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損な役回り

 自宅へと帰ると、さっそく部長の浩二へと電話をかけた。


「お疲れ様です。少し聞きたいんですが、会社に俺や洋子さんの事を聞きに来た人というのは、いませんでしたか?」

『ちょっと待ってくれ』


 畳みの上に座り尋ねると、ガタガタという物音が聞こえてくる。

 席を立ちあがり移動したのだろう。


『すまん。あまり皆の前で話すのはな……。前にも同じことを聞かれたが、あれとは別件か?』

「喫茶店での話ですか?」

『そうだ』

「別件というか……」


 どう言えばいいのか悩んだ良治は、自分が知る話を言い始めた。


 昨日、馴染みの定食屋の奥さんから聞いた事。

 一緒にいる須藤や香織にも、同じような事が起きていた事。

 洋子に、そうした話はなかった事。

 迷宮掲示板で聞いた事も含めて全てだ。


『……随分、妙な話だな』

「はい。それで、会社の方にもと思いまして」

『……』

「部長?」


 また、黙ってしまった。

 その沈黙に良治は違和感を覚え、目を細めた。


『会社の方には誰も来ていない。少し聞くが、勤めていた会社の方で聞かれた人達というのは、何かされたとか、そういう事は無いのか?』

「何かですか? ……そうした話はなかったですね。俺と同じような聞き方はされたようですが……」

『……同じグループの人々はどうだ? 警察に聞かれたという事以外は、本当にないのか?』

「ええ、言った通りですよ。たまたま、その時見ていた人の中にはいなかったという事もあり得るとは思いますが……」

『今のところは、()()と一緒にいる仲間のみ。ということか』

「……」


 良治の眉間にできたシワがさらに増えた。

 浩二の言い方だと洋子『も』自分や須藤達のように聞き込み調査をされているように思えたからだろう。


『まぁ、分かった。社長には言っておく。他にはあるか?』

「いえ、今の所は……」

『そうか……。分かった。それと今度の土曜日に報告を頼む』

「分かりました。洋子さんは?」

『一緒で頼む。洋子君には俺から言っておこう。……あぁ。それと、また何か妙な事があれば連絡を頼む』

「はい。それは分かっています」


 良治がそう言うと、電話が切られる音がした。

 まだ仕事が終わっていないのだろう。

 忙しいというのは分かるが、いつもと様子が違うように思えた。


(考えすぎだろうか?)


 勘じみた程度のものだし、電話越しだと今一つ分からない。

 疑問のようなものは残るが、とりあえず忘れる事にし、夕飯を食しに外出していった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――成労建設。


 良治から電話がかかってきたあと、浩二はすぐに友義へと電話をかけた。

 しかし誰かと話し中であり繋がらず諦めたが、その友義から後になって電話がくる


『やはり聞かれたか』

「はい。黙っておきましたが、本人が気にしている以上、隠す必要がないのでは?」

『うーむ……』


 友義の話を聞けば、467こと杉田 誠一から連絡があったらしく、会社の方に連絡が入るかもしれないと言われたとのこと。

 それを聞き、浩二に電話をかけてきたようだが、すでに良治から聞かれた後。

 会社に来た男について隠した事は友義の指示通りなので、それは問題ないのだが……。


『土曜以降は来ていないんだな?』

「例の男であれば、あれ以来、会社に来たという報告は受けていません」

『……分かった。今度の土曜まで少し考えてみる』

「では、報告時に?」

『考えてはみるが、どうするかは分からん。会社の方にはいるつもりだがな』

「お願いします」


 軽く目を閉じ言うと、友義の方から電話が切られた。

 手にしていたスマホをスーツにしまい席へと戻ろうとしたが、再度電話が鳴り出す。足を止め、しまったばかりのスマホを手にすると、相手は洋子であった。


(今度は彼女か……。そういえば伝えておくのを忘れていたな。やれやれ)


 深い嘆息をついてから出てみると、良治と同じような事を聞かれた。

 予想どおりだと思いながら、土曜日に出社する事を伝え電話を切る。


(仕事とはいえ、損な役回りだ……)


 愚痴の一つでも誰かに漏らしたくなった浩二であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 良治が夕飯を食べ終え、風呂に入った後の事、知らなかった話題がニュースで流れた。


『本日だけで、ミミックと遭遇した方々からの情報が10件以上寄せられています。中には、以前にも討伐に成功した人もいるようで、2度目の遭遇ということとなりますが、出現したアイテムは、全く同じだったものらしく……』


「うん?」


 聞き終えるなり良治は頭を捻った。

 手にしていたビール缶をテーブルの上におき、少し考えてみる。


 ミミックとの遭遇情報が増えだしているのは、遭遇率をあげる手段が正しかったからだろう。銀の鍵を欲しいと思ったプレイヤー達が、情報通り宝箱に対し攻撃をしているのだという事は分かるが、すでに討伐を成したプレイヤーも再度遭遇したというのは初めて聞く。


(じゃあ、何か? ミミックって、また出てくるのか?)


 嫌な予感がフツフツと湧いてきた。

 硬い上に、即死攻撃まで持つような敵と再度出会う可能性がある?

 まさかと思うが、ミミックと同時に4竜も相手にしなければならないんじゃ?

 そうした事を考えると恐怖を覚えるが、よくよく考えてみれば宝箱を鑑定した時に『高級宝箱:????』と表示された事を思いだした。


(無理に戦う必要はないし、見つけたら放置しておけばいいよな?)


 流石にミミックと戦闘しながら4竜の相手はできない。

 固有スキルを乱用すれば何とかなるかもしれないが、全滅の可能性もあるように思えた。それは洒落にならないと思いながら、チャネルを変え野球中継を見始める。


 浩二の件で不安は持ったままであるが、迷宮については今まで通りでいこう。

 そう思いながら、安心して眠りにつく良治であった。

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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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