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スキル訓練

 ――12階。


 剣を収めた鞘をベッドわきに置き、寝転がる男が1人。

 スレッドスキルを使い、掲示板を(まなこ)に表示させ見ていた良治だ。


「盾PTってなんだろ?」


 そう書き込みたくもあったが、迷宮とは関係が無い話と思える。

 無関係な事を尋ねてドラゴン攻略と思える話を邪魔するのは気が引けたので、あとで洋子に尋ねてみようとA4式バインダーノートに記載しておくことにした。


 現在良治以外の3人は外に出てモンスターを探し回っていて不在。

 荒野の中に置いて行かれた形ではあるが、合流するのは簡単だろう。

 ベッドから起き上がりポーチから迷宮スマホを取り出したのは、皆がどのあたりを歩いているのかを知る為。

 洋子がリーダーとなった時のみ表示されるようになったMAPというアイコンをタッチすると、自分を中心とした周囲の地図が表示された。


(ホント便利だよな)


 指でなぞりながら、表示された地図を動かす。

 自分を中心とし表示された地図は、拡大縮小も出来る上に、今まで通ってきた場所が全て記録されていた。


 それは洋子が通ってきた道筋。

 その全てが閲覧可能であるが、良治が今見ているのは仲間の居場所だ。


 3人の居場所を調べてみると、休憩所に近づいて来ているのが分かったが、訓練を終えたにしては早すぎる。

 何か問題でもあったのだろうか?

 気になり外へと出ていくと洋子が駆け出し近づいてきた。


「早かったな。何かあったか?」

「この際ですから、係長のスキルも使って訓練した方が良いかと思いまして」

「俺の?」


 自分を見上げ微笑む洋子に勝てるわけもなく、彼女の思いつきを聞いた後、参加する事になった。




 良治のスレッドスキルは戦闘中でも使用は可能だが、彼自身が近接戦闘時に使うのは危険極まりない。理由は、視界の右半分が掲示板表示になるからだ。


「係長のスキルは、近接戦闘時に使用するのは危険だと思いますが、それでも慣れる事によって少しは扱えるようになると思うんですよ」

「……つまり何だ。トロルやミノタウロスを相手にスレッドスキルを使いながら戦えと?」

「はい」


 躊躇いのない返事を聞き、良治は絶句してしまう。

 恋人同士になれたような気がしたのだが錯覚だったのだろうか?


(そんな馬鹿な!?)


 あれは夢か幻か。

 洋子がそう思ったように、今度は良治が思ってしまう。

 その相手となるモンスターを探すため、洋子は迷宮スマホにうつる敵味方の識別マークを注視しながら歩いていた。


「もちろん須藤君と香織さんにフォローしてもらいますし、敵が1体になってからのみとしますよ」

「別に近接戦闘で使わなくても良くないか?」

「17階の敵の事を考えたら、少しでも出来る事を増やしておいた方が良いと思うんですよね」

「それは分かるが……」


 ならせめて2階へと自分だけが行き、そこで練習するという方法もあるのでは?

 そう考えるのだが、洋子はこの方法で頑張って欲しいらしい。

 理由は、17階の敵がトロルサイズだから。

 出来る限り近しいサイズで慣れて欲しいというのが洋子の気持だろうが、視界を半分隠された状態での戦闘とういうのはどうだろうか? 良治が思うようにゴブリンからやり直すというのも手なのかもしれないが、それはそれで時間がかかりすぎるとも思える。


 アラクネやラミアが出る階について、洋子は最初から考えていない。

 理由はお察しというものだ。


「少しでも慣れたと思ったら書き込んでくださいね。私達の練習も兼ねているんで」

「練習? 皆は、聞くだけだろ?」

「言いにくいんすけど聞こえてくる声って、係長の声なんすよ。それを、なんつうか、こう……」

「後ろから囁かれるような感じなのよね。少しくすぐったいわ」

「そうだったのか!?」


 足を止め驚く良治の前で、洋子の腕が上がる。

 どうやら、敵がそこに出現するのが分かるようだ。

 彼女が指さした場所にトロルとミノタウロスが出現すると、洋子が思った通りの戦闘が開始された。


(どうしてこうなったんだろ?)


 須藤と香織の固有スキル訓練であったはずでは?

 そう思う良治であるが、香織達が使える固有スキルは燃費が悪い。

 何度も使うのであれば魔石の使用が必要になるが、訓練で使ってしまうのはもったいないというもの。


 先の訓練では、その回復時間を休憩所で過ごす考えだったが、どうせならドロップ品集めや、良治のスレッドスキル訓練もしては? という効率重視の考えによって、こうなってしまった。


 そんな事を知らないままに、良治達の固有スキル訓練が始まる事になった。


 1度目の戦闘から、トロルを相手にスレッドスキルを行使。

 最初から慣れるわけもなく、意識が掲示板の方に向かう。

 すると杖術士と467による木人形の融合魔法結果が書き込まれたのだが、どうやら失敗に終わったらしい。


(駄目だったか)


 融合そのものは上手くいった。

 2つのパワー型木人形が融合した結果、サイクロプスよりも巨大な木人形が出来上がったという。実に頼もしい話だ。ボス以上に大きな味方を増やせるというのは心強いだろう。


 しかし、この魔法。

 術者が両方そろっていなければ維持は出来ないらしく、467がPTから外れたと同時に、出現していた木人形が消失したという書き込みがされている。


(もったいな……ッ!?)


 掲示板を見ていた時に、足元が激しく揺れた。

 トロルがもつハンマーが良治のすぐ側にぶつけられたからだ。


「あ、危なかった……」

「鈴木さん、ボーとし過ぎよ!」

「だけど、掲示板でぇ――このぉ!」


 報告されたばかりの事を香織に言おうとした時、再度ハンマーが振り下ろされそうになる。

 目にした瞬間、ジャンプを使い飛び跳ねた。

 向かう先にあったトロルの腕を深く切りつけると、血しぶきが飛び散りハンマーが地に落ちる。


 仲間達はそうなる事を予想していたのか、周囲に散っていた。

 トロルが切られた腕を抑えながら両膝を地につくと、須藤と香織が飛び掛かり止めを刺す。

 手慣れた動きだ。

 それもそのはずだろう。


 ――何かと言えば、練習台に使っているのだから。


(結構やばかった)


 咄嗟の判断とはいえ、少しばかり無茶をしてしまった。

 また、洋子に怒られないだろうか? と考えたとき、その当人から声をかけられる。


「香織さんに何を話そうとしたんですか?」


 突然すぎて良治の背筋が伸びた。

 知らない間に洋子が近くにいた事もあるが、聞こえてきた声から不機嫌さを感じたからだ。

 振り向くのも怖くなり、須藤達の方を向いたまま返事をする。


「掲示板で、ドラゴン攻略について話されていて、それを……」

「掲示板? ……そ、そうでしたか」


 彼女が声を細め言うと、感じていた圧力が薄れたように思えた。

 緊張が自然に解かれると、香織と須藤も近づいてきたので知ったばかりの出来事を教え始めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「維持するのは駄目ですか……」

「木人形の融合魔法とか、見てみたいっすね」

「人が増えれば可能じゃない?」

「そうでしょうけど……」


 次なる敵を探し求めながら話しをしている最中、洋子の表情が曇る。

 良治が無言で視線を向けると軽く顔を上げ、以前から気にしていた事を口にし始めた。


「魔法がメインの人って少なすぎませんか?」

「俺も、そう思うっすね」

「そうなの?」

「……言われてみれば」


 聞いた瞬間、全員の足が止まる。

 現在15階を経験しているPTは良治達も含めて4組。

 その4組共に、魔法をメインとしたプレイヤーがいるのは1人ずつだ。

 先行組である4組共がそうだからと言って、全体的に見ても同じだとは限らないだろうが、


「私のブログにコメントしてくれる方々の話を聞いても、多くても2人。大体は1PTに1人か0です。どのくらいの比率なのか分かりませんが、近接職と比べて少なすぎる感じがするんですよ」


 洋子が前から気にしていたというのは、こうした理由があったからである。


「個別相談で遠距離職同士の人がいたが、それでも弓と魔法だったな」

「弓も後衛職扱いっすから、それでゲームバランスをとってんすかね?」

「だとしたら弓職の魔法を、もっと支援よりにしないといけないのでは? 弓術士さんの話では、他人に掛けられるタイプのものでは無いですよ」


 説明する洋子を見れば結論が出ているのか、それとも判断に苦しんでいるのか、どちらとも思える。

 須藤と良治も悩み始めるが、香織はまったく違う様子。

 悩む3人の目前で両肩をぐいぐい動かしながら、


「個人差の問題じゃない? どうして悩むの?」


 当然のように言い、他の3人の注意を惹いた。


「……何よ?」


 ゲームバランス的な面で考えた洋子や須藤と違い、香織にとって、それは当然の事だったようだ。


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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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