とある名作
午後から大剣術士達が、再度のドラゴン攻略に挑んだ。
前半はヘイト値が無視されないのだから、近接職がタゲ固定を出来る。
氷結や木人形があった方が攻撃はしやすいが、それに甘えない方針で戦う事を決めたようだ。
融合魔法を使うのは、大剣術士と短剣術士。
タゲ固定の役割は短槍術士となる。
今までも彼が引き受けることが多かったらしい。
後衛職である弓術士が融合魔法の担当とならないのは、彼女が扱う魔法が別系統であるからに過ぎない。
同じように挑戦権を得ている剣術士や467達は様子見を決め込んだ。
順番など決めてはいないが、今度は467達の番ではないか? と思うプレイヤー達もいて、その事が書き込まれると自分達では実力不足と言い切ってしまう。
また、そうした話の最中、一つの事が発覚する。
それは、ガチャの景品が底をついたと言う事。
最初に報告をしたのは、名無しの迷宮人の1人。
以前にガチャ要望をだし蘇生魔法を1枚入手する事はできたらしいが、もう1つが欲しくて自分達の力で14階へと到達。そこでガチャを回していたらしいが、今日の午後になってハンドルが回らなくなったらしい。
同時に、チョビ髭を生やしたトリスが、
『ガチャサービスが終了となりました。楽しんでもらえたようで、何よりです!』
そう言い出したのを耳にし、神経を逆なでされた気分を味わったという。
これを知った14階到達済みのプレイヤー達が、自分のガチャ部屋へと向かうと、トリスが同じ事を告げた。念のために試してみると、ガチャ台のハンドル操作ができなくなっている。
怪しまれてはいたが、やはりというべきか。
良治達がいるグループでは、事件発生から42日目の火曜日にガチャが出来なくなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
訓練を続けながら大剣術士達の勝利報告を待っていたが、彼等が書き込むことが無いままに、その日を終えた。
(何か出来ないか?)
強制退社後、自宅へと戻った良治はそう考えた。
経験した事は報告ずみだが、それ以外にも自分達に出来る事はないだろうか?
そこで思いついたのは、洋子がいう隠し部屋。
(本当にあるのか? もし、そんなものがあって、ドラゴン攻略にも役立つようなものが置かれていたら……)
そう思った良治は、隠し部屋というものについて、もっと知ろうとノーパソを起動させ調べ始める。
(全然見た事がないものが多いな)
画面に表示されたCG画像を一目見るだけで分かる。
ドット絵だった時代と比べれば、今のゲームというのはまるで違っていた。
(今更、俺が覚えているようなゲームが話題に上がる事も……おっ?)
マウスを動かしていた手が止まった。
なぜなら、それはドット絵で描かれていたものだからだ。
しかし、良治の記憶を触発するものではない。
彼がやっていた時代より、少しだけ先へと進んだ時代のものであった。
(これって昔のゲームだよな? 今でもファンっているんだな……)
少しだけ興味をもちページを見ていくと、ゲーム攻略に関係していた事が書かれていた。詳しい攻略情報はもちろんとして、タイムアタック用フローチャート等というものもあり、首を捻ってしまう。
(タイムアタック? タイムを競うゲームなのか? 全然違うように見えるんだが?)
良治がそう思うのも無理はない。それはRPG系のものなのだから。
色々と覚えてきているが、今の良治では理解できる遊び方ではなかったのだろう。分かる人には理解できる類のものだが、良治には早すぎた。
(最近になってタイムが更新されているな。凄いのかどうか分からないが、やり込む人っているんだな……)
そんな事を思っていると、洋子が言った言葉を思い出した。
(『名作と呼ばれるものは時代が変わっても名作と呼ばれる』……だったか? ……こうして今でもやり込んでいる人がいるなら、このゲームも名作なんだろうか?)
良治が思うとおり、彼が目にしているゲームというのは名作といって過言ではない。
今なお、同タイトルのものが続けられているシリーズ化作品の第一作目だ。
戦闘はこの当時に使われていたシンプルなもので目新しくはないが、様々な点で高く評価されたもの。
特にエンディングで大きな謎を残したのは、高い評価に繋がっている。
そんな事をすれば、買った事を後悔される恐れがあるが、このゲームをやったプレイヤー達が抱いた気持ちは『絶対に2を買う!』というものが多かった。
(隠し部屋があるな。洋子さんが言った通り、昔からあるんだな。このゲームの隠し部屋ってどっちのタイプだろう?)
攻略情報にのっていたマップを開き見て思う。
地上に点在する迷宮の地図。
各地にいる人々の場所。
最終的には塔を登る事になるが、それも全て閲覧が可能。
良く調べてみれば、動画へのリンクもあった。
タイムアタックのものと、通常プレイの両方があって、腰をおちつけて見たくなってしまう。
しかし、その前に良治の腹が空腹を訴えてくる。
(手早く済まして見てみるか。コンビニでカレーライスでも買ってこよう)
私服へと着替えた良治が、アパート近くの脇道を通り過ぎていったのは、すぐ後の事であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の朝、頭をフラフラとさせている良治が迷宮にいた。
「珍しいですね。寝不足ですか?」
「ゲーム動画を見ていたら、つい……」
「ゲーム動画? 係長が?」
「そういうのを見る趣味があったんすか?」
「今度は、どうしたのよ?」
「いや、なんというか……うん。忘れてくれ」
3人が聞きたそうにしているのを見て、良治が嫌な顔をしてしまう。
それは寝不足とは別の理由からになるだろう。
(隠し部屋の事をすっかり忘れて、ストーリーに魅入っていたとか言えない……あの終わりは無いだろ……くそ、絶対2も見てやる……)
恐るべきは、名作と呼ばれるストーリー。
タイムアタック動画ではなく、通常バージョンを見てしまったが為に、しっかりと見てしまったようである。