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調査

 気持ちはよく分かる。


 それが良治の気持ちであった。

 ハッキリしてからでないと言いづらいという気持ち。

 そして、不明であったとしても、知りたいという気持ち。


 どちらの気持ちも良く分かると、強く頷いている。


(じゃあ、ハッキリさせるために掘るか)


 気を取り直し、パワー+スラッシュを使い壁破壊を開始。

 時折3階の敵であるゴブリンとコボルトが出てくるが、今の良治にとってみれば敵ではない。見かけると「お前達、久しぶりだな」とすら声をかけてしまった程だ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「これか……」


 そう呟く良治の前に、洋子が見たのと同じ扉があった。

 周囲を探してみたが、報告どおり操作できそうなものが見当たらない。


(聞いた通りなのはいいが、違和感が凄いな)


 良治の迷宮は雫が滴り落ち天然洞窟のような場所。

 洋子の迷宮とはまったく違う風景であるため、金属光沢を放つ扉というのは、違和感がありすぎた。


(あるのは分かったし、次は1階だな)


 当初の予定どおり、存在は確認できた。

 もし、これが洋子の仮説の通りだとするならば、下に何かあるかもしれない。

 それを調べる為に、今度は1階へと迷宮階転移を行う。


 通常、迷宮階転移で飛んだ場所というのは下から上ってきた階段前となる。

 しかし1階というのは、迷宮に連れて来られた最初の場所だ。

 つまり、スタート地点へと転移させる事になる。


 転位後休憩所から出てきた良治は、冷たい石壁を触った。


「……もう一ヶ月以上前か」


 会社へと電話をするため、自分のスマホを取り出した事。

 あまりの状況に絶望を感じ、スーツ姿のまま両膝を床にもつけた。

 管理者の声を初めて聞いたのも、その時。

 冒険者初期セットとかいう代物を手にすると、身の危険を感じて休憩所に引きこもりもした。


(強くは、なれたよな)


 自分の力を確かめるように拳を作った。

 現実ではありえないほどの急成長をしているのはゲームだからだろう。

 仲間と一緒に強くなり、新しい何かを知っていくのは面白いと思える。


 しかし、いくらゲームだからと言って……。


(あんなに挑めるものか?)


 ここのところ続いているドラゴンへの挑戦。

 1日だけ間を置いているようだが、全滅時に知った痛みや恐怖が、たった1日で消えるわけがない。怯えて躊躇するのが普通だ。

 大剣術士と剣術士は落胆しているようだが、それは痛みへの恐れとは違うように思える。


(慣れた。……というのとは違うだろうな。管理者に何かをされているように思うが、どこまでだ?)


 他人事のように思うが、それは自分達にも当てはまる事は知っている。

 良治が最初にこうした考えを持ったのは、吸血鬼への再挑戦時。

 ワーウルフの爪が内臓に届き、その痛みの記憶が残っているのに、翌日には再挑戦している。敵に対する恐怖はあったというのに、挑まないという気持ちが、まるで湧かなかった。


 あの時には、すでに。

 いや、最初から……。


 こうした考えを、口に出した事はない。

 良治同様に、他のプレイヤー達も似たような事ぐらい考えただろう。

 彼は知らないが、現実の掲示板でも書かれた事はあるし、迷宮掲示板でも同様だ。


 それでも、この問題が大きく拡散していない理由は、口にすれば恐怖が増すだけだからだ。


 精神が。心が。あるいは記憶が。

 そんな部分にまで干渉されているのだとしたら、今やっている調査も本当に自分の意志によるものなのか疑いたくもなる。


(本当にそうだったら、こんな疑問も持つわけがないが……)


 考えこみはじめると、深みにはまる。

 その先は奈落へと通じているような気持ちすら出てくる。

 だからという訳では無いが、良治なりに結論を出した。


(せいぜい恐怖心を薄めている程度なのかもしれないな……。いや、考えていないで、やるべきことをやるか)


 思考を切り替え、彼は確認作業へと向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 3階で見つかった謎の扉。

 それがもし1階まで繋がっているのであれば、ここだろう。

 そう思える地点へと辿り着いたが、良治の前にあるのは闇色のカーテンのようなものであった。


(何だ、この境界線みたいのは?)


 謎の光源は相変わらず良治の周囲を照らしているが、すぐ目の前にある場所からは暗闇で覆われている。奥へと行けば行くほど暗闇は広がっているようで、中がどうなっているのか、まったく分からない。


「入れるのか? ……試すか」


 それだけでも確認しておこうと剣を抜く。

 切っ先を闇のカーテンへと向け手を進めると、カチっという音と確かな手ごたえを感じ動きが止まった。


「行き止まり? ここまで来て? ……それは無いだろ」


 特に考える事もなくパワーを使い始めたのは、これもまた管理者の嫌がらせのように思えたからだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 結果は?


「無理だった」

「駄目なんですかぁ――!!!」

「ねぇわ! マジねぇわ! 管理者のやつ気が利かねぇな!」


 結果報告をするために、仲間たちと合流。

 さっそく、洋子の休憩所で報告すると『ダークゾーン!』『きたっす! きたっすよ!』と2人が騒ぎだした。

 困惑する良治に、洋子達が詰め寄り続きを聞くと、別種の騒ぎが起きたらしい。


 とりあえず落ち着くのを待った。

 爛々と輝いていた洋子の目から光が薄れてくると、普段どおりの彼女に戻り、思う事を言い始める。


「イベントが無ければ開かない場所と考えた方が良いでしょうね」

「後々、関係してくるって事っすか?」

「そう思います。あるいは隠しイベント的な? どちらにせよ、条件がそろわないと侵入できないのかもしれません」


 ゲームに詳しい2人がそんな話をしている最中、香織が洋子の隣へと寄ってきて声をかける。


「じゃあ、中に入れるかどうかは、今は保留って事?」

「うーん……この際一度……係長?」


 考えている最中に良治の手が掲げられたが、顔は誰の目からも逃げるように横を向いていた。


「まさか――」

「何か見つけたんすか!?」

「……違う」


 では、なんだと?

 3人の視線が良治へと突き刺さる。


「3階に一度戻ったんだ。あの扉が壊せるかどうかだけでも確認しておこうと思ってな。でも駄目だった。あれは宝箱と変わらないんじゃないか? 傷すらつかなかったぞ」

「「「―――」」」


 力づくで中を見る事が無理だと分かってしまい、3人の頭が同時に垂れてしまう。


「つまり、何の収穫も無く終わったって事?」

「そうなるんだろうな……」


 香織の言う事に、力なく良治が言う。


 その時、一度は落胆した洋子の顔が上がった。

 何かに気が付いたのか、瞳から力を感じる。

 3人の目が洋子へと向けられるが、彼女は気付く事もないまま考え込んでいた。

 思考を妨げないように黙っていると、洋子の方で視線に気が付いた。


「収穫は、あるかもしれませんよ」

「何か思いついたのか?」

「ええ、まぁ……」


 声は自信が無さげだが、目つきが全く違っていた。

 自分達では気が付かなかった何かを、洋子はその手に掴んだかのようにすら見える。


「扉は駄目でも、周囲はどうでしょう? 扉を支えている壁を壊したら中に入れるかもしれませんよね? それに、周囲の壁が破壊できれば、あの扉を外して持ち運び出来ませんか? あのサイズなら、木人形が体を隠すのにちょうどいいように思えるんですよ」


「「「……えっ?」」」


 3人の声がハモったのは、必然だったというしかない。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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