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気づいたら人間じゃありませんでした。

ユメの過去後編です。今回場面変化が多くあるので分かりにくいかもしれません。また少し残酷なシーンがあります。問題点が多々すみません。その上で楽しんでいただけたらと思います。

『ち、ちが、違うの!』


ユメは叫んだ。しかしその言葉を信じる者はいない。


(嫌……やめて………私をそんな目で見ないで………)


仲の良かった友達が、怯えた目で、蔑んだ目で、怒りの目でユメを見つめた。さっきまで楽しく話していた友達が、そんな風に見てくることにユメは耐えられなかった。どんどんユメは目に涙を溜めていく。


(嫌……嫌………嫌ぁ!)


『ユ、ユメちゃん?あの━━』


『いやぁぁぁああああああああ!!!!!!』


ユメは叫んだ瞬間、無意識のうちに羽を羽ばたかせ飛び上がった。そして一心不乱に村に向かって飛び去った。


***


『ユメがあんな化け物だったなんて………』

『こんな近くに魔族がいるなんて思わなかったよ!』

『ていうか村の方に行ったけど大丈夫か?』


ユメが飛び去った後、皆口々に思ったことを口にしていた。しかし一人だけ黙っている人物がいた。


『…………』


ユメの親友、チカだ。


(ユメちゃんは………どうして黙ってたのかな………?)


このなかでチカだけはユメに対して嫌悪感は抱いていなかった。しかしユメの姿を見て戸惑っていたのもまた事実だ。


(それとユメちゃんが私を助けてくれたの………?)


チカはその場で立ち上がり、ユメが飛んで行った方向へと振り返る。


『どうしたんだ?チカ』


『…………確かめなくちゃ』


『あ、おい!チカ!』


チカは村に向けて走り出した。自分の親友もとへと。


***


ユメが飛び去ったのとほぼ同時刻。リムはいつも通り夕食の準備をしていた。


『あら、もうこんな時間。そろそろ帰ってくるころかしら』


部屋にある時計を見て時間を確認した時だった。

ドンッ!といきなりドアが開いた。そこに立っていたのは、


『ママ………』


『ユメ、おかえりな━━どうしたの!?』


リムは慌ててユメに駆け寄った。それもそのはず。ユメは魔族の姿で帰ってきたからだ。


『ママ………ごめんなさい……ごめんなさい………』


『謝らなくてもいいわ。それより話を聞かせてくれる?』


『…………うん』


ユメはいきなり熊が襲ってきたこと。チカが襲われそうになったこと。そして気がつけば魔族の姿になっていたことを話した。

その間、リムは何も言わずに話を聞いていた。

ユメの話が終わると、リムはおもむろに彼女の頭を優しく撫でた。


『ママ?』


『ユメ。あなたはやっぱり優しい子ね』


『え?』


『フフッ』


そしてリムはユメにあることについて話した。そう、サキュバスについてだ。

サキュバスはあまり肉弾戦には向いていない。だからといってラミアのように攻撃魔法が得意というわけでもない。

しかしサキュバスは魔族の中では強い方に部類される。それは状態変化魔法を得意とするからだ。

状態変化魔法とは相手の速度を変えたり、相手の力を弱くしたりといったようなものだ。また、毒や麻痺、催眠などの魔法もこれに含まれる。サキュバスは魔族の中でこの魔法を使うのに長けているのだ。

ユメも状態変化魔法を使っていた。それはチカがピンチになった時にだ。あの時ユメは無意識のうちに熊に睡眠魔法をかけたのだ。そのため熊は眠りチカは助かったのだった。


『あなたは友達思いの優しい子よ』


そう言ってリムは再びユメを撫でた。ユメは気持ちよさそうに目を細める。


『それじゃあ出かける準備をするわよ』


『出かける準備?………あ』


『………急いでちょうだいね』


『うん………』


出かけるとは、この村を離れるということだとユメは察した。その理由はもちろん、ユメが魔族だとバレてしまったからだ。

二人は生活を最低限のものだけを用意した。その時、


トントン


誰かがドアをノックした。誰か来たのだ。


『はーい』


リムはいつものようにドアを開けた。そこには、


『こんにちは、リムさん』


この村の村長が立っていた。


『あら村長。何かご用意かしら?』


『ユメちゃんはいるかな?』


村長は笑顔でそう尋ねた。


『ユメがどうかしたの?』


『今日森に行った子たちはまだ村に戻って来ていないはずなのに、さっきユメちゃんを見かけてね。もしかしたら喧嘩でもしたんじゃないかと思ってね』


いつもと何か雰囲気が違うという印象をリムは目の前の男から感じた。


『あら、そうなの?でもユメはまだ帰ってきてないわよ?』


『そんなはずないよ』


すると突然村長の顔から笑顔が消え、彼はこう言った。



『私は確かに黒い羽と黒い尻尾(・・・・・・・・)を生やした(・・・・・)彼女を見たんだから』



村長が隠していた斧を振り下ろしたのとリムが後ろへ跳んだのはほぼ同時だった。すぐさま彼女は部屋にあるクローゼットへと駆け寄る。クローゼットを開けると中からユメが出てきた。念のために彼女を隠していたのだ。


『ママ………』


『大丈夫よ。ママにしっかりつかまってるのよ』


そう言うとリムは村長へと振り返る。二人の視線は険しいものとなっていた。


『もうバレたってことでいいのかしら?』


『僕が斧を振り下ろしたことから察してほしいな』


『あなたはそんなことをする人だと思ってなかったわ』


『それはこっちのセリフだよ。何故僕たちを騙したんだい?』


口調は落ち着いているが、声音は決して優しいものではなかった。


『私だって嘘はつきたくなかったわ。でも本当のことを言っていたら受け入れてくれたの?』


『……………』


村長は何も言わなかった。無言は肯定とリムは受け取る。


『ここで提案なんだけど、ユメだけは見逃してくれないかしら?』


『え?』


『私は一切抵抗しないわ。どう?村長さん』


『………魔族の言葉を簡単に信じると思うか?』


『あら残念。ある程度の信頼は得られてると思ってたけど━━交渉決裂ね』


その瞬間、リムはユメを抱えると羽を出現させた。その動きを見て村長は身構える。しかしリムは村長とは逆方にある窓へと飛んだ。


『さようなら。村長さん』


リムたちはパリンッ!と窓を割り外へと脱出した。しかしそこには、


『かかれぇぇぇえええええ!!!!』


家の周りに待機していた村人たちが一斉に襲いかかってきた。


『くッ!』


リムはユメを片手で強く抱きしめると、もう片方の腕を振った。


『死ね!魔族!!』


無数の武器が二人に振り下ろされる。しかし彼らに手応えは感じられなかった。


『こっちよー』


すると村人たちの頭上から声が聞こえた。慌てて振り返った村人たちの目線の先には、さっきまで目の前にいたはずのリムが飛んでいた。


『みなさん、今までお世話になりました。それじゃあね。失礼するわ』


それだけ言うとリムはユメを抱えながら森へと飛んでいく。しかし村人たちも簡単には諦めなかった。

彼らは用意していた弓を構えると二人に向けて一斉に放った。何十本という数の矢が襲う。


『魔族ってだけでここまでやられるのね。でも』


リムが手を振り上げた。すると彼女の目が妖しく光る。そしてリムは、


『私にも守るものがあるからここで死ぬわけにはいかないわ』


手を勢いよく振り下ろした。するとまるで時間が止まったかのように矢が空中で停止した。


『それじゃあ今度こそ失礼するわね』


村人たちが呆然とするなか、リムは森へと消えていった。


***


『この辺まで来れば安心かしらね』


村から1キロほど離れた場所にある小さな洞窟にリムは降り立った。


『ママ……怖いよぉ……』


目に涙を溜めながらユメはリムへと抱きついた。リムは何も言わずにユメを抱きしめる。


(そりゃあそうよね………昨日まで優しかった人たちが自分の命を狙ってくるんだから)


ユメを安心させるために彼女の頭を撫でるリム。


『ユメ。ちょっと話が━━』


『ママ………ママはどこにも行かないよね?』


『ッ!?』


『私を一人にしないで………』


ユメはさらに強くリムに抱きついてくる。


(あー、こういう時の子どもの勘ってなんでこんなに鋭いのかしら。はぁ、母親も楽じゃないわね………)


リムはユメをあやすように話し出した。


『ユメ。あなたはママのことが好き?』


『うん……大好き』


『フフッ、私もユメが大好きよ。あなたがいれば他に何もいらないわ』


だからね、とリムは続ける。


『ちょっと行かなきゃならないの』


『え?どこに?』


『秘密よ。フフッ』


『…………やだ』


「秘密」といういう言葉を聞いて、ユメはリムが何をしようとしてるのか理解した。


『ママはどこにも行かないで!一緒にいてよ!もう私にはママしかいないの!私を一人にしないで!!』


『ユメ………』


母を逃がさないように必死にしがみつくユメ。

そんな彼女をリムは肩を持ち自分から離した。そして………微笑んだ。


『フフッ、ユメ。やっぱりあなたはサキュバス(わたし)の子ね』


彼女はユメの目線の高さまでしゃがみこむ。


『あなたは愛に飢えているのね』


『愛?』


『そう、愛よ。だから愛を満たしてくれて、あなたが愛を注げる相手を見つけなさい』


『え?それって………どう……い……う………』


突然ユメは気を失った。力をなくし倒れてきたユメをリムは受け止める。


『ごめんなさいね。ユメ』


謝った彼女の目は妖しく光っていた。催眠魔法を使ったのだ。ユメを寝かせるとリムは洞窟の外へと歩き出した。


***


村人たちは手分けしてユメたちを探した。しかし見つけることができなかったため、一度村に集合することにした。


『二人一組で動こう。できるだけ広範囲を探せ。洞窟なんかの怪しいところは特にだ。いいな』


口調の荒くなる村長が方針を決め、村人たちが動き出そうとした時だった。


『その必要はないわ』


村長たちの真上に誰かが浮いていた。ゆっくりと村人たちのもとへ降りてくる。彼女が地に足をつけた瞬間、村人たちの視線は一気に厳しいものへとなった。


『私を探してたんでしょう?だから来てあげたわ』


『リム、何を企んでいる?』


『別に何も。ただ(大切なもの)を守りにきただけよ』


フフッとリムは笑った。それが合図だったかのように、村人たちは一斉に彼女へ襲いかかった。


(サキュバスは愛し愛されることに喜びを感じる生き物)


リムは今までより赤く、妖しく目が光る。


(私はユメ(あなた)がいたからそれは十分に満たされたわ)


彼女は両手を横に振った。


(だからいつかあなたも全て受け入れて、あなたを愛してあなたの愛を受け取ってくれる人を見つけてね)


途端に襲ってきた村人はその場で倒れた。


『ふぅ、全力を出すのは久しぶりね』


妖しく光る目で彼女は村人たちを見つめた。


『足止めぐらいはさせてもらうつもりだからよろしくね』


***


『……う、うぅん………ぁれ?ここって………』


ユメは目をこすりながら身体を起こした。外はもうすでに夜になってしまい、満月が美しく森を照らしている。


『………ッ!そうだ!ママは!?』


慌てて周りを見渡すユメ。しかしそこにリムの姿はない。


『ていうことは………ママはやっぱり………うぅ』


リムがどこかに行こうとしてたこと、そして夜になっても帰ってきてないことから、彼女がどうなったかを察した。


『うわぁぁぁああああああん!!!』


しばらくユメは一人で泣き続けるのであった。


『うぅ………ぐすっ………行かなくちゃ………』


ユメはゆっくりと立ち上がり洞窟の外へと歩き出した。


『ママが私のために頑張ってくれたんだから、私も頑張らなくちゃ』


リムが自分のためにやってくれたことを無駄にはしたくなかった。だからユメは村と反対方向へ歩き出したのだった。

そして一時間ほど歩いた時だった。


ガサガサ


『ッ!?』


ユメの後ろの草陰で音がした。しかし彼女は振り返りはしなかった。

風で音がなっただけなのか。森の動物がたまたま通っただけなのか。それとも…………。

だから彼女は迷わず走り出した。すると後ろから自分を追う足音が聞こえた。


(やっぱり村の人たちが!このままじゃ………!)


必死に、一心不乱に、ユメは前だけ見て走り続けた。その時、


『痛ッ!?』


突然飛んできた矢が彼女の足にささった。ユメはその場で倒れてしまう。


『ふぅ、やっと追いついたぜ』


『先回りしておいてよかったわ』


身体をなんとか起こして振り返った。そこには、


(やっぱり村の人たちだ………)


彼女もよく知る顔があった。一人はよく畑で取れた野菜をよくくれたおじさん。もう一人は狩りのことをよく話してくれたお兄さん。

しかしユメの知る二人は自分を軽蔑するような目で見る人物ではなかった。魔族ということだけでここまで変わるのだと、改めてユメは実感する。


『い、いやぁ………』


ユメの目から涙が溢れる。


『人間のように泣くな。汚らわしい魔族が』


おじさんが侮蔑しながら持っていた斧を振り上げた。


『知り合いを殺すのに何も感じないわ。やっぱり魔族だからか』


お兄さんが腰につけていた剣を引き抜いた。


(嫌、嫌だよ………)


そして二人はユメに狙いをつけ、


(死にたくなんか………)


斧を、剣を、振り下ろした。


(死にたくなんかない!!)



ドクン



『………え?』


恐怖で目を瞑っていたが、いつまで経っても何も起きなかった。恐る恐る目を開けると、何故か二人はユメに目もくれず生気のない目で向かい合っていた。

理由は分からないが、今がチャンスだと思い逃げ出そうとした瞬間、二人は同時に斬りかかった。しかし二人はユメにではなく…………目の前にいる人間にに斬りかかったのだ。


『え?どうして…………あ』


その時ユメはチカが熊に襲われた時のことを思い出した。ユメが必死に心の中でさけんだ。すると無意識のうちに魔法が発動していた。

今の状況もそうなのかもしれない、とユメは思った。その証拠に目がとても熱い。あの時もそうだった。きっと目が赤くなっているんだろう。

そんなことを思っている間も、おじさんとお兄さんは互いの武器で相手の命を狩りとろうとしている。


『ハ、ハハ………』


ユメは安堵で思わず笑いが漏れた。


(やった………これで死ななくて済む。おじさんたちは死んじゃうかもしれないけど………私を殺そうとしたからお互い様だよ。だから私は━━)



━━あなたはやっぱり優しい子ね━━



『あ…………』


不意にその言葉が胸の中に降りてきた。だから、


『ダ、ダメ!二人ともやめて!!』


慌てて止めようと顔を上げた時だった。お互いが肩から腰にかけて各々の武器で切り裂いた。傷口から大量の赤い液体が吹き出る。その液体がユメの顔を汚す。

そして二人は数秒その場に立ち尽くした後、糸の切れた人形のように力を無くしに倒れた。

その光景をユメは光のない目で見つめることしかできなかった。


***


『はぁ……はぁ……』


チカは夜の森を走っていた。


(ユメちゃん………どこ………?)


彼女は一人の少女を探していた。そのためにどうにか村を抜け出してきたのだ。チカは確かめたいことがあった。


(あの時はユメちゃんが助けてくれたの?)


だから彼女は月明かりしかない暗い森を一人で探しにきたのだ。


『どこ?どこなの?ユメちゃん』


今まで来たことがない、森の奥までチカは探し続けた。すると自分と同じぐらいの背丈の人影を見つけた。その背中にチカは見覚えがあった。だから、


『ユメちゃん!』


友達の名前を必死に呼んだ。その少女は振り返らなかったものの、その場で立ち止まった。


『やった。やっと会えたよユメちゃん』


『…………』


チカが声をかけても少女は答えない。それでもチカは話し続ける。


『言いたいことがあったんだ。私を助けてくれてありがと。あの時ユメちゃんが助けてくれたんだよね?』


『…………』


チカは話し続ける。


『もう私ね、死んじゃうかと思っちゃったよ!あんなおっきな熊が襲ってきたんだから』


『…………』


チカは話し続ける。


『あの時はてごめんね。いきなりでびっくりしちゃったんだ』


『…………』


チカは話し続け


『でも私はみんなみたいには思ってないよ』


『…………』


チカは話し


『だからユメちゃん。こっちに向いて?』


『…………』


チカは


『…………ユ、ユメちゃん?』


『………チカちゃん。ママはどうなったか分かる?』


『ッ…………』


『そっか………』


少女の声は少しだけ悲しそうなものだった。


『私ね、さっき村の人たちと会ったんだ。でも今はいないでしょ?なんでだと思う?』


『え?』


『それはね』


少女はゆっくりと振り返った。そこには━━



血塗られた魔族(ユメ)が立っていた



『私が殺したからだよ』


『う、うわぁぁぁあああああああああ!?!?』


チカは大声を上げながら逃げ出した。自分を追ってくる音はしなかった。ただこんな言葉が耳に入ってきた気がした。



━━ごめんね。バイバイ



***


ユメは一人森を歩く。ただただ前へと進む。目的などはなかった。ただ前へと進んだ。


(私は………)


そんな彼女を嘲笑うかのように満月はユメを照らしている。


(私は………私は………)


すると森を抜け川へと辿り着いた。その川を覗き込むと返り血を浴びた自分が映った。その瞬間、闇雲に走り出す。


(私は………!私は………!)


自分はもう人間じゃない。人間にはなれない。そう感じた。何故なら


(私は………!私は………!私は………!)














「私は………お兄ちゃんの大嫌いな人殺しなんだよ」

リム『これがサキュバスの姿よ』

ユメ『へー(尻尾を見つめる)』

リム『あら?どうしたのユ━━』

ユメ『えいっ!』

リム『ひゃん!?』

ユメ『ご、ごめんママ!?』

リム『も、もう……サキュバスの尻尾はね、弱点だから簡単に触っちゃいけないのよ?』

ユメ『ごめんなさい………(シュン)』

リム『ま、まぁ、ユメは私の大切な娘だから触っちゃいけないことはないけどね』

ユメ『ほんと!?』

リム『え、えぇ。でも本当に弱いところだからあんまりたくさん触っちゃ━━』

ユメ『えいっ!』

リム『ひゃうん!?』

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