気づいたら鎧着てました。
今回は速めに投稿できました。いつもこれぐらいで書ければいいんですけど………無理でしょうね………努力はします!
ズルズルと引きずられること数分。この数分間のうちに、改めて魔王城に来たことを理解させられた。
目の前に広がるのは外観からは予想もつかない程の気品を感じさせる光景だった。廊下を歩いているのだが、所々に花瓶や肖像画などの装飾品がズラリと並んでいる。しかし金持ちの見栄張りなどといった嫌な感じはせず、寧ろ上品に感じることのできるものだ。
一般人の俺には縁が無さすぎてここにいるだけで緊張してしまう。いや魔王城にいるだけで緊張はするんだけどね。
そんなことを思っているとミーアはある部屋に入った。もちろん俺もだ。
入った部屋はどうやら服を管理している部屋のようだった。目の前には何着もの服がある。メイド服や執事服、ドレスやスーツ、挙句に着ぐるみやバスローブまで。最後の二つは場違い感がハンパない。
「ではメディス様。ここで着替えてください」
「え?なんで?」
「これからある方々にお会いします。そのために正装に着替えてください」
なんで?ともう一回聞きたくなるが、こんなところに来てしまってはもう後には引き返せないだろう。ここはおとなしく従おう。
「では、私も着替えてきますので。後のことはこのケルトに聞いてください」
時間もあまりないのか、それだけ言うとミーアは出て行ってしまった。
ていうか、ケルトって誰のこと?ここには俺しかいないはずじゃあ………。
「早く着替えてはいかがですかな?メディス様」
「あ、はい。ってうわっ!?」
いきなり声がかかり慌てて振り返ると、目の前には真っ白の髭を生やした骸骨がいた。
「え?あの、どちら様で?」
「先程ミーアお嬢様から紹介があったケルトでございます。どうかお見知り置きを」
「は、はぁ。こちらこそよろしくお願いします……」
どうやら、この骸骨がケルトさんらしい。完全に装飾品の一種だと思っていた。白い髭も付け髭が何かだと思っていたら本当に生えている。髭生やすなら皮付けろよ、というのは無粋だろうか?
「では、さっそくですがお着替えの方を」
「あの、すいません。正装ってどんなものを着ればいいんでしょうか?俺、人間なんで魔族の正装って分からなくて………あ」
しまった……人間って普通に言っちゃった………。
「それは申し訳ありませんでした。すぐに服をご用意いたしますのでしばしお時間をください。それと、使用人である私に敬語は必要ありませんよ」
そう言うとケルトさんは目の前にある大量の服から正装を探し出した。
あれ?人間のことには何も触れられなかったぞ?しかしそれよりも驚きなのはケルトさんが使用人ってことだ。なんか用事任せたらすぐにバラバラになってしまいそうなのに。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
そんなことを思っているとケルトさんが正装となる服を持ってきてくれた。
「すいません。ありがとうござい…………ん?」
あれ?おかしいな。俺ってこんなに目悪かったかな?正装って普通スーツとかだよな?
「どうかなさりましたか?」
「あの、このトゲトゲしい鎧は何ですか?」
「正装です」
「あともう一つ。このトゲトゲしい冠はなn━━ 」
「正装です」
…………魔族の正装、厳つすぎやしませんかね?
「ささっ、時間も無いのでお早めにお願いします」
「は、はぁ」
急かされてたため仕方なく俺は正装に着替えた。装備したって方が正しい気がする。そして最後に冠を頭に乗せた。まず初めに感じたことは、
「お、重……」
見た目通りかなり重い。人一人を背負って歩いているようだ。
「では、ミーアお嬢様と合流いたしましょう」
ケルトさんに先導されながら俺は部屋を後にした。
そして厳つい鎧と冠を着けながら豪華な廊下をぎこちなく歩く。
無言の時間が流れるが、俺は気になることがあったためケルトさんの隙間だらけの背中に声をかけた。
「あの、ケルトさん。一つ聞いていいですか?」
「私に答えられることなら何なりと」
「人間の俺がここにいることに疑問を感じてないんですか?」
人間は魔族に嫌悪感を覚えるものだ。それまた逆も然り。魔族だって人間に嫌悪感を覚えるはずだ。なのにケルトさんから敵意のようなものを感じない。そのことがずっと俺は気がかりだった。
「ミーアお嬢様から全てお聞きしました。私はただの使用人です。お仕えしてる方のご意志に従うのは自然のことです」
「それだけですか?」
「えぇ」
ケルトさんは俺の問いに肯定したが、俺はそれだけではないと感じた。だからまだ俺は探りを入れてみる。
「ミーアから聞いたと思いますが、俺は彼女の主になりました。つまりミーアの配下である貴方は俺の配下でもあるんです。もう一度聞きます。それだけですか?」
「…………」
ケルトさんは答えなかった。しかし、それが答えているようなものだ。
「さぁ、話してください」
「………はぁ。ミーアお嬢様も変わった方を連れてきたものです」
仕方なくと、いった感じの溜息を吐きケルトさんは折れた。決して骨折的な意味ではなく。
「私はミーアお嬢様が幼少の頃より仰せつかってきました。お嬢様はどんな方かというのは知っているつもりです。お嬢様が人を見る目があるということも知っています。そんな方が連れてきた者が人間であっても私はお嬢様を見損なうなどということは絶対しません」
ケルトさんはミーアに多大な信頼を寄せていることが伝わってきた。こんな人が傍にいるなんてミーアは幸せ者だな。
「しかし」
「はい?」
「いくらお嬢様は人を見る目がある方でも異種族の者を連れてこられたら私でも少しは警戒します。なので暫く観察させてもらいました」
目ないのにどうやって観察していたんだろうか。しかしそのおかげで俺は全く視線を感じることができなかった。この人、意外とやり手だな……。
俺はどんな評価を受けたか、緊張していると、
「━━ が、それは杞憂だったようです」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「長らく話しておりましたが、貴方から殺意や敵意などといった負の感情は微塵も感じられませんでした。そして主従関係のこともよく分かっていらっしゃる。私にまで行使された時は驚きましたよ」
ずっと背中を向けていたケルトさんが振り返って、
「これで私は安心しました。どうかミーアお嬢様をよろしくお願いします」
微笑んだ、ような気がした。骸骨だからよく分からないけど、そんな気がした。
「はい、もちろんです」
その後、俺はケルトさんに幼い頃のミーアのことを聞きながら、彼女の元へ向かった。
***
「メディス様ーーーー!」
合流場所にはもうミーアが来ていた。俺たちの姿を見つけて駆け寄ってきた。
「おぉ、ミーア━━ すごいな、その服」
ミーアも俺と同じく正装に着替えていた。俺と違うところはちゃんとした正装だということだ。
蛇の鱗と同じ真紅のドレスを身に纏い、銀の髪飾りや着けている。身につけているどれもが豪華な品々のはずだが、ミーアはそれを完全に着こなしていた。何処かの国の王女と錯覚させる程の気品を感じさせる。
「どうです?似合ってますか?」
俺の視線に気づいたのか、ミーアが尋ねてきた。
「うん、とっても似合ってるよ」
「ありがとうございます」
静かに微笑むミーア。まさにお嬢様といった感じだ。
「メディス様も似合ってますよ?」
「服に着られてる感が半端ない気がするんだけど………」
だって鎧だもの。
「大丈夫です。ご立派に見えますよ」
ミーアは必死にフォローしてくれる。その気持ちだけで嬉しいよ。
「あ、それとコレをどうぞ」
ミーアから手渡されたのは首飾りだった。しかしただの首飾りではない。
「これって………ミーアの鱗?」
「はい。気に入っていただいてたみたいなので作ってみました」
真っ赤な鱗に紐を通した首飾りだった。
「もらっていいの?ていうか鱗ってとって大丈夫なの?」
「はい。私自身には特に何もありません」
そう言うとミーアは鱗の首飾りを俺につけてくれた。
「ありがとう。大事にするよ」
「ふふっ、どういたしまして」
正装には不満があったが、この首飾りだけは素直に嬉しい。この首飾りだけが正装という言葉に当てはまってる気がする。
「お二方、そろそろ準備はよろしいですか?」
ケルトさんが俺とミーアに確認とった。
「行きましょう。メディス様」
二人に案内されるまま俺は再び歩き出した。
「こちらです」
しばらく歩き目的地に着いた俺たちは大きな部屋に入った。何かの会議の時に使うのか、椅子と机が並べられていた。しかしこの部屋にいるのは俺たち三人だけだ。
「あれ?俺たちだけ?」
「メディス様。あっちです」
俺が疑問の声を上げるとミーアが答えてくれた。指差した方向には外へと繋がるドア、つまりバルコニーを示していた。
「外で誰かと話すの?」
「はい。ではお先にどうぞ」
俺はどうすればいいか分からない。なので従うしかない。
「では、いってらっしゃませ。ミーア様。メディス様」
ケルトさんが頭を下げて見送ってくれた。
「皆によろしくお願いします」
「え━━ 」
俺が振り返ろうとした時には注意が他に向いていた。
バルコニーに出た。そこまではよかった。だがバルコニーから見下ろすとそこには━━
『誰か出てきたぞ!』
『ミーア様と………もう一人は誰?』
『あれって魔族か?』
数え切れない程の魔族が集まっていた。
「え?ミーア?これってどういうこと?」
「メディス様に会っていただく者たちです」
「へ?こんなに大勢に会って何を━━ 」
そこで驚きべきことが起こった。勝手に俺の右手が振り上げられ俺の左手が腰に当てられた。俺の意志とは関係なく身体が動いていた。そして、
「静まれ!魔の民たちよ!!」
口までもが勝手に動き出した。そして次の瞬間、自分自身の声が信じられないことを放った。
「俺はこの地を統べる王、つまり魔王となる者、メディスだ!!!」
俺の口は勝手に魔王宣言してしまったのであった。
メディス「ケルトさんってどうやって周りをみてるんですか?目、無いのに」
ケルト「魔法でございます。私たちの種族はこのような風貌のため、このような魔法が生まれた時から使えるのです。細かいところまで見れて重宝します」
メディス「へぇー。便利ですね、その魔法」
ケルト「はい。それにしても、メディス様はいい骨でいらっしゃますね」
メディス「細かいところって内部までってこと!?」