合流!
(2匹は無理だ!)
剣の属性を水へと変えたまま、良治が火竜と土竜の両方を相手にする形となっていた。
少し離れた場所で戦っている徹の方は、もうじき終わりそうではあるが、その前に死にそうではある。
『グルル――――!!』
「またか!」
土竜は愚直なまでに突進攻撃を繰り返してくる。
トロル達とは違い足を止めようとはしないのが非常にやりづらい。
ジャンプスキルを使い避けるが、そこに火竜の炎が放たれた。
(1匹でも大変だというのに!)
直撃は避ける事が出来たが、髪の一部がチリチリと音を出す。
すぐに消すことは出来たものの、黒髪が焦げた臭いが鼻についた。
この状況は良治が意図したものではない。
今の徹を見捨てるのが忍びなく、火竜の方だけでも受けもとうとしただけ。
仲間がきたら反撃に出ようとしたのに、良治がいた場所に土竜も出現。
即座に敵として認識されてしまい、結果このような状況におちいっている。
空を飛び跳ねたり、近くの家屋の影に隠れたりしながら、火竜と土竜の注意を惹き続けているようだが限界があるというもの。
(誰でもいいから来てくれぇ――――!!)
心の中で叫びかけた時、火竜の尻尾が横ふりされ紙一重で躱す。
最初に使った土鎧はすでに効果が切れているのだが、それに気が付く余裕もない。その良治めがけて、またも土竜が走ってきた。
(しつこい!)
パワーを使う余裕も当然ない。
今の良治に出来る事は、敵の攻撃から逃げる事だけ。
何かしらの攻撃を一方にすれば、もう片方の敵から攻撃を受けそうだ。
(こんなの、長く続くか!)
自分目掛けて走ってきた土竜の体を、床へと転がるように避けた。
走り抜けていった土竜は、そのまま残っていた家屋と激突するが平然としている。
16階で見たドラゴンと比べればサイズは小さいが、周囲にある建物のサイズも小さい。ドラゴンの時と同じように、建物を使って身動き出来ないようにするのは無理だろう。
(どうする? どちらか片方を……と言っても……ってまたか!)
火竜1匹だけでも大変だというのに、現在は2匹だ。
交互に行われる攻撃によって、良治は防戦一方。
蓄積していく疲労は回復魔法でどうにかなっているが、攻撃の手が出さない。
本当に誰か……と思っていた、その瞬間、
「風牙!」
見慣れた白いブーメランのようなものが上空から飛来し、土竜の左腕を傷つけた。
さらに、
「そこ動くんじゃねぇぞぉおお――――!!!!」
頭上から聞こえてきた大声に目を向けると、槍を大きく振り上げた須藤の姿があった。彼がふるった槍が、土竜の前で振り下ろされ顔面に大きな傷をつける。
『グララララァーーー!!!』
赤い血が噴き出し、切り裂いた須藤の全身を濡らす。
鼻をつまみたくもなる臭いが周囲に広がるが、須藤は気にもせず槍を横振り。
土竜をさらに傷つけた。
その土竜に向かって近づく影が一つ。
赤いチャイナ服を着た香織である。
忍びよるように近づいた彼女が、駆け上がるかのような連続蹴りを胴体めがけ放つと、土竜の足が大地から一瞬離れた。重力を無視したような動きと威力だが、ジャンプスキルがあってこそ。
香織が宙で一回転。
崩れた石道の上に着地をしたのと、須藤がスラッシュを放ったのは同じタイミング。一瞬で行われた二人の連続攻撃が土竜の瞳から光が消し、その身体を地に伏せさせた。
「係長!」
良治の側に洋子が降りてくる。
不安そうに目尻を下げているのを見た良治が、彼女の頭にポンと手を置いた。
「大丈夫だ。それと助かったよ」
「い、いえ」
途端に、洋子の頬が朱色に染まる。
躊躇なく手を伸ばしてきた良治の行動に、驚きと嬉しさを感じたからだろうが『これで終わりだ。楽しい語らいだったぞ強敵よ!』という徹の声が聞こえてくると、脱力感に襲われた。
その時、大きな風切る音を耳にする。
「洋子さん!」
「えっ!?」
危機を察知した良治が、洋子を肩に担ぎ飛び跳ねた。
二人がいた場所を丸太のような尻尾が通りすぎる。
少し離れた場所に着地すると、良治が安堵の息を吐いてから彼女を肩から降ろした。
「悪い、咄嗟だった」
「大丈夫です!」
良治は強引過ぎたと思ったようだが、洋子に怪我らしきものは無い。
問題ない事を知ると、すぐに火竜を睨みつけ剣の柄を力強く握りしめる。
「援護、頼む」
「はい! 金剛鎧!」
洋子が魔法を使うと、良治の体が青白い光に包まれた。
効果を確認すると洋子が下がり、良治が前へと出る。
その時になり徹が戦闘に参加してきた。
「ウハハハハハハハ! 係長よ待たせたな! さぁ共に、竜退治といこうか!」
「……」
耳にはしたが聞かなかった事にしょうと決め、火竜に向かって剣を振るい始める。
2人が火竜との戦いを始めると、須藤と香織が洋子に近づいてきた。
「なにあれ?」
「あれが大剣術士のスキルなんすか?」
「そうみたいですけど……援護しづらいです」
火竜から目を離さずにはいるが、徹の動きが速すぎて魔法による援護攻撃ができない。そもそも必要なのかどうか疑問に思うほどに、本人は楽しそうに大剣を振るっている。
「生ぬるい! そんな攻撃が俺に通じると思うのか! 舐められたものだな。俺が、本当の攻撃というものをみせてやる!」
喜々とした声で言い放ったのは、通常のスラッシュ。パワー抜きの状態であるにもかかわらず、青い三日月型の衝撃波が火竜の尻尾を切断してみせた。
「あのスキル、マジでやべぇな……」
「凄いとは思うけど、彼のスキルはどのくらいもつの?」
「私にも分かりません。掲示板には書かれていなかったので……」
香織が尋ねた内容は、洋子も気にはしていた。
徹と一緒にいる3人については効果時間の事が書かれていたが、アルティメットチェンジに関しては無かった。聞いてみたくはあったが騒ぐ人々が多すぎて、その機会を逃したままになっている。
気になるのは効果時間だけではない。
その増幅効果についてもだ。
一人で水竜を倒せたという事や、火竜を翻弄している動きから考えるに、掲示板で書かれていた事は誇張ではなく、それ以上のように思える。
「終わりそうっすけど……手伝いどうするっす?」
「いらないんじゃない? 鈴木さんもいるし」
須藤が言うように、援護らしきものを必要としないまま徹と良治によって火竜が倒される事になったが、洋子は一つだけ疑問を覚える。
良治が徹と一緒に戦うのはこれが初めてだ。
そして徹は、スキル効果によって増幅された身体能力で戦っている。
洋子達に援護を躊躇させる程に徹の動きは凄まじい。
それなのに、彼がどう動きたいのかを知っているかのように、良治は動いている。
須藤や香織達と一緒に戦っている時も同じ事が出来るが、初めて手を組んだ相手とも出来るというのは妙な話だ。
そうした疑問をもった彼女であったが、自分なりの答えを思いつく。
(もしかして、スレッドスキルの訓練のせい?)
良治は、視界を半分封じられた戦闘を繰り返しているうちに、他の感覚を知らずのうちに研ぎ澄ましていた。元々、迷宮探索を繰り返しているうちに磨かれていた感覚の一つではあるが、それが更に磨かれたのでは?
土竜と火竜の2匹に襲われていても生き残れた理由もそれではないだろうか?
もしそうだとすれば、彼女が良治に求めていた訓練は無駄ではなかったという事になるだろう。
徹達によって火竜が倒されると、今度は紹子達がやってきた。
洋子がPTに入れたのは、須藤や香織ばかりではなく、短剣術士である中川美甘や、短槍術士である遠藤満も同じであり、この二人は紹子一緒に風竜と戦っていた。その3人がかりで、ようやく倒せた相手という事になる。
こうして良治達4人と徹が率いていた4人が17階でそろった。
ドラゴンを変化させる前に倒した良治達と、正攻法で倒した徹達。
彼らの実力は、全テストプレイヤーの中でも抜きんでている。
そうした実力だけを考えるのであれば、17階の戦闘は比較的スムーズにいきそうだが問題が無いわけではない。
誰がどう見ても、今の徹を、そのままにしておく事は危険と思われた。