彼女がしる経緯
合流はしたものの、彼等は2手に分かれた。
暴走が続いていた徹は仲間達の手によって気絶させられ、須藤、香織、美甘、満の4人で監視中。
良治と洋子は、紹子から詳しい話を聞く事にした。
「いきなりこんな事になってすいません」
「いや、貴方のせいってわけじゃないだろうし……」
「そうですよ。頭を上げてください」
3人がいるのは洋子の休憩所。
紹子が一人ベッドに腰かけており、良治と洋子はフローリング床の上に並んで立っていた。
「疲れているところ悪いんですが、教えてくれませんか?」
「前に会った時と、かなり変わっていましたよね。スキルを使用していなくても理性や人格に影響があるんですか?」
「……順番に話しますね。私も分からない事がありますけど、その方がいいでしょう」
毅然とした態度を作り紹子が話し始めるが、膝に置かれた2つの手が小刻みに震えている。気持ちの整理がついていない状態で話し始めた彼女の声は、どことなく弱々しい。
「徹さんが妙になり始めたのはドラゴンとの戦闘中からなんですが、あそこまでハッキリとしたものとは違いました。もっと大人しい感じの……」
「戦闘中から、おかしくなり始めた?」
「いえ。係長達が見たような状態とは違うんです。ブツブツと小声で何かを言っていたのは覚えていますが、それは小さなものでした」
話の最中に尋ねたのは良治。
その良治の服を洋子が軽くつまむと、何を言いたいのか分かったかのように頷いた。紹子の話を邪魔しない方が良いと思ったのだろう。
「不安にもなりましたが、徹さんは楽しそうに見えました。以前から戦闘の最中に笑っている事がありましたから、それがまた出てきたのだと私は思いました」
言いながら紹子が思う。
ダンジョンの中で何かを知る喜びは徹だけではなく、自分達も感じてはいたし、戦闘を楽しむという気持ちも分からなくはない。
同じような事が掲示板にも書き込まれた事があったが、これは分かる人にしか分からない事だろうと、彼女も思ってはいる。
そうした気持ちが強く出てきた。
その程度だろうと紹子は考えた。
彼女の推測通りなのか、徹の変化はすぐに収まりはしたが……。
「無事に討伐ができて固有スキルを得ると、徹さんが動揺しました」
紹子だけではなく、美甘や満も青ざめた徹の表情を見た。
ヨロめくように一歩あとずさったのも覚えている。
喜ぶはずなのに、何故そんなに嫌そうな顔をしているのか分からないと3人が思う中、徹は自分が得たスキルイメージについて話した。
スキル名を聞いた満は吹きだし、美甘はソっと視線を逸らす。
紹子は頭を抱えたが、名前だけならと思った。
しかし、徹がスキルを使うとそれが甘い考えだと思い知る。
スキルを使った彼は、良治達が見たような状態となってしまったからだ。
「人が変わったような様子に不安になりました。でも、スキル効果が消えたあと『理性がとんだようなものだ。心配はない』と言っていたんです。掲示板で報告した時には、いつもの徹さんでしたし、笑われて落ち込んでもいましたが、それは最近続いていました。また励ましたら元気になってくれるだろうとも思ったんですが……その話の最中から変わり始めてしまって……」
我慢していたのか、一気に話し出す。
気合を入れ伸ばしていた彼女の背が、徐々に曲がり始めた。
目の前にいる2人を交互に見ながら、自分が知る事を必死で語り始めている。
「彼の様子が本格的に変わり始めたのは、昨日の午後ぐらいです。私は徹さんとチャットや電話で話をしている事が多いんですが、その最中に突然変わりはじめてしまって……。私が、何か怒らせてしまうような事を言ったのかと思ったんですが、そういう感じもしなくて……何が何だか私にも分かりません」
一番知っているはずの紹子ですら、分かっていない。
その事は、見ているだけで十分伝わってくる。
まるで徹のように、紹子の精神状態も怪しくなってきているように思えた。
一旦落ち着かせようと、紹子の隣に洋子が座る。
いまにも泣き崩れようとしている彼女の肩に優しく手を置いた。
この場に彼女がいて良かった。
良治はそう思いながら、紹子の話を考えてみる。
(ドラゴンとの戦闘中の話は、以前からあったものだし関係はないとして、大きな変化があったのは休日か……。その時、二人の間に何かあったように聞こえるが……うーん)
そうなるとますます分からないと、首を捻ってしまう。
当人である紹子もそこを気にしていた。
詳しく聞きたくもあるが、当人が分からないのなら、自分達が話を聞いても分かるわけが……。
(いや? こういうのって違うか?)
自分の考えが間違っていると思えた良治は、元気を失くしかけている紹子に言う。
「良かったらで構いませんが、大剣術士さんが急変した時の会話を教えてくれませんか? 自分では分からなくても、他人が聞けば違う事もありますから」
知らずのうちに他人を傷つけてしまう事は、良治にも経験がある。
もしかしたら紹子と徹の間に、そうした事があったのではないだろうか?
そんな気持ちで尋ねた良治に対し、
「少し恥ずかしいですが……」
紹子は力なくそう言い、徹との会話を話し始めた。
公式で公開された口絵を活動報告に張りました。
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