謎の扉?
――良治達と合流する1時間程前の洋子。
パワー型の風牙や水弾を使い、壁を掘り進んだ先にあったのは真新しさを感じる巨大な扉であった。
「……あった」
見当は付けていたが、実際に目にした時の感動というのは格別なものだったのだろう。自分の気持ちを素直に出した彼女の顔は、良治が思う残念な顔の更に上をいった。
「これよ、これ! こういうのが無いと嘘よ!」
誰もいないのを良い事に、1人で喜びの声を出し、諸手をあげながら小躍りしはじめる。
洋子が見つけたのは、硬質感がある謎の扉。
その光沢から考えて鉄で出来ているようにも思えるが、鑑定虫眼鏡を使ってみても『???』とでるばかり。見た目だけで言えば一枚の鉄板とも言える形状であるが、床下にレールのようなものが見え隠れしているため、扉であるとは思える。
高さは軽く見積もっても5m程はあるだろう。
横幅も広く、中はかなり広く出来ているように思えた。
高ぶった気持ちのまま、扉へと近づき触りだす。
手の平を通して伝わってくる冷たさと硬質の手触り。
洋子がいた1階から3階は、近未来的な建物内部であるせいか、風景と合っているようにも見えた。
彼女の表情が、今にも頬ずりをしそうな程に不気味であるが、良治がいなくて幸いだろう。
(開くかな?)
扉の下に見えるレールのようなものに目を落とし考える。
おそらくは横へと滑らせ開くものだとは思うが、操作できそうなものが見当たらない。
(1階から3階まで同じようになっているのなら、エレベータの類……あるいは、部屋の中に階段がある?……宝物庫と言う事も……まずは開けないと駄目ね)
周囲を見渡したり、扉の横に積もっていた埃を取り除いてもみたが、何も見当たらない。
(扉だけ? どういうこと?)
探すのをやめ、腕を組み考え始める。
(……もしかしてイベントか何かで判明してからくる場所? その時じゃないと開かない?)
そう考えると、この先にあるものが、色々と頭に思い浮かび始めた。
ゲームクリアに必要なイベントアイテム。
あるいは、本編とはまったく無関係のサブイベント地帯。
さらに言えば……
(クリア後の裏ダンジョンだけは、やめてよね)
思うだけで、洋子の顔が歪んでしまった。
普通のゲームなら良い。
自分一人で遊ぶだけなら、むしろ大歓迎だ。
栄養ドリンクやブラックコーヒー。
あるいはポテチ等を用意して徹夜覚悟で挑戦し始めるだろう。
――しかし、今は違う。
仲間達もいて、3ヵ月という期間も定められている。
だからこそ、壁の破壊までをして隠し部屋探索をする気にはなれなかったのだ。
それなのに、裏ダンジョンなんてものがあって、それもクリアしなければならないとか言われたら、絶望という二文字が頭に浮かんできてしまう。
(なんとか開ければ……あっ)
頭の中で豆電球が浮かび光が灯った。
このサイズならば、パワー型の木人形で何とかならないだろうか?
そう考えるなり、さっそく実験を開始。
4mサイズの木人形が作られ、洋子の命令どおりに動く。
動きは遅いが命令に従おうと扉へと手を伸ばした。
ぐいっと横へと動かすようにするが、扉がビクともしない。
「もう一回!」
『――』
「もう一回!」
『――』
「もう……」
『――』
3回目となった時、ハニワのような黒い目が洋子を見つめた。ちょっと可愛い。
「……無理?」
『――』
器用に頭を下げる。
木なのに粘土のように曲がったように見えたが、気のせいではない。
(壊して中へと入ったら駄目よね。もしこれがイベント用だとしたら、そのイベントそのものに影響があるかもしれないし……1階を調べるのはどう?)
そこを調べれば何か分かるかもしれないが、
(何かをするにしても、私の迷宮でやらない方が良いか……。後の事は皆で考えよ)
そうした結論を出すと、掲示板を使い良治達と合流する事にした。
――合流後の休憩所。
話を聞いた良治と言えば、
「部屋の中に洋子さんのスキルで飛べないか?」
「無理ですね。自分で歩いた場所ならともかく、そうでない場所は転移できません」
良治がアイディアを閃かせたが、彼女はすでに考えていたようだ。
「その場所と似たような所って幾つかあるのよね?」
「はい?」
今度は香織だ。
何を思いついたのか、彼女の唇が嬉しそうに緩んでいる。
「もし、それが洋子さんの思うとおり、階段とかエレベータだとしたら、上の階にも通じてないかしら?」
「……あぁ、同じような場所があると言う事は、その全てが繋がっていると?」
「そう。私達が通っている階段とは別に、近道のようなものがあったって事じゃない? もしそうだったら、それを使えば……」
「おぉ!?」
聞いていた良治が歓喜の声を上げる。
もし、香織の言う通りであれば、20階まで一気にいけるかもしれない。
良治はそう考えたようだが、洋子は目を細め悩むような声を出した。
「流石にどうでしょう? 幾らなんでもそれは……でも、テストプレイという事を考えれば……」
ありえなくはない話だと洋子は言葉を濁した。
致命的な欠陥がテストプレイで見つかったという話は、彼女も知っているからだろう。
「係長。どうしましょ?」
「……え?」
そうするのが自然なように、洋子は良治に判断を仰いだ。
香織と須藤の目も良治へと向く。
3人の視線が、当人の意思を無視し集中すると、何かとんでもない判断を押し付けられたような気持ちになり、良治の片眉が2度3度と動いた。
(これも俺が決めるのか!?)
とは思うが、口にできない良治であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
・もう少し分かるまで掲示板で報告はしない。
・剣術士達からの勝利報告がでたら、そちらを優先する。
・まず調べるのは、他の迷宮でも同じものがあるかどうかについて。
・調べる迷宮は良治のもの。洋子の迷宮は、彼女がパーティーリーダーを務めるので、問題がありそうな事は極力避けたい。
・もし良治の迷宮でも同じものが存在していた場合、次に1階の同じ地点を調べる。
・扉の先については、1階を見てからにする事。
以上の事が決められたのだが、この時点で剣術士達からの勝利報告が上がってこなかった。
「全滅っすかね?」
「駄目だったかもしれないな」
「467さんの報告は読みましたけど、当人達も全滅しているでしょうから、動きを遅くするだけでは駄目だったのでは?」
「だが、遅く出来るなら火球だって口に放り込めるだろうし、勝てるんじゃないか?」
「……どうでしょうね? 変身後の状態を私達は見ていない訳ですから、判断がつきにくいです」
「……」
洋子のいう通りだと、良治は口を止めた。
剣術士達がどうなったかについては一旦忘れる事にし、良治はPTから外れ自分の迷宮へと出向く。
この日残された時間というのは1時間程度。
良治が目当ての場所へと辿り着くには時間が足りなかった。洋子がそうだったように、壁を掘り進む作業がある為、どうしても時間がかかってしまう。
いつものように終わりの挨拶を掲示板で書き込んでから、この日のテストプレイは終わりを告げる事になった。