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聞いてしまった

「すまないが、今日はここまでにしてくれ。少し不安が残る」


 休憩所にいる良治の元へ徹がやってきて、そう伝えた。

 顔つきだけを見れば大丈夫そうに思えるが、内面は別。

 本当に元のままの自分なのか?

 そんな疑念が、徹の中で渦巻いていた。


「結局、剣術士達も挑むようだし、討伐に成功したのなら合流してくれても構わない。まぁ、勝利したとしてもスキルの問題があるだろうが……」


 愛想笑いのようなものを見せ、彼等は自分達がいた迷宮へと戻っていった。


 徹が言ったように、剣術士達が昼過ぎにドラゴンへの挑戦を開始。

 プレイヤー達の多くがその結果報告が出るのを待っていたが、強制退社となるまで連絡がなく、溜息まじりの強制退社となった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『本日だけでミミックとの遭遇情報が5件入ってきました。遭遇率を上げる為、宝箱に対し攻撃を繰り返しているプレイヤーが増えてきているようです』


「おっ?」


 強制退社後、徹が話した事がどのように流されるのか気になりテレビをつけたところ、このようなニュースが流れた。

 続きを聞けば、討伐が出来たかどうかの話になるが、5件中成功したのは1件のみ。他の情報では失敗に終わったらしい。


『また、ガチャのサービス停止についても情報が入ってきています。誰がどのグループに所属しているのか不明なため、正確な事は分かっていませんが、おそらく複数のグループでガチャの停止が始まっていると思われます』


(他のグループでも停止が始まったか……。蘇生魔法は上手く入手できたんだろうか?)


 その点で妙な争いになっていなければ良いなと思いつつ、ビールを一口。


 現実の掲示板にも書かれている事であるが、グループごとによってルールやマナーといったものは異なり、良治達のようなグループもあれば好き放題するグループもある。

 それでも以前と比べれば掲示板が荒れるグループはかなり少なくなっており、その結果が14階到達者の増加によるガチャの停止という形で表れ始めていた。


『また、ボス討伐による報酬に固有スキルというものがありますが、これがプレイヤーに対し悪影響を及ぼす可能性が出てきました』


「やっぱり出たか……」


 これを気にしたがために、外出せずビールだけを飲みながら待っていた。

 どのように話されるのかと思い続きを待つが、この話はすぐに終わる。

 徹のみにしか影響が確認されていない為、具体的な話が出来なかったからだ。


「あっさり終わったな? もっと大きく取り上げられるかと思ったんだが……」


 気にしていた話が終わると、良治は立ち上がり外へと出かけた。

 スーパーで弁当や飲食物を買い帰ってくると、馴染みの定食屋前にいた店主の奥さんに声をかけられたので、足を止めて聞いてみると……。


「あんた、何かマズイことになってないかい?」

「マズイこと?」


 奥さんの話に困惑したが、すぐに迷宮に連れて行かれている事だろうと考える。

 常識で考えれば一大事だ。他人がマズイと考えて当然だろう。

 そう考えた良治であったが、奥さんの話を続けて聞いてみると違っていた。


「おや? もう聞いているようだね」

「聞いている? 何のことです?」


 一度は納得しかけた良治であったが、再度困惑しだす。

 どういう事なのかと説明を求めると、その奥さんは自分が知った事を言い始めた。


「最近、あんたの事を聞いて回っている男がいるらしいんだよ」

「俺を?」

「アパートの大家さんの所にも行ったらしいよ」

「大家さんにまで!? それ、どんな人なんですか?」

「それが妙なやつでね……」


 詳しく話しを聞いてみると、その男は良治の名をだし尋ねると、返事をする前に立ち去ったという。

 もしこれが警察と思える相手であれば、この奥さんは何も言わなかったかもしれないが、まったく違う相手のように思えたらしく、良治に知らせてきたようだ。


「分かりました。ありがとうございます」

「それはいいんだけど、あんた大丈夫かい?」

「ええ、まぁ……」


 返事を誤魔化しつつ、洋子の事を気にする。

 もしかしたら自分同様に妙な奴に聞かれていないだろうか?

 そうした嫌な予感が浮かぶと、再度頭を下げてから部屋へと戻り電話をかけた。


 洋子の方では、そうした話は聞いていないらしく、一安心は出来た。

 しかし、奥さんの話で考えればマスコミや警察。あるいは探偵とは違うように思えたので、とにかく周囲に気を付けるよう言い電話を切る。


「明日、皆にも聞いてみるか……」


 自分だけなのか?

 それとも違うのか?

 不安を抱いたまま、翌日を迎える事になった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「会社の方でも聞かれたのか!?」


 翌日の朝、合流するなり須藤と香織に聞いてみたところ、同じような事が起きていると知り驚く声をあげた。


「香織さんもだったんすか?」

「たぶん、同じ男ね」


 その二人の話を聞いてみると、同じ人物と思える容姿と行動。

 そこまで聞いた良治が、頭を捻りだす。

 聞きづらい為、今まで聞いた事はなかったのだが……


「二人とも家が近いとか、そういう事はないよな?」


 似たような容姿と行動から、同一人物であると思えたのだろう。

 良治の顔が、いつも以上に真剣なのは胸騒ぎが消えないからだ。


「……俺、栃木っすけど、香織さんは?」

「私は神奈川ね」

「神奈川……。車で行けるっすね」

「あんた、何考えてんのよ」

「いや、土日だけ行って、色々と……」

「忙しいって言ってるでしょ。来ても相手なんかしないわよ」

「それは無いっすよ!」


 香織が睨むと須藤はすぐに引いた。

 須藤の狙いが何であるのか知った上での、お断りなのだろう。


「まったく……。それで鈴木さんはどこなの? 聞かれたのもいつ?」

「俺は宮城に住んでいる。聞かれたのは、土曜の事だったらしい」

「それならズレてるわね。私は先週の金曜日らしいわ」

「おれは先週の中頃らしいっす」

「……可能ではあるな」


 距離はあっても、日時が違うなら同一人物であっても可能だ。

 3人共がテストプレイヤーという点で一致しているし、その事を知っている誰かが自分達の事を調べていると思えた。

 不安がさらに増してきた良治は、一つの提案を出した。


「何かあった場合のことを考えて、電話番号を交換しないか?」

「賛成っす!」

「……鈴木さんに教えるのは良いけど、須藤君に教えるのは嫌だわ」

「そりゃ無いっすよ!」

「何を考えているのか分かりやすいのよ……」

「あれ? 香織さんって、携帯電話は大丈夫なんですか? それならスマホも扱えるんじゃ?」

「教えるのは家の電話番号よ。私、携帯を持っていないの」


 そこまで苦手なのかと全員の視線が彼女に集まった。


 こうした流れから電話番号の交換になったが、メモしたものを現実へと持ち帰れるわけではない。暗記しなければならないわけで、その辺りで面倒だ。


 結局、香織は須藤にも電話番号を教えたようで、彼が狂喜乱舞したことは言うまでもないだろう……。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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