気づいたら食べてました。
新キャラ登場です!そして今回は一部気を悪くするかもしれない場面があるのでご注意ください。
「……ん……うぅん……」
魔王となった次の日、俺はベッドの上で目を覚ました。
「おはようございます」
どこからともなく声が聞こえた。これはミーアの声か。
「あぁ、おはよう」
「ぐっすり眠れましたか?」
「あぁ、そこについては問題ないよ。でも他のことで一つ問題がある」
「何ですか?」
「何故君が俺のベッドにいる?」
どこにいるかと思ったら俺の布団の中にミーアはいやがった。
「メディス様、まずは原点に帰ってみましょう」
「は?原点?」
「はい。この前もお話しましたが、魔族とは感情的な生き物なのです。つまり本能で生きてます」
「あぁ、そんな話だったな」
「私はすでにメディス様への想いを伝えています。それはもう隠す必要がないということ。そしてメディス様も受け入れていただいている。つまりもう私は何をしても許されるということです」
「いやおかしいだろ」
「なので私は夜にメディスにご奉仕しようとしました」
「ただの夜這いだろ」
「でも!これでいいのかと!メディス様のお布団の中で自問自答を行った結果!」
「まず考える場所を考えろよ」
「起きてる時の方がより昂ぶると結論に至りキスするだけで終わりました」
「結局襲ってんじゃねぇか!」
「むしろ褒められるべきです。キスで終われた私を。えっへん」
「……………」
俺は無言で加護に触れた。そして、
「今すぐ出ていけ」
ただ一言そう言った。
「そ、そんな!私は悶々としながら耐えたというのに!あ!身体が勝手にーーー!」
契約の効果によりミーアは叫びながら出て行った。
「はぁ、なんて騒がしい朝なんだ………」
こうして俺の魔王として朝が始まった。
***
朝起きて次にすることは、もちろん食事だろう。着替えた後ミーアに食堂へと連れてきてもらった。ていうか魔王城に食堂があるんだな。空いている席に俺たちは座った。
「こちらがメニューになります。どうぞメディス様」
「あぁ、ありがとう。えーっと、どれどれ…………ん?」
メニューを見た俺は数秒固まる。
「どうしました?そんなに目を見開いて」
「いや、これおかしくない?」
「何がですか?」
「メニューだよ。メニューに載ってるものがおかしいだろ」
「ちょっとおっしゃってる意味が………」
ミーアに渡されたメニューは以下のようなものが載っていた。
・ヒキガエルのムニエル
・魔界ダック
・ニシキヘビのパスタ
・トカゲのステーキ
・しぼりたて幼虫ジュース
などなど
明らかにゲテモノ料理のオンパレードだった。え?この中から選ぶの?
「ちなみに………ミーアのオススメは?」
「私のオススメですか?えーっと、これですかね」
そう言って指差したのはニシキヘビのパスタだ。
「どんなところがポイント?」
「そうですね………味はもちろんですが、強いて言えば歯ごたえですかね?」
「は、歯ごたえ?」
パスタって歯ごたえを感じる食べ物だっけ?
「口に入れた瞬間に口内に広がるオリーブオイルの爽やかな香りとニシキヘビの肉汁。歯ごたえがしっかりしていて噛めば噛むほど肉汁が溢れだしてくるんです。あぁ………早く食べたくなってきました」
俺は今にも吐きそうなんだが………。俺はこの中で一番マシそうなものをミーアに聞いてみることにした。
「この魔界ダックって何?」
ダックということは鶏肉だろう。しかし前に付くワードが俺を不安にさせる。
「これは魔界でとれたアヒルのことです。それを調理した一品です」
「魔界のアヒルの見た目ってどんなの?」
「えーっと体長6mで皮膚は岩のように硬くトゲトゲしています。あと時々毒を持つアヒルもいるので食当たりを起こすことがあったりしますね」
………まず一つ。大きすぎない?
「6mの料理が出てくるってこと?」
「まさか、そんなわけないですよ」
「だ、だよな……」
「頭と足は切るので4mぐらいです」
4mか。それならなんとか…………いや無理だろ。まず自分より大きなものを食べるとか不可能だろ。
「皮膚は硬いのにどうやって食べるんだ?」
「牙が発達すれば食べれます」
「は?」
「言葉が足りなかったですね。牙が発達した種族なら食べれます」
「ごめん。まだよく理解できない」
「つまり私は魔界ダックを食べることができません。牙が発達していないので」
「食べる人が限られる時点でメニューとして欠陥だろ!」
しかも食べた人は時々食当たりするらしいし!ていうか毒で食当たりってスケールすごいな魔族!
結果、魔界ダックは地雷すぎた。
「食べるものがないんだけど………」
「え?どれもおいしいですよ?」
「人間の俺にはちょっと………」
「私は人間の食べ物も美味しかったですよ?きっとメディス様も大丈夫ですって」
ミーアが言ったことも一理あるので俺は『ヒキガエルのムニエル』を頼んでみることにした。カエルは意外と美味しいって言うしな。案外大丈夫だろう。
そうは思ったが出てきたのは、
「マジでか…………」
明らかにカエルそのものだった。いや、調理はされているが目もあるし生きていた時の原形のままだ。これって丸焼きじゃないの?
前を座るミーアを見てみると黒いパスタを頬張っていた。イカ墨ではない。黒いニシキヘビだ。何故彼女は笑顔で食事しているのか?
「食べないのですか?」
食べられないんだよ………。
「ほら、こことか美味しいですよ。あーん」
そしてミーアが差し出してきたのはなんとよりにもよってヒキガエルの目玉だった。これほど恐ろしいあーんを俺は知らない。
「困りましたね……」
俺が一向に食べないのを見て困るミーア。
「あ、そうだ!」
すると突然ミーアは立ち上がり何処かへ行ってしまった。調味料でも取りに行ったのかな?
数分後、彼女は戻ってきた。少女を連れて。
「ただいま戻りました」
「おかえり。えーっとその子は?」
「彼女はここの調理長です」
料理長と呼ばれた少女はユメと同じ十四〜十六歳ぐらいだろうか。料理の邪魔にならないためか、青い髪を三つ編みにくくっている。何故か俯きがちで目が右に左にと完全に泳いでしまっている。
「お、お初にお目にかかりますぅ。私、マキっていいまひゅ!」
あ、噛んだな。
「この子はこういう子なんです。気にしないであげてください」
ミーアがすかさずフォローを入れる。こういうところはまともなんだよな。
「俺はメディスって言うんだ。よろしく頼むよ」
「は、はぃ!魔王様ですよねぇ?」
「まぁ……一応はな」
「昨日のお話感動しましたぁ!わ、私一気にファンになりましたぁ!」
フ、ファンて………あれミーアが全部言ってたんだけどな。
「それはありがとう。ところで俺も一つ聞いていいかな?」
「な、何でしょぅ?」
「なんで君はそんなに濡れてるの?」
このマキちゃん、ここに来た時からずぶ濡れだったのだ。水が滴り落ちる程度には。
ここで皆に聞こう。もしも服が濡れてしまったらどうなるだろうか。しかも女の子の服がだ。当然透けてしまうだろう。つまり女の子特有の肩より下にあって腰よりも上にある柔らかいアレが透けるわけで。しかもマキって年の割りに大きくて…………
「メディス様?どこ見てるのですか?」
目を細め低い声でミーアが俺に尋ねてきた。これってもしかして………殺気?
「べ、別にどこも見てないけど?」
「私だって小さくはないですよ!」
「な、何の話かなー?」
バレてる。これ絶対バレてる。
「で、結局どうしてマキちゃんは濡れてるの?」
ほら!触ってください!とか聞こえない。
「わ、私は人魚族なんですぅ。人魚族は人化する時は水分が必要なんですぅ。人化している時に身体が乾いてしまうと元に戻ってしまうんですぅ。あ、あと私のことはマキでいいですよぉ?」
へぇー人魚か。海に住んでるものだと思ってたけど普通にいるんだな。それにしてもたいへんだな。人型を維持するの。
「そうでした!彼女を連れてきたのにこんなことで時間を潰してはいけません!」
突然ミーアが会話に入ってきた。彼女の手には人一人が入れそうな大きな桶があった。
「それ何に使うんだ?」
「メディス様のお食事のために使います」
ミーアは桶を床に置くと、
「さぁマキ。入ってください」
「は、はぃ」
マキに入るよう言った。
「どうしてマキを水に入れるんだ?」
「魚は水の中で無いと生きられないでしょう?」
「そうだな」
「つまりそういうことです」
「どういうことだ」
「こ、こういうことですぅ」
マキが水に入ると彼女が足に鱗が付き始め、気づいた時には人魚の姿となっていた。
「あれ?水が無くならない限り人化は解けないんじゃなかったのか?」
「乾かない限り人と魚、どちらの姿でも居られるんですぅ」
「切り替え可能ということです。便利ですよね」
「なるほど。でもどうして今その姿に?」
「メディス様はムニエルを見ていてください。ではマキ。お願いします」
「は、はぃ!」
何をするのか分からないけど言われた通りにムニエルを見つめる。今にも動きそうだな、このカエル。
「では、いきますぅ。〜〜〜〜〜〜♪」
すると突然マキが歌い出した。な、なんて美声なんだ。聞き惚れてしまう。マキの歌に耳を傾けていると、何故か目の前のムニエルが美味しそうに見えてきた。今にもかぶりつきたい。
「美味しそうでしょ?さぁどうぞ」
ミーアがムニエルを切り分けて俺の前に差し出してくれた。今度は戸惑いなく口に入れることができた。
「………美味い」
なんだ。こんな美味いもの食べたことない。
「人魚族の歌には催眠作用があるのです。だから人間のメディス様でも美味しく………って聞いてませんよね。何せ絶品のムニエルですから」
「ミーア。もう一口くれるか?」
「はいどうぞ。あーん」
差し出されたムニエルをもう一口食べる。さっきよりも美味しい。具体的に何がとは言えないが美味しいということは確実に感じられる。
「フフッ、これで伝説の『あーん』をすることはできました。つ、次は幻の『口移し』です!」
するとミーアはカエルの目玉を口に咥え差し出した。普段の俺ならチョップをくりだしていただろうが今は気にならなかった。俺はミーアに顔を近づける。
「ふぁ、ほうほ♡(さぁ、どうぞ♡)」
その時ミーアがいきなり身を乗り出した。その結果、
「え?きゃあ!?」
ミーアの下半身でマキの入っている桶を倒してしまった。
「あ、あぁ!水がぁ、水が無くなるぅ!」
「あ!ごめんなさいマキ!」
ミーアが謝った拍子に目玉を落としてしまった。俺はそれをどうにかフォークで受け止め口に含んだ。しかし、
「ダメですメディス様!今食べてはいけません!」
「!?!?!?!?!?」
美味くなかった。
口に広がる苦味、ねっとりとした感触、噛んでいるのか分からなくなる歯ごたえ。つまり━━ マズイ!!
「お、おえ、うえぇ、あぁ………」
何故だ!さっきまであんなに美味かったのに!!疑問も晴れないまま俺はその場で倒れた。
ミーア「大丈夫ですかメディス様!?早く医務室に連れて行かないと………はっ!これは逆にチャンスでは!ここで人工呼吸を行えば合法で口と口が触れられ、なおかつ主を救ったということでご褒美が貰えるかもしれません!『口移し』が実現できなかった今、この方法でキスを━━ 」
この時すでにケルトによって医務室に運ばれてました。