良治達のPT
「ありましたね!」
「あぁ。後の問題は……」
「これっすね」
洋子は歓喜の声をあげたようだが、良治は手放しで喜ぶ事が出来ない。
須藤の迷宮へと移動することで、開けていない4つの宝箱を発見することが出来たが、ここまでは予想どおり。問題なのは鍵が開くかどうかだ。
須藤がサイズ違いの宝箱に鍵を使うと、数人が喉を鳴らす。
カチリという音がするが、それはいつものこと。
1度まわすと鍵がかかり、2度目で罠の解除がされるかどうかの判定がされる仕組みになっている。その2度目を回してから、洋子が鑑定虫眼鏡を使い覗き込んでみると『高級宝箱:爆発』と表示された。
「うぐ……」
「失敗か?」
「みたいです……」
洋子が両肩を落とし残念がる声をだすと、徹と満が意外そうに彼女を見る。彼等の中にある洋子の人物像と違ったようだ。
「他のも開けてみるっすね」
須藤が一回り小さな宝箱から離れ言うと、良治が頷き返した。
残った宝箱にも使ってみると、3つのうち1つのみが罠の解除をできたが、中身は予想通り鋼の盾。
「次だ。今度は俺の迷宮に移動しよう」
あらかじめ決めていた通りの行動を開始。
各自が自分の迷宮へと戻されたが、すぐに良治の迷宮で合流。
宝箱を集め、再度のチャレンジを試みた。
結局サイズ違いの宝箱が無事に開けられたのは、次に移動した美甘の迷宮でとなる。
中に入っていたのは3人分の指輪。
琥珀色の石が嵌められた指輪であり鑑定してみると『リング・シールド』と表示され、洋子の顔つきが豹変した。
「キマシタァ―――――!」
「うん?」
「これは私達用の盾です! やっとですよ! 嬉しい!」
「指輪なのに盾?」
洋子が満面の笑顔をしながら指輪を1つ手にすると、徹と満が大きく目を見開き互いに顔を合わせた。
「(Yさんは、ああいう性格だったのか!?)」
「(俺に聞くなよ! ……というか、係長とYさんってやっぱり付き合ってんだよな?)」
「(それこそ俺に聞くな。見れば分かるだろ)」
「(そうですよね。嬉しい事があると、すぐに係長を見ているし、やっぱりそういう関係なんですよ)」
「(美甘ちゃんも、恋愛話が好きなの?)」
「(それは、まぁ……。紹子さんだってそうでしょ?)」
「(嫌いじゃないけど……)」
「(その紹子さんから見て、あっちの2人はどう思う?)」
満に言われ、腕を組み立つ香織へと目を向ける。
彼女の隣には須藤が立ち並び、洋子と良治の様子を呆けた顔をして見ていた。
「(どうって言われても……)」
紹子は、聞かれても困ると言いたかった。
嫌いじゃないとは言ったが、好きこのんで他人の恋愛話をする気はない。
彼等のヒソヒソ話は、須藤達に気付かれているが良治達の方を気にしている。
それもそのはずだ。
洋子が琥珀色をした小さな円盾を出現させ、自分の前に浮かべていたのだから。
「なにあれ?」
美甘が気付くと、皆の視線が良治達の方へと向いた。
円盾が出現した過程を見逃してしまっている紹子達は分からないが、使い方は真珠の指輪と同じで願えば出る。
出現方法はそれだけであり、誰でも簡単に使える代物であった。
「これは、触っても大丈夫なのか?」
「ええ。試してみてください」
「……分かった」
ゆっくりと手を伸ばし出現している盾に触ると、確かな硬さを感じる。
そのまま力をいれると、わずかに洋子の方に押されるが、すぐに動かせなくなった。
「どうです?」
「最初は少し動いたが、そこからは……。もう少し力をいれてみる」
再びやってみるが、最初の時と変わらなかった。
わずかばかり動かすことはできたが、それ以上は動かせない。
「動きませんか?」
「駄目だな。洋子さんの方では何も感じない?」
「ええ。私の方には何もありませんね……。これは良いかも?」
彼女がニヘラっと顔を崩すと、その表情が嬉しくて良治もまた微笑んだ。
須藤と香織は、そんな二人を見て苦笑している。
(これが、係長達なのか?)
掲示板の会話とは少し違ったPTの空気。
徹は、そんなものを肌で感じとれたように思えた。
(悪くはない……な。いやむしろ良い)
知ったばかりの感覚を徹はそう思う。
彼の顔も、その空気に触れたかのように緩むが、意識してのことではないだろう。
徹が良治達の事を理解し始めている間にも、実験が進む。
洋子の前に浮かび生じた円盾は、彼女の意思次第で自在に配置を変えられるようだ。その感覚をある程度覚えると、再度良治に実験を頼みこんだ。
二人の間で円盾の話が進んでいくと、それを見ていた面々も試したくなり、紹子と美甘が指輪へと手を伸ばす。
「満君、お願い!」
「徹。ちょっと協力して」
「はいはい」
「何をすればいいんだ、紹子?」
それぞれの相手に協力を頼み、自分達が出現させた円盾の具合を確かめ始める。
須藤は、時間がかかりそうだと思い、香織へと顔を向けた。
その視線に気づいた彼女は、ヌンチャクをもつ手を軽くあげる。
「稽古が希望?」
「今度の土日に駄目っすか?」
「またそれ? しつこいわね……。昨日も家に電話かけてきたでしょ? 家族が煩かったわよ」
「電話にでたのって誰っすか?」
「あれは父よ。色々聞かれて困ったわ」
「お父様! もっとしっかり挨拶しておけば良かったっす!」
「……やっぱり教えるんじゃなかった」
香織は呆れ果てた様子を見せるが、須藤はめげることがない。
両肩を落とした香織を気にせず『今度から、お父様と呼ぶ事にするか!』などと言っている。
彼等にとってみれば、それはいつものやりとり。
合流して二日目となる今日、徹達はその空気にふれ良治等の事を知った。
そんな彼等を見ている者がいる事なぞ考えずに、彼等一同は楽しそうだ。