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怪しんだ理由

 洋子から連絡が入ったのは、夕方頃となった。


「おかえり」

「遅くなってすいません」


 良治の休憩所で再会すると、心配させたという自覚はあるようで、すぐに頭を下げた。

 まずは話を聞こうと、それぞれが定位置へと移動。

 香織と洋子はベッドの上に。須藤と良治は床上である。


「とりあえず見て欲しいものがあります」


 洋子の言い方には、期待を持たざるを得ない。

 視線を集めた彼女は、自分の迷宮スマホをとりだし指先を動かした。

 目的と思える場所を表示すると「よし」といって、自分のスマホを全員に見せる。


「……ん?」

「あっ!?」

「一か所だけ違うわね」


 洋子が見せたのは3階のマップ。

 スラッシュがあった場所から北へと向かった所だが、その一部が水色で表示されていた。


 通常、埋められていない部分は黒で表示され、踏破すると道ならば白となり、壁であれば茶色だ。近くを歩けば、壁であったとしても茶色で表示されるが、一定範囲内に入らなければ黒のまま。

 今回発見された水色というのは初めての事となる。


「これは何だ? 特別なものなんて無かったと思うが?」

「壁を大分壊しています。普通に歩いていたら見つかりませんよ」

「破壊? 歩いてきただけじゃないのか?」

「そういう事です」

「……それで遅くなったのか」


 悪びれも無く言う洋子に、皆が呆れ顔をしてしまう。


 しかし、分からない事がある。

 壁を破壊した先に水色で表示された部分があったと言う事は分かるが、その部分は元々黒く塗りつぶされていた場所だ。そこが怪しいと見当をつけなければ、壁を破壊してまで探そうとはしないだろう。


「1階と2階が同じ道筋だったのを覚えていますか?」

「もちろんだ」


 力強く返事をしたのは良治。

 それを発見した当人なのだから強く記憶に残っていた。


「では次に、2階と3階はどうでした?」

「違っていたな」

「……全然覚えていないわ」

「香織さんは、そうっすよね……」


 須藤と合流する前の香織は、掲示板の情報も知らなければ、地図づくりもしなかったのだから知らないでいて当然だ。

 幾分機嫌を悪くしたようだが、須藤に言い返す気はない様子。

 香織の気分を害したと察した須藤は、話を戻そうと洋子へ質問を投げかけた。


「言っちゃなんすけど、それがどうしたんすか? 1階と2階はチュートリアル的なものだったはずっすよ。その2つの迷路が一緒で、3階から変わっても、変な話じゃないっすよね?」


 そうした須藤の尋ねに対し、洋子は手を左右に軽くふった。

 彼女の顔を見れば、須藤の質問は予想の範囲内だったらしい。


「須藤君のいう通りです。これだけなら変な話ではありません」

「じゃあ、他にもあるんすか?」

「はい。そこでこれを……」


 そういってポーチから出してきたのは、4枚のメモ帳。

 そのうち3枚は、彼女が自分で書いたものだが、もう1枚は良治から借りている3階の地図。


 洋子が書いた地図の方は、彼女が所有している手帳の一部だったもので、今は破かれた状態。何故破いたのかと言えば、自分で見比べる為だ。


「1階と2階は道筋が一緒なので2階だけにして……。こうすれば分かりませんか?」


 洋子が見せたのは2階と3階の地図を上下に重ね合わせたもの。

 3階の地図に関していえば、良治から借りたあとに自分で追記してある。

 見比べてみると分かるが、洋子が今回発見した場所というのは、両方の階で壁となっており、その範囲や形が全く一緒だった。


「……あぁ……なるほどっす」


 洋子が書く地図というのは、定規を使ったかのようにキッチリとしたもので、非情によく出来ている。1階から3階の迷宮は同じ面積になっている事もあり、重ねてみるのも簡単だ。


 つまり、1階から3階まで、全く同じ場所が壁となっており、なおかつその形状が一緒だったと言う事になる。良治ですら、これは怪しいと思える場所であった。


「もっと早くに調べても良かったんじゃないか?」


 疑問視するような口調で言うと、洋子は顔を左右にふった。


「似たような場所が、幾つかあるんですよ」


 そう言って洋子の指先が地図の南西方向へと伸びた。

 そこにも同じく、3階とも同じ形状の壁となっている部分がある。

 洋子が示したその場所も、すでに調査済みであり何も発見できなかった。

 一度は帰ろうとしたが、もう一か所だけと思い粘った結果が、新たな発見へとつながっている。


 洋子が示したような場所は、この他にも幾つかあり、他の階にも存在しているのだが僅かなズレがあった。それらを調査してみても新たな発見があるかもしれないが、何も無かったという可能性も考えられる。あやふやな推測だけで、他のプレイヤー達を動かしてまで調べるのは気が引けたのだろう。


 大体当人ですら……。


「たぶん係長がマップ埋めしてきても良いって言わなければ、私も調べませんでしたよ。ダンジョンの柱的なものとして存在しているだけなのかもしれませんしね。ですが……」


 そこで良治に向かって、心底嬉しそうな笑みを向けた。


「おかげさまで、謎の扉を見つける事が出来ました!」


 聞いた3人が驚く声を上げたのは、少し間を置いてからの事であった。


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web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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