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洋子のブログにおいて

 ――洋子のアパート


 氷結の融合魔法を戦闘で試そうとしたが、敵が出現せずテストプレイが終了した。

 自宅へと帰った洋子は、着替えてからブログ更新に取り掛かる。

 この日、彼女が載せた情報はリング・シールドに関する事と、融合魔法についてなのだが……。


「荒れるよね……」


 予想は出来ていた。

 魔法職同士の融合魔法については、すでに情報を流している人々がいるのだ。その情報が自分のものと違う場合、流していた相手は信用を落とすことになる。


(でも、流さないわけにはいかない)


 分かってはいても削除はしない。

 そうしたことを知った上でブログ更新を続けているのだから。


 卓上におかれた液晶モニターと、下に設置されたPCの電源を落とし、夕飯の支度にとりかかった。

 以前であれば、外食や弁当などを買う事もあったが、ここ最近は自分で料理をしている。収入が落ちたからというのもあるが、良治が料理を夢中で食べてくれるのが嬉しかった。


 また作ってあげたい。

 もっと夢中にさせたい。

 良治の反応を見る度に、そうした気持ちが強くなってきていた。


(また寒くなってきたし、今日はうどんにしよ。係長と一緒なら鍋もいいけど……)


 白いエプロンを付けながら考える。

 背中に手をまわし紐を結ぼうとしたが、その手が止まった。

 良治の顔を頭に思い浮かべた瞬間、掲示板で書き込まれた一文を思い出したからだ。


(俺は構わない……とかぁあ―――!)


 ニヘラと顔つきが緩む。

 良治ならば『ああ、洋子さんだなぁ』と微笑むだろう。

 寒くはなってきたが、彼女の体温は急上昇。


「~♪」


 うどんを作るのに必要な材料を冷蔵庫等から取り出し用意。

 ネギ等を切りきざみながら、鼻歌を始める。


 心は空を泳いでいるようだが、その手は着実に夕飯の支度を済ませていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あぁ、やっぱりか」


 洋子と同様、自宅へと帰った良治は、自分達の事が噂になっていないかと調べた。その結果、予想どおり自分と洋子について書かれている掲示板を見つけてしまうが、それは覚悟の上。


 ただ……


「話が古いとか……。酷い扱いだな」


 世間一般的に言えば良治と洋子の関係は、すでに恋人認定されている。

 それが確定したというだけの話であった為なのか『だからどうした?』 という話になっていた。


『いまさら、何を言ってるんだ……』

『係長が認めたって言われても、だからどうなんだ? って感じがする』

『それを見たってことは同じグループのプレイヤーなんだろ? もっといい話はなかったのか?』

『俺達が迷宮で遊べ――仕事できる条件とか聞いてない?』


 そんな話がされてから、あっというまに別の話題へと切り替わった。


『俺、対人プレイしてみたいんだよな』

『他人を攻撃したプレイヤーはいるらしいな』

『いたらしいけど、その本人と思えるやつが、変な事を言っていたぞ』

『予想はしていたけどいたのか。変な事ってなんだ?』

『真っ暗な部屋に飛ばされたらしくて、そこで酷い幻覚を見せられたらしい』

『それってペナルティー部屋があるってこと?』

『たぶん? それ以上は言わなかったから、他の事は分かっていない』

『うわぁ……。本名が晒される危険だってあるのに、対人やった奴がいるのか。そのうえペナルティーありじゃ、対人遊びはやりたくないな』

『と言うか、真っ暗な部屋って、もしかして、例の隠し部屋の一つじゃ?』

『例の侵入出来なかったとかいう暗闇地帯?』

『かもな……。もしそうだとしたら他の2部屋も同じような扱いなんだろうか?』

『どうなんだろ? その辺りの情報も知りたいね』


 たまたま見つけた掲示板は、ベーシックダンジョン関係の総合スレだ。

 読む人は多く、流れも異常なほどに早い。何かの情報を流すのであれば、まずここに持ってくる人も多い。良治と洋子についての話を持ってきた人物も、それが目的だったが、あっというまに流されてしまう結果となった。


「この分なら騒がれないか?」


 とりあえず問題はなさそうだ。

 次に別の事を調べ始める。

 妙な聞き込みについて気になっていたため、そちらも調べてみるが、警察から聞き込みがされているという情報ばかり出てきた。


(俺の考えすぎか?)


 質問をしておいて返答を待たずに立ち去るという奇妙さ。

 徹が考えた現実への干渉。

 そこから出てくるのは、聞いて回っているのが管理者側の存在という答え。

 しかし、出てくる情報の中に、類似したものが一切ない。


(部長の言い方も気になる。報告する時に、少し注意して聞いてみるか)


 調べるのはそこまでにしノーパソを閉じた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日の迷宮で合流。

 探索が開始されると、槍を肩に担いだ須藤が洋子に近づいた。


「洋子さん、よかったっすね」

「えっ?」


 唐突すぎた須藤の声に、洋子が顔を向ける。

 隣を歩く良治も気になったようだ。


「何のことです?」

「ブログっすよ」

「見たんですか?」

「昨日、係長が大胆発言したので、もしかしたらと思ったんすよね」

「俺? どういうことだ?」


 後ろにいた香織も気になり近づいてくる。

 徹はすでに知っているようで、聞き耳だけを立てていた。

 隣にたつ紹子が『何のこと?』と小声で徹に話しかけるが、彼は黙って視線を後ろに向けた。聞いていれば分かると言いたいらしい。


「えーとですね……。昨日更新したブログ記事に、偽情報流すなってコメントが書かれたんですよ」

「偽? 洋子さんが? 嘘だろ?」

「当たり前です。相手にとって都合が悪いから、私が流した情報を偽情報扱いしてきたんです。ブログを開始する前に言いましたよね。そういう人がいるかもしれないって」

「……あぁ!」


 思い出すなり、ポンと手をうつ。

 洋子に情報の提示について相談した時、そうしたことを言われた記憶があった。


「言いがかりをつけられたのか。大丈夫だったか?」

「反応が異常に早かったですが気にしませんよ。大体……」


 と、先を言い続けようとした洋子であったが、なぜか頬を薄く紅色に染めた。


「どうした?」

「なんでもありません!」

「いや、何でもじゃないだろ?」

「本当に何でも無いですから!」


 明らかに様子がおかしい。何かがあったとしか思えない。

 しかし洋子は話したくないようだ。

 これはどうしたらいいものだと須藤を見る。


「……俺が言ったら、洋子さんが怒るっす」

「なんだ? そんなに嫌がるような事を言われたのか?」

「いや、偽情報コメントは、すぐに潰されたんで問題ないんすよ」

「潰された?」

「潰されたというか……埋められた?」


 須藤が言葉に困り首を捻る。

 何があったのか更に気になり洋子を見るが、やはり言う気はないようだ。


「どうしたのよ? 私も気になるわ」

「これ言っちゃっても良いっすよね、洋子さん?」


 香織に望まれると弱いのか、須藤が言いたい素振りを見せる。

 洋子は黙ったままだが、コクリと頷いた。

 本人の許可がとれるなり、須藤が喜々として言い始める。


「洋子さんって、結構人気あったんすよ」

「にん……き?」

「洋子さん……に?」


 良治と香織がそろって洋子を見ると、彼女の頬がさらに赤くなり始めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 洋子のブログが、人気があることは良治も知っている。

 それは彼女が継続してやってきた行いの結果だ。

 しかし、人気が高い理由はそれだけではない。

 彼女のブログは、プレイヤーにとって助けになるばかりではなく、関係がない人々にとっても楽しめる記事になっていたからだ。


「結構面白い書き方をしているからな……」

「係長も見ていたんですか!?」

「たまにな。……なぜ、そんなに驚く?」

「い、いえ。そのわりには、何も言わないから……てっきり……」

「素人があれこれいうのも、変だろ?」

「私だって素人みたいなもんですよ」


 良治はそれ以上言わず、首を傾げた。

 これからは感想の一つでも言うべきだろうか?

 そんな事を考えていると、須藤が何かを言いたげな表情で、良治を見ている。


「須藤君、どうした?」

「いいんすか、そんな余裕な態度で?」

「何のことだ?」

「コメント欄、見ていないっしょ?」

「そこは見ていないな……」


 須藤が何を言いたいのか、今一つ理解できない。

 ジレったくなってきた良治に、須藤が指先を突きつけた。


「昨日、洋子さんとの仲を認めたっすよね。それを知った人達が、祝福の言葉を一気に書いたんすよ。俺が見た時点で100コメは超えていたっすね」

「祝福って……」


 まず、自分を指さした。

 次に洋子を見る。

 彼女は何も言わないが、須藤の言う事を否定しようともしていない。


 総合掲示板では反応がほとんど無かった。

 それは、新たな情報を求める者にとって価値がないからだ。

 しかし、洋子のファンにとってみれば別。


 彼女が記事を書き更新した後のこと。

 総合スレで良治が公表した事を知ったファン達が、彼女のブログに集まった。

 偽情報扱いのコメントも書き込まれていたらしいが、そんなのはどうでもいいとばかりに、祝福コメントが流れていく。


 結果、偽情報扱いのコメントは無かったような扱いとされ、ほとんどの人が目にしていない結果となった。


「これから大変っすね。もし、洋子さんと別れたら、ファンから何をされるか分かったもんじゃ――グェ!」


 余計な事を言いかけた須藤の顎に、香織の拳が炸裂。

 下から突き上げられた彼女の拳によって、舌を強く噛んでしまった。

 もし、回復魔法が無ければ……。


 いや、後の事を考えての一撃だったのだろう。


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