見つかりはしたが・・・
事件発生から50日目の水曜日。
この日の朝、良治達はミミックについての話をしていた。
「2匹目からは、発見しただけで襲ってくる?」
「ニュースではそう言われていましたね」
「ほんと理不尽っすよ」
「鈴木さんは見なかったの?」
「見ていたけど、途中で野球中継に切り替えたからな……」
香織の尋ねに、後ろ首を軽くかきながら返事をすると、他の3人に嘆息をつかれてしまった。
「これ以上遭遇率を上げないためにも、宝箱を実験に使うのは駄目ですね」
「……言っておくが、やりたいわけじゃないぞ」
誤解されていると知り否定するも、洋子は苦笑するのみ。
須藤と香織は疑わしい目付きをしていて、どうしてそう思われているのだろうと悩んでしまった。
疑いを晴らす為ではないが、木人形のパワー型融合魔法実験を、宝箱抜きで試みる。
杖術士と467が以前行った報告によれば10m以上の木人形が出来るらしいし、是非とも見ておきたいという気持ちからでもあった。
さっそく美甘と洋子で試した結果、掲示板で話された通りのものが出来上がるのだが、同時に周囲にあった建物を壊しだした。
「建物に恨みでもあるんっすか!? こっちにまで破片が飛んでくるっすよ!」
「大きすぎるだけです!」
出現した木人形はサイズを大きくした分だけ、全体的に太くもなった。
複雑に絡み合った枝が腕や足となっていて、これも太くなり伸びている。
そうした諸々の部分が建物にぶつかり破壊され、その破片が飛んできてしまい、須藤が声をあげている。
騒動が落ち着いたあと、一際大きな建物を調べてみる事にした。
窓が並んで見えるが、カーテンといったものはない。
外から見る限りで言えばホテルか、あるいはアパートのような集合住居施設のように思える。建物に入ると、受付カウンターのようなものがあったが小道具の類が見つからない。
良治達は4人一組に分かれ、建物内部を探し始めることにした。
「他にもこういう建物があるんでしょうか?」
「上から見た限り幾つかあったな。教会のようなものも1つあって、それがかなり気になった」
木で出来た廊下を歩き、洋子と話していた最中に、扉の一つを開けてみる。
家具のようなものすらないのを見てから扉を閉めようとしたが、上の方から騒ぐ声が聞こえてきた。
「敵でも出たんすかね?」
「それだったら建物が破壊されるんじゃない?」
聞こえてきた声は男のもの。
徹か満。どちらかが大声を上げたかは分からない。
それに声だけではなく、廊下を走りまわる物音も聞こえる。
香織と須藤が首を捻っていると、洋子がボソリと呟いた。
「……まさかミミックじゃ?」
彼女が言うなり、良治は『あっ』と声をだし、口を中開したまま硬直してしまう。ミミックとの遭遇に関するシステムが、もし情報通りであれば、ありえなくはない話だ。
洋子の推測どおりだとすれば危険なのでは?
すぐに応援に駆け付けようと思ったが、上から聞こえてきた声や音が静まった。
本当にミミックと遭遇したにしては戦闘が終わるのが早すぎる。
もしかしたら、固有スキルを使用した?
そんな考えも浮かんだが、まずは合流するべききだ。
その合流をするために、スキルを使って掲示板に目を向ける。
何か問題があったのなら、書き込むよう言っておいたからだ。
良治が見ると、当人達からの書き込みがあり、宝箱を6箱発見したのが分かった。
しかし、爆発の罠が仕掛けられているらしい。
「きちゃいましたね」
「きたな……」
良治と洋子の二人が苦い顔をしてしまうのは、仕方がないこと。
彼女の部屋でやっているゲームで、良治は散々な目に合っている。
徹達が報せた連絡は、掲示板の流れを早くさせた。
理由は、罠が爆発だったと言う事もあるが、見つかった6箱のうちの1つが、小さいものだったから。
「5箱は盾が入っていたサイズと同じか……」
「俺達用の盾かもしれないっすね」
「残り1箱は何かしら?」
「盾ではなく、羊皮紙……でしょうか?」
「同じ場所に、別の種類の宝が置かれていたってことか?」
「かもしれないという事です。それを確かめるにしても、爆発の罠が……」
「あぁ……」
須藤が腰にぶら下げているポーチに目をむける。
そこには銀の鍵があるはずだが、6箱分全部の罠が解除できるとは思えない。
(開けないという選択もあるにはあるが……)
進めているゲームで、洋子に言われた事を思い出しながら、彼等は徹達の元へと向かう事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
徹達が探索していたのは建物の3階部分。
彼等が発見した6つの宝箱は、3つの部屋に分かれ置かれており、良治達と合流してから銀の鍵による罠の解除を試みた。
その結果6箱あったうちの2箱のみが安全に解除ができたわけだが……。
「鋼の盾か……」
「予想通りですね」
洋子が言うように、宝箱の中身は鋼製の盾。
予想通りというのは、次に盾が発見されるとすれば鋼製のものだろうという点についてだが、予想が当たっていても嬉しくはないらしい。
「盾を使っている係長と満の分を得られたのは助かったな」
「それはいいけどさ……」
優先的にもらえた満が、盾の具合を確かめながら不満そうに言う。
彼等が罠を解除し手にする事ができたのは、どちらも鋼の盾。
残された4箱のうち3箱は同じものが入っていると予想はできるが、サイズ違いの一箱が気になる。
それに……
「予備があると助かるんだけど、どうにかならないか?」
「そう言われてもな……」
満の気持ちについては徹も同感だが、罠の解除ができるのは銀の鍵でのみ。
試しにもう一度使ってみたが、鍵穴に入れる事も出来なかった。
管理者が言った通り、1つの宝箱に使用できる回数は1度だけなのだろう。
「成功確率は低いと考えるべきですね」
「中が盾なら遠くから魔法を打って開けてみてもいいんじゃないかしら? 爆発しても大丈夫じゃない?」
「香織さんは、頭いいですね!」
「思いついたのは私じゃなくて、鈴木さんよ」
「へ?」
教えられた満が良治を見ると、彼は頬を軽くかいていた。
以前、氷結の魔法で宝箱を開けようと言い出したのは香織であるが、その前に魔法を使って遠くから開けてみようと言い出したのは良治。
彼女は、その事を口にしたに過ぎない為、褒められる筋合いはないと思ったようだ。
香織が氷結の魔法について言わなかったのは、以前の結果から判断しての事。
前にミミックに対して使用したことがあるが、魔法が弾かれ終わっている。
洋子の推測によればミミックとして動きだすまでは宝箱と変わらない状態だろうと言う事だが、それが本当かどうかは分かっていない。
「魔法を使うのはちょっとな……。爆発したら盾だって無事なのかどうか分からないし、その爆発でミミックとの遭遇率が上がるかもしれないだろ?」
そうした良治の考えは理解されたようだが、良いアイディアが出たわけではない。せめてサイズが違う宝箱だけは、なんとか無事に開けて中身を確認したい所である。
良治達は自分達だけで考えるのではなく、掲示板でアイディアを求めることにした。