1 はじまり
今回から第二部になります。
それに伴い、話数のナンバリングもリセットされています。
私の初めての人――サクヤ姉が神様と共に消えてから、五年の歳月が流れた。
最初の数ヶ月はカナ姉と一緒に、サクヤ姉が帰ってくるのを信じて待っていた。
そんなある日、カナ姉が偶然、一冊のノートを見つけた。
『特A級危険分子、依田咲耶の処遇に関する決議事項』と書かれたその本には、神様がサクヤ姉の能力を全て奪った挙句、その存在を封印するという衝撃的な計画が記されていた。
このまま待っていても意味が無いことに気付いた私たちは、自分たちでサクヤ姉を助けに行くことを決めた。
ただ、相手は神様なので、私たち全員で助けに行ったとしても、返り討ちに遭うのがオチだ。
そのため、この五年間は全員がこの亜空間に籠もり、各々が能力をを磨いた。
サクヤ姉が居なくなった頃の私はまだ小学五年生だったため、それからの五年間は、かつて学校の先生をしていた私のパ……お父さんに一般常識などの知識を習いながら、空いた時間は魔法の修業に明け暮れる生活をしていた。
お父さんには「アカシックレコードを読む能力」があるため、私は色んな世界で覚え得る、あらゆる知識を容易に身につけることができた。
お父さんは毎日の日課のように今日もサクヤ姉が無事なことを教えてくれた。
しかし、それ以上の事は決して教えてくれないので、どういう状況にあるのかはサッパリ分からず不安だ。
私としては、一刻でも早くサクヤ姉を助けに行きたいのだが……。
私が、自室で新しい魔法を練習していると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。――このノック音はカナ姉だ。
「ナギサ、居る?」
カナ姉の問いかけに私も返事をする。
「居るよ。ちょっと待っててね」
部屋の鍵を開けてカナ姉を中に招き入れながら、私はカナ姉の姿に見惚れる。相変わらず物凄い美人だ。
カナ姉は元来より美人だったが、サクヤ姉が居なくなってからは、未亡人のような愁いを帯びた表情が多くなり、その姿は、私のお父さん――お母さんに絶対的な貞操を誓っていたはずのお父さん――をも魅了した。
あの淫魔マリエルの魅了にも屈しなかったお父さんが、カナ姉に堕とされたのだ。
カナ姉の黒髪は、サクヤ姉が居なくなってからの五年間、ずっと伸ばし続けているため、今では、地面に着くのでは無いかというほどの長さになっている。
そんなに伸ばしているにも関わらず、枝毛ひとつ無いサラサラのストレートなのが、すごく羨ましい。
きっとカナ姉には巫女装束が似合うのでは無いかと思うのだが、残念ながらカナ姉は二十歳を超えた今でも学生だった頃のブレザーを着ていた。
カナ姉は部屋に入ると髪の毛の事は全く気にしていないように床に敷かれた座布団の上に正座した。
以前、私が『綺麗な髪が汚れるよ』と言った時には『平気だよ、汚れても治癒魔法でパパッと……ね』と言っていたっけ。
私はカナ姉の言葉を思い出し、カナ姉の髪の事は気にせずに話を進めてもらうことにした。
「カナ姉、どうしたの?」
私がそう尋ねると、カナ姉は答える。
「ナギサ、私もサクヤを助ける準備が整ったわ」
カナ姉は、昨年、二十歳の誕生日を迎えたあたりから昔のような間延びした話し方をしなくなった。
それだけで強い意思のあらわれのようなものを感じる。これが大人になるということなのだろうか。
私もいつか大人になった時には――――脳裏にふと、サクヤ姉との最後の思い出が過る。
濃厚な大人のキス……。サクヤ姉の唇や舌の感触、唾液の味、あの吐息、ひとつひとつ確かめるように思い出す度に私の頬は紅潮する。
私があの熱いベーゼを思い返し軽く悶絶していると、不意に目の前に居る華菜のことを愛おしく感じはじめた。
「華菜ぁ〜、私もう我慢できないよ〜。」
私は甘ったるい声で華菜に迫ると、華菜が驚いている間に唇を奪う。
私が華菜に、サクヤ姉直伝の濃厚な口づけを繰り返していると、華菜の方もだんだん様子が変わってきた。
「ナギサちゃん、私もナギサちゃんのこと……愛してる」
私と華菜が深い愛を確かめ合い、二人の意識が高揚したとき、突然二人の左手の薬指に指輪が現れた。
二人に指輪が装着されると、私たちの意識が解放された。
「これ、絶対サクヤ姉の仕業だ。きっとあの最後のキスに紛れ込ませてたんだ……」
私がそう直感すると、カナ姉が付け加える。
「そうだね。最後にこんなこと仕込んでたなんて、サクヤらしいと言えばサクヤらしいんだけれど……」
「ホント、サクヤ姉のすることにはいつも驚かされるね。私とカナ姉がホンキで愛し合わないと発動しない魔法とか――」
私が言うとカナ姉が続けて言う。
「どうせ本気で愛し合わないだろうと無理やりキスさせるなんて……」
「全くサクヤ姉は――」
「本当にサクヤは――」
私たちは声をそろえて言う。
「絶対にブン殴りに行ってやるから、覚悟しときなさいよ!」
私たちの怒声は、部屋中に響いたのだった。




