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第十八話 温泉旅行その四

「サクヤおねえちゃん、もうねむいニャ。早くおへやに行こうニャ」


 ナギサちゃんが眠気を訴えてくる。


 私はナギサちゃんを気遣った返事をする。


「そうだね、もうナギサちゃんはいつもなら寝てる時間だね。じゃあ早く一緒にお風呂に入って寝ようか……」


「ち、ちがうニャ。おフロは入らないで、ねむりたいニャ」


 ナギサちゃんは折角温泉に来たのにお風呂に入りたくないようだ。


「そっか、ナギサちゃんは今夜お風呂に入らないつもりなのか。じゃあ後でベッドにコッソリ潜り込んでナギサちゃんのニオイを堪能しちゃおうかな……」


 私がそんなことを考えてるとナギサちゃんが突然後ずさって言う。


「うにゃぁああっ? オフロ入らないとサクヤおねえちゃんにニオイかがれちゃうのニャ? それもいやだニャ。わたし、おへやのオフロに一人で入るニャ。」


 あれ? もしかして私、声に出してた? とりあえず弁明しておくか。


「ナギサちゃん、大丈夫だよ。たとえお風呂に入っててもニオイを嗅ぎにベッドに潜り込むよ、私なら……」


「サクヤおねえちゃん、サイテーだニャ。」


 ナギサちゃんは声のトーンを大幅に落として、軽蔑する眼差しで言った。


「はぅ〜、このナギサちゃんの目線ヤバい。癖になりそう……。ハァ、ハァ……ねぇナギサちゃん、もっと私を(ののし)って、(さげす)んで、(むし)ろ踏みつけちゃって……」


 私は激しく身体をくねらせながらナギサちゃんに要求する。


 ――この日、私はナギサちゃんに対する新たな感情に芽生えたのだった。


 ナギサちゃんは部屋の風呂に一人で入ると中から厳重に鍵をかけてしまった。

 これでは私が中に入ることは出来ない。


 ……なんて訳ないじゃん。

 とりあえずナギサちゃんが油断するまでちょっと待とう。


 私は口元を歪ませながら脱衣所のドアの前でじっと時が来るのを待っていた。


 華菜が――私とナギサちゃんとのやり取りを終始ずっと黙って見ていただけの華菜が瞳に涙を浮かべながら訴える。


「咲耶ちゃん、最近ナギサちゃんばかり相手にしてて、私のこと全然構ってくれないの〜。私、とっても寂しいの〜」


「あああああぁっ! ゴメン、華菜ッ。今から……ッ、今すぐ愛し合おっ!」


 私は華菜の手をとって強引にベッドへ引き連れて行く。


 華菜のこの行動は勿論、ナギサちゃんを護るための演技だ。それは解っているのだけれど、どうしても抗えない。

 自分を犠牲にしてまでナギサちゃんを助けようとする天使のような心の持ち主、それが華菜の良いところだ。だから私も全力でそれに付き合うのだった。


「じゃあ華菜、服……脱がすよ」

「えっ? えっ? 咲耶ちゃん、もしかして本気で言ってるの? 冗談……だよね?」


「トーゼン、私はいつでも本気だよ」

 私はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら華菜の衣服を脱がしにかかる。


「えっ? やめて、やめ……、いや……、だめ……、アッ、あああぁぁ〜っ」


 華菜はそのまま気を失ってしまった。まだ左側のニーソックスを脱がせただけなのに……。

 実はナギサちゃん以上にウブな少女だったようだ。


 私は気絶した華菜のオデコにキスをすると、ナギサちゃんが待っているお風呂へと踵を返した。


「す、凄いテクニックだったのじゃ、参考になるのじゃ……」

 と、必死にメモをとっているマリエルに「頑張ってね」と声をかけた私は、再び脱衣所のドアの前に立った。


 私は、内側から施錠された脱衣所のドアを、まるで始めから鍵など掛かっていなかったかの如く当然のように開けた。

 そして、おもむろに服を脱ぎ捨て脱衣カゴに放り込むと、浴室のドアを豪快に開けた。


「あれ? 湯気で何も見えない……」


 私が必死に目を凝らしていると、どこからかナギサちゃんの声が聞こえてきた。


「サクヤおねえちゃん、やっぱり入ってくると思ってたニャ。わたしはもう上がるニャ。お先にニャ〜」


 そう言ってナギサちゃんはお風呂から上がってしまったようだ。

 どうやら、この煙幕は火魔法と風魔法と光魔法を組み合わせたものだったらしい。ナギサちゃんの方が私より一枚上手だったようだ。


 私は一人寂しく湯船に浸かるのだった。

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