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交流会

 良治達が話をしていた頃、須藤達と言えば。


「……離れなさいよ」

「狭いんすよ!」


 須藤と肩が触れそうな程に近い為、香織が嫌がる声をあげるが、離れるのは難しい。


 現在、この二人がいるのは須藤の休憩所。

 普段ならばベッドの上に座る香織であるが、そこには気絶している徹が横になっている。満と美甘も目の前にいて並び座っており、部屋の中が狭かった。

 したがって、須藤が香織の横に並び座り肩を触れさせているのは、彼が意図したものではない……のだが、離れようとも思っていない様子。


「満君。さっきから目が……」

「な、なんだ?」

「見ているよね? 明らかに、香織さんの方をチラチラと見ているよね?」

「見てないって! 変なこと言うなよ!」

「嘘だ! 鼻の下も伸びていたし!」


 美甘が頬を風船のように膨ませ、プイっと横をむく。

 困ったと満が宥めにかかろうとした時、須藤が苛立ち腰をあげた。


「香織さんの足は俺のだ!」

「……私の足は、私のものよ」


 香織が頭を抱え呆れた声で言うと、満に掴みかかろうとした須藤の態勢がガクっと崩れる。


「お前って掲示板で言う程、その人と仲良くないだろ?」

「……須藤君。あなた、掲示板で何をどう言ってるの?」

「い、いや、それはっすね……てめぇ短槍!」

「図星か槍派遣!」


 男二人が立ち上がり、互いの胸倉を掴む。

 ほぼ同時に拳が飛び大人気ない喧嘩が始まるが、すぐに背丈がある須藤が満に覆いかぶさり上を取った。


「二人ともやめてよ! 怒るよ!」


 唐突に始まった喧嘩を前に、美甘が泣き叫ぶような声を上げる。

 怒ると言った美甘の肩に手が置かれ、振り向き見れば微笑んでいる香織がいた。

 怖い。無言の圧力が圧し掛かる。

 美甘は場所をあけることに躊躇しなかった。

 彼女がいた場所に香織が立つと、静かに足を上げる。

 それを見てしまった満が顔色を青くすると、須藤も何かが起きていると気が付き、殴りつけようとしていた拳を止めたのだが……時すでに遅し。


「ハァ!」

「ふげぇ!」


 香織の踵落としが須藤の背に決まる。

 無論手加減はしているだろう。土竜の体を浮かせてしまう彼女が本気で蹴ったらどうなるか分かったものではない。背骨は折れずに済んだようだが、須藤の意識が一発で断ち切られ彼の体重が満に圧し掛かった。


「ぐぉ!」


 出られない。

 気絶してしまった須藤だけならともかく、その体を香織が踏みつけ抑えている。

 下敷きになった満は拘束された状態となり、下手をすれば須藤と口付けしてしまいそうなほどに顔が近い。


「悪かった! 俺が悪かったから!」

「謝らなくていいわよ。じっくり私の足でも見れば? そこからなら見れるでしょ?」

「もういいって!」

「見飽きたの? それはショックだわ……」

「みかぁ――ん! なんとかしてくれ!」


 助けを呼ばれた美甘は、ポニテの髪を壁につけたまま、首を横にふった。

 その間も香織は微笑んだまま須藤の背をグリグリと踏みつけており、もうちょっとで男同士の口付けとなりそうだ。


 美甘が両手で顔を隠しているが、指の間が空いているのは何故だろう。


「いやだぁあああ―――!!!」


 満が悲鳴を上げるが、須藤の体がどけられる事はない。

 気絶さえしていなければ須藤も同じ事を叫んでいたに違いないだろう。

 そんなのは見たくはない香織は、あと少しの所で足をどかせ須藤を回復させた。

 目を覚ました須藤は、満との距離に驚き殴りつけてしまう。

 結果、今度は満が気絶してしまう事になった……。



 彼等は既に自己紹介を済ませており、香織の事を美甘が名で呼んでいるのは、本人が良いと言ったからにすぎない。


 満が正気を取り戻すと4人が座りなおす。

 香織は、不機嫌そうにしている須藤を見て溜息を一度ついたが、すぐに美甘へと顔を向け話しかけた。


「それで、さっきの話だけど、貴方達も彼がこうなった理由を知らないのね?」

「はい。峯田さん……あっ。大剣術士さんの事ですけど、今日になったら突然ああなっていて、私達も驚きました」


 美甘が本心から言うと、香織は考え込むように自分の黒髪を指先で触った。


「治癒の魔法は試したけど駄目だったのよね?」

「はい。紹子さんもそれは考えていたようですけど、効果がまるでなくて……」

「そう……。彼女は理由を知っているの?」

「それは、その……満君」

「あっ。いや、知っているとしたら紹子さんだけだと思うけど、彼女も分からなくて……。かといって係長達は待っているだろうしって話になって、それで……」


 満がそう言うなり、須藤が『は?』と苛立ったように声をだした。


「お前ら、掲示板じゃ、そんな事一つも言ってねぇよな?」

「言えるわけがないだろ。徹が、先週何言われていたか考えろよ。こんな事になっているって知られたら、また笑いものにされる!」

「紹子さんは、今の峯田さんを直接係長に見せて事情説明をしたかったんです。それがこんな事になっちゃって……」


 言われるなり、須藤が右肩をかいた。

 彼もまた、徹が得たスキルで笑ってしまった一人だからだろう。

 仕方がないかもしれないが、本人や仲間にとってみれば不快でしかない。

 尤も、その仲間である満も、スキル名を聞いた時には吹いているのだが。


「どのみちスキル訓練が必要でしょうし、しばらくは駄目そうね……」


 気まずくなりつつあった空気の中、香織が腕を組み独り言にも似た声をだすと、美甘と満が顔を見合わせた。


「それなら……なぁ?」

「うん。私達の場合……」


 二人が何かを言いたげな様子を見せる。

 須藤と香織が困惑しながら二人を見ていると、少し間を置いてから満が言い始めた。


「あんた達の場合、練習がいるようだったけど、俺達の場合は違うんだよ。スキル訓練とか必要か? っていう程に簡単でさぁ……まぁ、徹の野郎は問題ありだけど」

「えっ?」

「……マジか?」


 それは予想していなかったと聞いた二人が軽く驚いてしまった。


 問題があるとすれば魔力切れのみだが、実戦で使う時には魔石を握り締めることを決めている。これは良治達の報告を元に彼等が選んだことであるが、それだけで十分。特別な訓練をする必要性を感じなかった。


 だが、徹の場合は別だ。

 彼のスキル有効時間について掲示板に書き込まれなかったのは、ある事情からとなる。


「峯田さんの場合、使うほどに効果時間が伸びている感じなんですよ……」


 最初は3分程度だったスキル効果が、2度目は5分にのび、3度目は10分まで伸びた。

 そして今日使ったのが4度目となるのだが、この時の使用時間は20分を超えており、それでも効果がきれていない。

 彼のスキル効果が終わったのは、仲間達の手によって気絶させられた時。

 須藤達がこの事実を教えられていた時、良治達も同じ事を知らされていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 紹子が知る限りの事を良治達に伝えると、彼女は徹がいる休憩所へと向かった。

 残された二人は、聞いたばかりの話について考えこんでいる。


「どうもな……」

「分かりませんでした?」

「いや……。君も思わなかったか?」

「というと係長も?」

「あぁ……。大剣術士さんは、何かの実験をしたかったんじゃないのか?」


 そう思えた理由は紹子の話からであるが、身近に何かと試したがる相手がいるからというのもある。


 良治が思ったのは、徹は自分で思ったようなシステムが本当にあるかどうかを確認する為に、ああした行動に出たということ。つまり、芝居をしていたという事になるが、彼女であるはずの紹子に説明していなかった理由が分からない。


 それに、最初は芝居だったとしてもスキル使用後はどうだろうか?

 徹の様子を見る限り、正気に戻れるかどうかも怪しいと、2人は考えた。


「彼女に伝えますか?」

「自分で気付けるんじゃないか?」

「今は、冷静に考えられないかもしれませんよ?」

「……それもそうか」


 言われてみればと、洋子を見る。

 もし洋子が正気を失ったような態度を取り始めたらどうなるだろうか?

 そう考えると、いつも通りの自分でいられる自信が無かった。


「たぶん落ち着いたら気付くと思いますけど、それよりも大剣術士さんを連れて探索するかどうかです。向こうの人達はスキル訓練が不要のようですし……どうしますか?」

「それは、みんなで考えるべきだと思う」

「相談します?」

「というか相談しないと駄目だろ。俺達だけで決められる事じゃない」

「……はい」


 良治がごく当然のように言うと、洋子は何故か嬉しそうに微笑み言った。

 彼女のそうした表情を見て気が付く。


「俺を試したか?」

「バレました?」

「まったく……」


 洋子なりに気遣っているのだろうと、良治は思う。

 また一人で抱え込みはじめたら、何かしら説教があったのかもしれない。

 彼は両肩を一度落としたが、すぐに顔を引き締めた。

 そのまま外へと出て行こうとした時、休憩所の扉が開かれ、そこには……


「……話し中失礼する」


 気絶させていたはずの徹の姿があり、その後ろに、他のメンバー達全員がいた。


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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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