実験タイム
魔法職同士の融合魔法について試そうとしたが、その前に気になる事が出来た。
「近接職3人での融合魔法を試してみないか?」
良治の提案を聞くと、洋子と美甘が顔を見合わせ、そろって首を左右に振った。
彼が思いついた事は融合魔法の有用性が知られた時点で検証されており、現実だけではなく迷宮掲示板の方でも出来ない事が書き込まれている。それを2人ともが知っていたからだろう。
「やり方が悪いとかじゃないよな?」
「そういう感じではなかったですね」
「色々試されているみたいで、もう出尽くしている感じでしたよ」
「俺もそうした情報は見たが、成功したという話は聞いた事がない」
洋子だけではなく、美甘や徹にまで言われ、良治は残念そうに肩を落とした。
これが出来れば、魔法職がいないPTでもドラゴン討伐の難易度が下がるかもしれないと考えていたからだ。
気落ちした良治が、駄目なものは仕方がないと頭を切り替える。
今度は魔法職同士の融合魔法を試す話になり、良治が宝箱を出しかけたが、その手がピタリと止まった。
(壊れないなら、威力についても分からないし意味が無いか)
そうした判断をすると、ポーチの中へと戻す。
宝箱が『……あれ?』と、小さく呟いたように良治には見えたが気のせいだろう。
敵がいない場所で水弾の実験した後、さっそく火竜に対して使用。
風牙もそうであったが、水弾も魔法職であれば操作ができる。
美甘と洋子の場合どうなったかというと……。
「やっちゃえ!」
喜々とした声をだし、白銀色の短剣や自分のポニテを振り回しているのは美甘。
彼女の想像力に従い作られたのは、でっかい雪だるま。あるいは鏡モチのような形をしたもの。本人は招き猫を作ろうとしたらしいが、大きな水弾が上下に重なっただけにしか見えない。
その雪だるまなのか、鏡もちなのかよく分からない二つの玉が、ズンと飛び跳ね火竜へと迫る。心なしか火竜が戸惑っているように見えた。
「み、美甘さん。あれでどうやって戦うんですか? 体当たりでも?」
「殴って攻撃します」
そう言われて再度見るが、腕のようなものはない。
「……手や腕って無いですよね?」
「伸びるんですよ」
「伸び……る?」
何が伸びるんだろうと目を向けると、下にあった水弾の中からニョキっと水柱が伸びて火竜の顔に命中。1本だけで終わるわけもなく、2本、3本と水柱による連打攻撃が始まった。
洋子達の安全の為、側にいた須藤は口パク状態。
土竜と戦っていた徹は、戦闘をしているはずの土竜よりも、美甘が操る魔法に恐怖を覚えている様子。
満と言えば、内心で『またやったか…』と思いながら、見て見ぬふりを決め、良治は『凄いことをする子だな……。洋子さんも呆気にとられているけど大丈夫か?』と彼女の方を心配している。
紹子と香織は一緒に風竜の相手をしているようだが、どちらも我関せずを決め込んでいた。
そんな面々の前で、水柱をぶつけられボコボコにされる火竜。
もちろん火竜も負けてはいられないと、火炎の息を吐きだし反撃を行いだす。
「しぶといですね!」
美甘がそう言いながら、握り作った拳を振り回す。
6mサイズの火竜と、その上をいく、なんだかよく分からない水の塊。
その戦闘光景はヒーロー番組で見られるものに近いが、周りで戦っている者達にとってみれば冗談ではすまないだろう。
洋子が、手早く倒した方が良いだろうと判断し、パワー型水弾を作りだす。
いつもの通り形状を変えようとしたが、その途中ふとした思い付きが浮かんだ。
(これ、混ぜられない?)
美甘によって操作されている、良く分からないものを見つめる。
もし、それに新たに作った水弾も混ぜれば?
近接職3人での融合魔法は出来ないらしいが、この場合はどうなのだろう?
好奇心が湧き出し、自分が操る水弾を近づけてみたが、触れるかどうかという所で青白い障壁が出現し、洋子の水弾が弾かれ消えてしまう。
「洋子さん、今の何ですか?」
「さらに融合できないか試したんですけど、システムに邪魔されるようですね。……だから3人の融合魔法は無理というわけ……残念ですが諦めるしかないですね」
言葉通り諦めると、再度パワー型水弾を作りだし美甘と一緒に火竜を討伐。
その後、すぐに紹子の応援にまわり、須藤は土竜へと向かう。
良治と満の方でも、水竜討伐が終わる。
二人が安堵した息を吐き、互いに顔を合わせた。
どちらからともなく笑みを見せあい、緊張感を解きかけた2人であったが、すぐに気を引き締めなおす。
2人が土竜に向かうことで、この戦いは無事に終わることができたようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さらに融合魔法の実験が行われた。
「土鎧や、闇鎧。それに金剛鎧は従来通り。光陣については、一瞬大きな魔法陣ができるのみ……残りは、火球と氷結。あと木人形だが……」
「火球だけは試すのが難しいかもしれませんね」
先頭を歩いているのは香織と須藤。
その後ろを洋子と良治が並び歩き話していた。
「俺も、火球だけは危険なような気がするが、紹子はどう思う?」
「私も同感だわ」
良治達の後をついて歩いていた徹と紹子も同意見のようで、躊躇いがある様子。
最後尾を歩く美甘と満は目上である仲間達に判断を任せ、全く別の事を言い合っていた。
「もう猫を作ろうとするのは止めろよ」
「可愛いいのに……」
「固有スキルがあるだろ」
「だって、あれは魔力を全部消費するんだもん」
「そうは言っても、水弾で作る事はないだろ。いつも通り、針でも作っとけばいいじゃないか」
「あれは短剣なの!」
「……何でもいいから、猫だけはやめとけ」
そうした二人の会話を徹達は何度も聞いた事が有るので、口を挟む気はない。
火球の融合魔法が危険だと判断がされている理由について言えば、ネット上の情報から考えた結果だ。噂によれば形状は様々だが、大きく分けて2つのタイプがある。
一つはノーマルの火球を強化したもので、爆発が周囲に及ぶ。
もう一つは、良治と洋子の融合魔法結果と同タイプで、敵だけを燃やし尽くすタイプ。
後者ならリスクは低いが、前者であればどうだろうか?
情報の中には、試したPTメンバーの中から2人の死者が出たというものがある。信憑性については十分あると思うが、この情報には影響範囲が書かれていない。
結局試すまで分からないわけだが、味方殺しの可能性がある以上、安易に実験したいとは思わなかった。
良治は、そうした情報を知っていたわけではないが、ありえるだろうと予想はしている。
「後の事は、明日にしないか?」
「えっ?」
「どうせ、しばらくは探索を続けないといけないだろうし、今すぐ試さないといけないというわけでもないだろ?」
洋子にそう言ってから、体を軽くひねり後ろにいる徹達に顔を見せた。
「それでどうだろ?」
「俺達は構わない」
「ええ。ここは、下の階よりも広いようですしね」
徹と紹子の同意を得ると、口の端を緩ませた。
紹子が言うように、この17階はとにかく広い。
何故、それが分かっているのかと言えば、この階には空があるからだ。
ジャンプを使えば、街の様子が上空から見えるため、どれだけの広さなのか大体は把握できる。
しかし、把握出来たからと言って、宝箱や階段が見つかったわけでもないが……。