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調査結果

 ――須藤 敏夫視点。


 妙な事になっていやがるな。

 たまには派遣会社の方に顔を見せておこうと思い行ってみたが、そこで変な事を聞かされた。


『どもっす』

『須藤さん久しぶり。どうかしました?』


 俺が登録している派遣会社があるのは、4階建てビルの1階。

 前面が窓ガラスになっている会社で、中の様子が良く分かる。


 俺が入るなり声をかけてきたのは矢代という人だ。

 キッチリとしたビジネススーツを着込んだ痩せた体形の人。

 俺の事をさん付けで呼んでくるが、年上のはずだ。

 たしか、34、5だったか?

 大分前に聞いた程度だったから忘れちまった。


『たまには顔を見せないと忘れられるかなぁ~と』

『そんな事を心配していたんですか? 会社としては、早く戻ってきてほしいくらいですよ』

『まーた、そんな調子のいい事を言って。相変わらずっすね』

『本当ですから。契約していた会社からも、須藤君はまだ戻れないのか? って催促されているくらいですからね』

『そうなんすか? そろそろ新人をいれるとか、考えていると思ったんすけど?』

『そう簡単にはいかないんですよ。歳をとりすぎていると体力的にもたないし、かといって若すぎると、上手く馴染めないというか……』

『いるっすねぇ~』

『分かりますか? 年々、増えてきている感じなんですよ。須藤さんのように上手い人もいるんですけどね』

『ほら、そうやって持ち上げる。これだから油断できないんっすよ。たまに契約書の内容を勝手に変えたりしていないっすよね?』

『ちょっ、須藤さん! そんな事出来る訳ないでしょ!』

『冗談っすよ……』

『……真顔で言わないでくれませんか?』


 家で保管してある契約書を確認しておこうと思っただけなんだが、顔にでたらしい。


 ……って、変な話っていうのはこれじゃねぇ。

 俺が話を知ったのは、この矢代っていう人からだ。

 突然会社にやってきて、俺の事を尋ねた人がいたらしい。


『なんでまた?』

『それが全然分からないんですよね。もちろん何も言いませんでしたよ』

『警察じゃないっすよね?』

『そういう感じじゃなかったですね。警察というよりも芸能人的な? 顔が俳優さんみたいに整っていて雰囲気が普通じゃないっていうか……。あぁ、警察なら手帳を見せてきますよ』

『ドラマのようにっすか? それって本当に見せるもんなんすかね?』

『見せますよ。以前うちに登録していた人がいたんですけど、その人が指名手配されましてね。その時に見せられました』

『マジっすか!?』

『……須藤さん。もしかして迷宮以外でもトラブルを抱えていませんよね?』


 そう言った時、矢代さんの目付きが変わったのを俺はしっかりと見た。

 俺に心当たりがあるわけがねぇし、軽く流してやると、すぐに戻ったがな。


『そいつって名前とかは? 名刺を出さなかったんすか?』

『それが何一つ無いんです。だから、何も言わなかったんですよ』

『変な奴っすね。……ちなみに、俺の何を聞きに来たんです?』

『それが、何でもいいと』

『……いや、それは変すぎでしょ? 本当っすか?』

『こんな冗談言いませんよ。しかも聞いておいて、私が何か言う前に帰ったんですよ。かなり変でしょ?』


 聞いた俺は、いつものとおり「はぁ?」と言ってしまった。

 矢代さんとは長い付き合いをしているから、そんな口調で話せるが、最初のうちは嫌な顔をされたもんだ。


 で、ここで思った。

 派遣会社に聞きに来たって事はだ……


『もしかして、俺が契約していた会社の方にも、そいつ聞きに行ってるんじゃないっすか?』

『どうでしょう? 向こうからは何も言ってきませんね』

『確認してもらったら駄目っすか?』

『確認する事で須藤さんの評価が下がるかもしれませんよ?』

『俺はいいっすけど、ここに迷惑かかるっすよね?』

『まぁー…』


 やっぱりそれが本音か。

 俺が聞くまでもなく、思ってはいたんじゃねぇの?

 しょうがねぇとは思うが、かといって引き下がったままっていうのは性に合わない。

 矢代さんから聞くのは止めて、俺は一緒に働いていた知り合いに電話をかけた。


 すると、案の定。

 俺が働いていた会社の方にも、そいつと思えるやつが聞きにきたらしく、ちょっとした噂になっていたらしい。迷惑なやつだよ、まったく。


 それに、妙な奴が家の近所にも出たらしい。

 俺は家族と一緒に住んでいるんだが、成人前の妹がいる。

 その妹から聞いた話だが、近所で良い男を見かけたらしい。

 最初に見た時は『イケメン!』とか思ったらしく、後をつけてみると時折遠くを見ては目を閉じて立ち止まっていたって話だ。


 確かに変な奴だとは思う。

 もしかしたら、同一人物かもしれない。

 しかし妹よ。

 イケメン顔の男なら、お前は追跡するのか?

 もしそうだとしたら、お前もどうかと思うぞ。

 兄として、そのあたりを詳しく聞きたいんだが?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 長い廊下を歩く足音が2つ。

 大理石のように磨かれた床を歩いているのは、管理者と呼ばれている少年と、頭上に光の輪をもつ青年。

 天井はガラス張りのようで、廊下を歩く2人の頭上に青空が広がっていた。


 歩いている少年の手に半透明のスクリーンボードがある。

 それにはレポート用紙にも見える画像データが表示されていた。


「……で、これが久遠 香織か。この子はあまり調査しなかったようだけど、どうして?」

「そのプレイヤーの勤め先は、家族が中心で経営されています」

「あぁー…。家族が絡んでくると、比較するのは難しいね」

「はい。ですが、それを考えても、鈴木良治の他者に対する影響力は抜きんでておりました」


 報告を聞きながら歩いていた2人が同時に止まる。

 報告データを凝視したまま、少年が言う。


「いいね」

「お気に召したでしょうか?」

「うん。欲しくなってきた」

「では、精神支配を行いますか?」


 ごく自然に青年が言うが、少年は顔を横にふった。


「何故でしょう?」

「そういうのをすると本質が狂うんだよ。それじゃ駄目だ。だから意識操作だってテストプレイに支障が出そうな部分にしかやっていない。その理由を分からなかったの?」

「御心を理解できない我が浅慮をお許しください」


 叱られたと思ったのか、青年はそう言い顔を下げたまま黙る。

 少年は、幼い顔立ちに似合わない重苦しい溜息をついた。


「……とにかく予定通りでいいから。いいね?」

「そのように致します」

「うん。じゃあ、仕事に戻って」

「では」

「はい、ご苦労さん」


 投げ捨てるように言うと、青年の姿がその場から消える。

 残された少年は、手にしていたボードに再度目をむけながら歩きだした。


「この人は、どう思うかな? できれば……」


 何かを期待するような気持ちを声にのせ、少年は廊下の先にある部屋の中へと入っていった。


 17階で足止めをされた良治達であったが、大剣術士達と合流できれば先に進めそうだ。残された期限は半分を切ったが、それでも余裕はあるだろう。


 しかし、良治が管理者によって完全に目を付けられてしまった。

 元々、注目していたからこそ青年達が動いたのだろうが、その結果、良治を欲するようにもなった。


 管理者と呼ばれる彼が何を目的としているのか?

 それは20階に到達すれば分かるのかもしれないが、彼等が無事に解放されるかどうかは不明である。

これで4章を終わりとさせていただきます。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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