、そっと閉じた。


(まぁ、この分なら467さん達ももうじきか? もし剣術士さん達と組めたら、また地図作成の協力をしたいな)


 頭を切り替え、今抱えている問題について考える。

 15階も広かったが、17階はさらに広い。

 リング・シールドを見つけたような建物もいくつかある為、それらをすべて回るとすれば、かなりの時間が必要。戦闘にかかる時間は短くなりつつあるが、どうしてもそこで手間取って仕方がない状況に陥っている。


(……今、出来る事と言ったら、剣術士さん達が試さなくてもいいように、残りの融合魔法についても調べておくくらいか?)


 467達が無事にドラゴン討伐を終えれば剣術士達と合流し探索に乗り出すだろう。魔法職同士の融合魔法結果はその時に役立つかもしれない。とは言っても、休憩前に火球以外の実験は終わっている。


 回復や蘇生については、融合が成立しているのかどうかすら怪しい。

 多少の傷ぐらいなら通常の回復(小)でも治癒されるし、かといって大怪我をしてもらうわけにもいかない。蘇生にしても、誰かに死んでもらってまで試す気にはなれなかった。

 そもそもエフェクトが通常のものと変わらなかったのだから、恐らくは無理なのだろうというのが良治達の判断だ。


 氷結の『パワー型』融合魔法も休憩前に行っている。

 木人形と同じくサイズが変わるタイプのようで、ヘルハウンドと同じぐらいになった。


 残るは火球のみだが……。


(どう実験したらいいんだろ?)


 試すのは簡単だと思うが、安全な距離が分からない。間違っても味方に殺されるのは嫌だ。どの程度の爆発がおきるのか分からないのでは、建物の影にいても怖いものがある。その影響を絶対に受けないようにするには……


「あぁ!」


 ピンと閃く。

 宝箱は駄目だが、謎の扉ならどうだろうか?

 火球のパワー型融合魔法を完成させたあと、美甘か洋子に木人形を出してもらう。そして、良治のポーチにしまったままになっている謎の扉を支えさせれば?


(いいんじゃないか? これなら……)


 安心して実験ができる!


 ――と思ったが、今度は別の不安要素が浮かんできた。

 宝箱に攻撃を加えたせいで、宝箱型のモンスターが出てきた。

 ならば?


(今度は扉型をしたモンスターとか出てこないだろうな?)


 それは無いだろうと思うが、尋ねずにいられない良治であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そういうモンスターがでるゲームはありますね」

「俺も覚えがあるっす」


 探索を再開する前に聞いてみると、須藤と洋子がそろって微妙な顔つきをした。


「でも、壁代わりにするぐらいなら大丈夫じゃないでしょうか?」

「そうだな。直接攻撃を加えるわけでもないし、気にする程でもないと思うが?」


 今度は徹が洋子に同意してくる。

 他の面々は判断がしにくいようだ。


「大丈夫そうなら試してみたいんだが、どうだろ?」

「俺に異存はない」

「この階でやるんすか?」

「いや、広い場所がいいだろ。できるだけ障害物が無い方が見えやすい。それに、ここでやって、もし爆発範囲に宝箱があったら……」


 見落としは無いと思うが、万が一という事も考えられなくはない。

 良治達は、一度探索を中断し13階へと移動した。


 火球の融合魔法実験は、洋子が操作を担当するようだ。

 美甘が操作し止めているパワー型火球に、洋子のものが重なる。

 すると、二つの赤い炎が融合し……


「青白いな……」

「いいっすね! これ火力が上がってるんじゃないっすか?」

「情報の一つにありましたけど……たぶん味方を巻き込むタイプですよ」

「そうなのか……。じゃあ、少し遠い場所に落としてみてくれ」

「分かりました」


 大きさだけで言うなら良治と洋子で作った火球と同程度。

 しかし色合いが違う。サイズは同じでも威力は上と予想できた。

 出来上がった火球を頭上高くに上昇させると、今度は美甘が動きだす。


「木人形を出します。扉の方をお願いしますね」

「分かった」


 美甘に言われたとおりにする為、ポーチに手を突っ込み、彼女が作り上げたパワー型木人形の前に謎の扉を投げだす。

 良治の腕力でどうにかなるような重さではないが、ポーチから全てが出てくるまでは重さというものがない。

 出された扉が地面の上に横置きされると、その端を木人形が持ち上げ後ろから支えた。


 頭上高くある青白い炎を見る。

 扉の陰に隠れた洋子が顔をだし、あのあたりなら大丈夫だろうと判断。

 距離にして言えば、およそ70-100m先の地点だろう。

 それが余裕をもてる距離なのかどうか分からないが、火球を操ってきた勘に従った。


 手にしていたスティックを振り下ろすと、彼女の意思どおり向かいだす。

 あまり速度は出ないようだ。多少素早い敵相手だと直撃させることは難しいだろう。


 だが、爆発範囲次第ではどうなるだろうか?

 全員が扉から顔を出し、着弾の瞬間を目撃しようとする。

 洋子の手によって操られた炎が荒野に着弾すると、目を逸らしたくなる光が発生。空に向かって火柱が上がり、周囲に轟音と熱風を届けた。


 洋子の勘は正しかったようで、良治達がいる場所ともなると、ほぼ影響がない。

 僅かに届いた爆風によって、壁が多少揺れるかどうかといった程度だ。


「……ここなら大丈夫か」

「燃える範囲は思ったより狭いようですが、風はありましたね。やっぱり味方を巻き込みそうです」

「この距離なら大丈夫だけど、徹……」

「分かっている。係長。これを戦闘で扱うのは難しいぞ。前衛の俺達が巻き込まれかねん」

「その辺りは、皆で考えましょう。俺一人で悩むと、洋子さんに叱られますから」

「そんな事まで言わないでいいんですよ!」

「……つい」

「ついってなんですか!!」


 悩まずとも叱られるようだ。

 洋子に叱られたあと、彼等は使うタイミングについて相談した。

 

 その相談結果、洋子と美甘で火球のパワー型融合魔法を作るのは、良治がスレッドスキルを使い指示を出した時のみに限定した。前もって作られている事が分かれば、近接職もタイミングをみて退避行動がしやすくなる。影響範囲を把握しきるために、美甘の方でも操作してもらい2度3度と実験を試みた。


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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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