プロローグ その一
初投稿です。よろしくお願いします
ピピピピ……
目覚まし時計が鳴り響く。
……ああ、もう朝なのか。私はベッドからもそもそと起き出した。
「……ん〜っ」
一つ伸びをすると、次第に意識がはっきりしてくる。
私の名前は依田咲耶。この春、高校二年生に進級する至極普通の女の子だ。
「さてと……」
私は学校の制服に着替えると、朝食を摂るために部屋を出て階下のリビングに向かう。
「あら、咲耶。今日は珍しく早起きね」
お母さんが私の姿を確認すると、目玉焼きを焼き始めた。
「おはよう、お母さん。昨夜言ったでしょう、今日から補習があるんだよ」
「……そうだったわね。はい、タマゴ焼けたわよ」
「いただきます」
私は、朝ごはんを食べ終わると、お母さんに「行ってきます」と伝え、学校へ向かった。
私の通っている学校は県内でも有名な進学校のため、こんな春休みの真っ只中でも補習があったりする。非常に迷惑な話だ。本当なら今頃はまだ寝てる時間のはずなのに。
そんなことを考えながら通学路を歩いていると、とても眠そうにふらふらと歩いている少女の後ろ姿を見つけた。私は足早にそれを追いかけて声をかける。
「おはよう、華菜」
「あ〜、おはよう咲耶ちゃん〜」
彼女は私の親友、沖田華菜。いつも眠そにしているが、実はとても頭が良い。
「……もう、またヨダレ垂らして、みっともないわね」
私は、ハンカチを取り出して彼女の口元を拭ってあげた。
「えへへぇ〜。咲耶ちゃん、いつもありがと〜」
そんなやり取りをしながら二人で教室まで向かった。
教室に入ると、まだ誰も来ていなかったようである。
とりあえず誰か来るまで二人で昨夜のテレビの事とかを話しながら時間を過ごすことにした。
始業のチャイムが鳴り、普段なら授業が始まっているような時間になったが、それにしては誰も出席してこないことに気がついた。しかし、いつも聡明な華菜が特に何も言ってこないので私も気にしないことにして話し続けていた。
やがて、授業終了を知らせるチャイムが鳴ったが、未だに誰も来る気配がない。
流石に焦った私は華菜に異変について話を切り出した。
「ねえ、華菜。誰も来ないんだけど、おかしくない?」
「え〜っ、咲耶ちゃん気づいてないの〜?」
……どうやら、華菜は何か知っている上で黙っていたみたいだ。
「え、それってどういう……」
「だって今日は四月朔日だよ〜。午前中は嘘をついても良い日だから黙ってたの〜。本当は皆、他の教室で補習を受けてるんだ〜。だからこの教室は、お昼まで空き教室だよ〜」
……絶句した。
◆ ◆ ◆
「……そろそろ良いですか」
突然、天使があらわれて懐中時計をチラリと見ると、私たちに声を掛けてきた。
私と華菜は、互いに顔を見合わせると、天使に向かって返事をする。
「ええ、お願いします」
実は、今朝起きたところから全て――朝の補習があるということも、お母さんとのやりとりも、私たちが学校に来たことすらも含めた全てが、エイプリルフールの嘘だった。
昨日、二人そろって交通事故に遭い、二年生に進級出来ないままこの世を去った。
天使は、私たちがこの世に未練を残さないようにと、最期の夢を見せてくれていたのだった。
「それでは、神様のところまでお連れいたします」
天使がそう告げると視界が反転し、あっという間に辺り一面真っ白な世界になった。
しばらくすると神様の声が聞こえてきた。
「ようこそ、死後の世界へ。君たちには『何か一つだけ特殊な能力を持って異世界へ転生してもらう』こととなったのだが、どんな能力を望むかね?」
うわぁ〜、出たよ。ラノベでよく見るチートありの異世界転生だ……
私はあまりにもお約束な展開にジト目になりながらも、どんな能力が無難か考えることにしたのだった。