第三話 変態誕生(タクロー視点)
第二話の別視点になります。タクローという人物について掘り下げてみました
僕は櫻川タクロー。三十四歳。高校教師だ。
僕は大学時代に付き合っていた彼女と、大学卒業後すぐに結婚、すぐに娘も産まれ、家族三人で幸せな人生を暮らしていた。
ある日、僕が顧問を務める女子バレー部が全国大会に出場するため地元を離れていた際に悲劇が起きた。
娘が交通事故に遭い、この世を去ったのだ。
まだ十歳になったばかりで可愛い盛りの愛娘を亡くしたのは僕たち夫婦にとって、とてもショッキングな出来事だった。
妻は、娘が亡くなった日、僕がすぐに病院に駆けつけられなかったことを酷く怒った。
それがきっかけで僕は妻から避けられるようになり、やがて離婚することになってしまった。
それからの僕の人生はもうグチャグチャで何が何やら分からないものだった。
次第に僕の性格は捻じ曲がり、娘に似たものを求めるようになっていった。
当時勤めていた高校には、僕の娘に似ている生徒は一人も居なかったため、生徒を襲うようなことはしなかったが、僕は『もう人生なんてどうでもいいや』と思っていたため、必死でダメ人間のフリをして生徒に嫌われるようになっていった。
そして、周りから嫌われまくるようになり、誰からも見向きもされなくなったのを確認した僕は、自らの命を絶った。
死後、神様から転生をするように勧められたが、僕は全く乗り気では無かった。
それでも「何か一つ能力を授けるから転生してくれ」としつこく頼まれてしまったため、渋々承諾をした。
性格が捻くれまくっていた僕は、生まれ変わってもトコトン嫌われる人生を歩んで行くと心に誓って転生をしたのだった。
そして異世界に転生すると、初めに目がついた玄関のチャイムを鳴らした。
「ピンポーン」
ドアが開くと、目の前には女子高生が二人並んで立っていた。
僕は早速嫌われるための言葉を口にした。
「うおおっ! 女子高生だ! パンツ舐めさせて!」
すると案の定、女子の一人が罵倒してきた。
「会っていきなりそれか! 死ね!」
罵倒だけで終わるかと思ったら巨大なハンマーを呼び出し殴りかかってきた。
うむ、実に良い反応だ。
「ぐえっ!」
僕は死んだ。これでこの世界での人生も終わり。呆気ない人生だったが、これで良い――
……と思っていたら、どうやら生き返ってしまったらしい。
ふと見ると先ほどの女子高生たちが目の前でいちゃついていた。
僕はできるだけ嫌われるために、わざといやらしい視線でそれを眺める。
暫く眺めていると『カナと呼ばれる女子高生』にキスしようと迫っていた『サクヤと呼ばれる女子高生』がこちらに気付いたようだ。
彼女は、チラリとこちらを見ると、みるみるうちにその顔を青褪めさせていった。
「……あ、僕には構わず、続けてください。」
と僕が言うと、彼女は金属バットを振りかぶり、
「構うわ、この変態っ!」
と言いながら僕を打ち飛ばした。
「ぐふうっ、ありがとうございますっ!」
生きる価値のない僕は精一杯感謝の言葉を述べた。
その後、何故か自己紹介をする流れになったので、僕はできるだけ嫌われるようにこう言った。
「僕の名前は櫻川タクロー享年三十四歳。所持スキルは『何でも見える超視力』です。ロリコンでマゾヒストですっ! よろしくお願いします」
マゾヒストというのは、彼女たちに殴られた際に『自分の生きる価値の無さを実感できたこと』を揶揄してみたのだが、案外そうなのかもしれないなと思い始めていたりする。
僕がそう言うと、サクヤさんがナイフをこちらに向けてきたが、それをカナさんが止めるという構図が発生した。
止められるのはマズイ、僕は『先ほど自分が告げた能力を使っているフリをして』カナさんをじっと見つめていた。
僕の能力は、実は瞬間的にしか視ることができず、こういう状況では全く使えないに等しいのだが、彼女たちはそんな事には気づかない。
二人とも僕がカナさんをじっと見ているのに気づいて、僕は彼女たちに殺され続けることになるのだった。
生きているのは辛い。彼女たちに殺され続けることは、そんなつらい人生を生きているよりはマシだ。
できればこれが永遠に続いてくれたなら……