スキルのシステム
――日曜の午後に行われた徹と紹子の会話
弓術士:
あのスキルは、もう使わない方が良いかもしれないわね。
大剣術士:
俺も使いたくはないが、出来る限り早く20階に到着するには必要になりそうな気がする。
弓術士:
気持ちは分かるけど……。
私は係長達を手伝うような気持ちで良いと思うわ。
大剣術士:
手伝いか……。
結局、それらしい事が出来ないままになりそうだな。
弓術士:
そう? むしろこれからじゃないの?
大剣術士:
俺が考えていたのは、係長達から少し距離をおいての手伝いというか支援だったんだが、合流するとなれば話が違ってくるだろ?
弓術士:
結果は同じなんだし良いじゃない。
大事なのは解放される事で、手段じゃないはずよ。
大剣術士:
それは分かるんだが……
弓術士:
考え過ぎ。
係長達と合流したら、判断は向こうに任せたら?
大剣術士:
係長に判断を任せるのは構わないと思うが、かといって俺達が無責任でいて良いわけでも無いだろ。
弓術士:
もちろんそうよ。
だけど、徹さんの場合は、少し気軽に考えた方が良いと思う。
大剣術士:
俺はそんなに考え過ぎなんだろうか?
弓術士:
私から見ても、気負い過ぎているふうに見えるわよ。
徹さんが得たスキル名ぐらいに、気楽にしたらいいと思う。
大剣術士:
紹子さんまでやめてくれ。
弓術士:
そうだったわ。ごめんなさい。
大剣術士:
いや、謝らなくていい。
……スキル名か。
紹子さんが得たスキルは良さそうだが、あのスキルを得た理由が分かるか?
弓術士:
……多分、皆と一緒にいるのが楽しいからだと思う。
大剣術士:
それは俺も同じ気持ちだが、それだけで?
弓術士:
徹さんが考えているのと、少し違うと思う。
怒らないで聞いて欲しいんだけど、私、今の状況が続いて欲しいと思う時があるの。
大剣術士:
まさか、紹子さんまで現状の維持を?
弓術士:
誤解しないで。
解放されたいとは思っているわ。
だけど、皆と一緒にいられる時間が凄く楽しくて、このままの関係を続けていきたい。……そう思ってしまう事が増えているのも確かなの。
大剣術士:
なるほど。
やはり、そういうシステムがあるということか……。
弓術士:
システム?
大剣術士:
記憶を読む。あるいは心を読める?
そんな機能があって、武器選択や固有スキルに関係しているんじゃないか?
弓術士:
それはあると思うわ。
皆も分かっているんじゃないかしら?
そんなものを作れるのだとしたら、本当に神かも?
大剣術士:
もし……もし、管理者が本当に神だとしたら、何故、俺達にゲームをやらせる?
弓術士:
またその話? それが分からないから20階到達を目指しているんじゃない。
大剣術士:
見て楽しみたいだけという説が多く流れているが、もし俺ならこんな事はしない。手を出さない方が何かと楽しめると思うからだ。
仮に干渉するにしても、神が干渉しているという事を人間には知らせない方が良いと思える。
弓術士:
徹さん?
大剣術士:
だったら何をしたい?
本人は、このゲームのテストをしたいと言っていたが、その通りという事だろうか? それにしては、バランス調整をしないのは何故だ?
弓術士:
バランスって宝箱の事?
大剣術士:
そもそもバランスはどうでもいいのか?
しかし、ドラゴンの報酬は修正した。なぜあれだけを?
……そこが大事なのか?
俺達の心や記憶が関係している報酬だから、そこだけは?
弓術士:
どうしたの? 少し変よ?
大剣術士:
俺の心が影響したスキルだとするなら……。
弓術士:
本当にどうしたの? ねぇってば!
弓術士:
徹さん、電話にも出ないでどうしたの!
弓術士:
そっちで何かあった?
それとも、私が言った事に怒ったの?
もし、それなら謝るから電話ぐらい出てよ……。
弓術士:
徹さん……お願いだから……
大剣術士:
……やってみるか。
神よ、見ているか?
俺の考えも、お見通しか?
それともこうなる未来を知っていたか?
フン。どうでもいい。
しかし、思い通りになる気はない!
弓術士:
どうしちゃったのよ、徹さん!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
紹子から話を聞いた、良治と洋子が視線を合わせた
「大剣術士さんも洋子さんと同じ結論を出したのか?」
「途中までは似ていますが、少し違う事を考えたようですね……」
「何か分かったんですか!?」
二人の会話に含むところを感じ、紹子が隣に座る洋子の両肩を強くつかんだ。
「いたい、痛いですから!」
「何か分かったんですか! 教えて下さい!」
「落ち着いてくれ!」
良治が二人の間に割り込むと、紹子の手が洋子から離れたが目は睨みつけたままであった。『逃がさない』という絶対の意思を感じるかのような目つきに洋子は諦め、自分が考えたテストという言葉の意味について話した。
「私達の反応テスト?」
「私はそう考えました」
「そんな事の為に? じゃあ、やっぱり神じゃない?」
「そう思いますか?」
「だって、そうでしょ? もし本当に神なら、私達の気持ちなんて簡単に操れそうだもの。テストする必要なんてないはずよ」
「それも、出来ると思いますよ」
「えっ?」
洋子があっさりと言うと、紹子が驚き二人を見比べた。
言い切った洋子の表情が変わらないのは分かるが、良治も驚いている様子がない。自分だけが取り残されたような気持ちになり焦り始めた。
「ど、どういうこと? そんな事は一言も……」
「掲示板で言っていない事ですか? 似たような話なら、少しは見た覚えが有りますね」
さらりと洋子が言い切ると、今度は良治も驚く。
彼女の性格を考えれば、自分が知らない間に出ていた書き込みをチェックしていたとしてもおかしくはないが、そんな大事そうな話が広まっていないのは何故だろう?
そうした良治の疑問に気が付いたのか、洋子は自分が思った事を言い始めた。
「他の人は知りませんが、私は確証もなしに広めたくなかったんです。不安にさせてしまうだけですからね。でも……」
紹子をジッと見つめる。
彼女が言った徹の言葉を頭に思い浮かべながら、確信を得たかのように言い切った。
「このゲームにプレイヤーの心や記憶を読み取るシステムのようなものがあるという点は、私も大剣術士さんと同意見です。彼は、その点を強く気にしたんでしょう」
そう思う洋子だが、そこからどうして大剣術士が狂いだしたのかまでは分からない。スキル使用時に、また少し変わったのは理解できるが、それ以前の変化理由は何だろうか?
紹子から教えられた情報だけで考えるならば……。
思い浮かぶ事があった良治であるが、その推測が合っているのかどうか判断が出来ずにいた。