気づいたら突っ込んでました。
なんか後半ふざけすぎました。ああいうの苦手な人ごめんなさい。
「起きろー!!」
その部屋中に響く声で俺は目を覚ました。この声は………ユーリだな。
「朝だぞ!起きろ!」
「魔界って朝でもなんか暗いから早く起きられなんだよ」
「いいから早く支度しろ!」
「はぁ、またか」
ユーリとの契約後、俺は毎日朝早く起こされていた。
そういえば、ミーアはユーリとの契約を納得はしないが認めてくれた。ミーアはユーリの過去を知っているため、彼女が変わったことは嬉しかったらしい。ミーアって友だち思いなんだな。
話は戻るが、俺は毎日起こされている。理由は俺が弱いからだ。
ユーリが言うには、
『魔王たる者この私より力が無いなんて許されない!』
らしい。でも俺君に勝ったよね?って言ったらハルバード召喚された。
まぁ話をまとめると俺は毎朝ユーリと特訓してるんだ。剣を振ったり、軽く戦ってみたり。
「ほら!早く行くぞメディス!」
「はいはい」
そういえば、彼女は俺のことをメディスと呼んでいる。一応俺が上司なんで理由を聞いてみると、
『お前相手に「様」や「殿」をつけるなんて勿体無い!』
と言われた。しかしこれは建前で、
(そんな他人行儀なんて嫌だもん………)
ということらしい。テレパシーで聞こえてきた。ユーリって乙女だよね〜と言うと、ハルバードを目の前に突きつけられた。死ぬかと思った。
この特訓に関してミーアが何か言うかと思ったが、
「ンフフ……メディス様……もっと触ってください………」
ご覧の通り彼女は夢の中だ。決して俺が今触っているわけではない。
「はぁ、それじゃあ行ってくるよミーア」
「えへへ……いってらっしゃーい……」
でも見送ってはくれる。どんな風に聞こえてるんだろうか。
***
「さて、始めるぞ」
目の前に剣を構えたユーリが立っている。もちろん俺も剣を構えている。殺しあっているわけではなく、手合わせをしているだけだ。
「では参る!」
ユーリは俺に向かって走り出した。俺は強く剣を握る。
目の前までユーリが迫ると、俺は下から切り上げた。それを剣を当てることで対処される。
すぐに俺は剣を引き、後ろに下がろうとした。しかしあっという間にユーリは俺の懐に入ってくる。
「くっ!」
「遅いぞ!」
間近に迫ったユーリはさっきの俺のように下から切り上げてきた。
「まだだ!」
俺は彼女の剣に向かって力任せに振り下ろした。ガンッ!!と音を響かせながら剣と剣はつばぜり合う。
「ふん、なかなかやるな」
「ここ数日誰かさんに鍛えられたからな!」
俺の剣は上から力を加えてるため押していく。このままいけばなんかとか!
「━━ だが甘い!!」
彼女は剣を引くと同時に身体を滑らせるように俺の横へ移動した。俺は力任せに剣を振っていたせいで、対処することができない。
「これで私の勝ちだな」
首に剣を突きつけられる。
「はぁ、参ったよ」
俺は剣を落とし両手を上げた。まぁ勝てるとは思ってなかったけどさ。すると彼女も剣を下ろす。
「しかし随分と早い成長だな」
「そりゃあこれのおかげだよ」
腕をまくり竜の刺青を見せた。
どうして人間の俺が竜人族の彼女にここまでついていけるのか。それは主従契約のおかげだ。
竜人族と契約すると、主はあらゆる身体能力が上がるらしい。単純な力もそうだし、動体視力なんかも上がるそうだ。なんかいきなり強くなったため、心の方がついていけてない感じがする。
「そ、そうか………」
刺青を見てユーリは顔を赤くした。きっとキスしたことを思い出しているんだろう。ミーアと違って初心だからな。
ニヤニヤしながらユーリを見ていると、
「な、なんだその目は!」
「いやぁ、やっぱりユーリは女の子だなーって」
「お、女の子とか言うな!」
ユーリは叫びながら再び俺の首に剣を突きつけてきた。この子の照れ隠し怖い………。
「怒らないで聞いて欲しいんだけどさ。やっぱりユーリは変わったよ」
「う、うるさい!もうその話は━━ 」
「最後まで聞いてくれ」
「うっ、わ、分かった」
俺の真剣さを感じたのか、しぶしぶユーリは剣を下ろしてくれた。よかった、これで落ち着いて話せる。
「俺は会ってまだそんな経たないからはっきりとは言えないけど、ユーリは変わったと思うよ。ミーアもなんだか穏やかになったって言ってたし」
「ミーア殿がそんなことを………」
「俺も思うよ。険しい表情は見なくなって笑顔も増えた。服装なんかもそうだ。明るい色の服とかスカートとか。たぶんこの前まで着なかったんじゃないかな?」
「お、お前はよく見ているんだな………確かにそうだが」
目を泳がせながら肯定するユーリ。なんで赤くなってるんだろう?
「そりゃあ俺は一応魔王だし部下のことは見てるよ。なにより君は俺と契約を交わした大切な配下なんだから尚更だよ」
「大切な配下か………フフッ」
ユーリが小さな声で何かを呟いた。よく聞こえなかったけど嬉しそうだし聞かないでおこう。
「そこで俺から一つ忠告がある」
「忠告だと?」
「服装は変わって良いと思うんだけど………」
「ま、まさか似合ってないか?」
俺が言い淀むとユーリは泣きそうになりながら尋ねてきた。結構勘違いしちゃう子だな。
「いや、全部似合ってるよ。似合ってるんだけど………」
俺は言おうか迷ったが決心した。今後の俺とユーリに関わることだから。
「訓練の時にスカートを履くのは間違ってると思うんだ、俺」
「な、何故だ!?意外と動きやすいだぞ!」
たぶん彼女は最近スカートを履き始めたんだと思う。
「うん、確かに動きやすいと思うよ?」
だからまだ気づいていないんだ。
「でもね」
スカートの弱点を。
「見えちゃうんだよ」
何が、とは言わなかった。言えないし言う必要もないからだ。その証拠に、
「な、なななななな何ぃぃぃいいいいいい!?!?」
彼女は相当赤くなっていた。そんなユーリを見ているといきなり胸倉を掴まれた。
「いつからだ!いつから見ていた!?」
「いや見えてない!見えそうだけど見えなかったんだ!」
「ほ、本当か?」
「本当だよ。もうそれが気になって目がそっちに行っちゃったりして辛いんだよ」
「………一応聞くが、今日は何色か分かるか?」
「乙女で女の子のユーリに相応しいしろい━━ ハッ!?」
しまった!誘導尋問に引っかかってしまった!
ユーリは目に涙を溜めながら顔を真っ赤にして剣を振り上げた。
「待って!そんな物騒な物を振り上げないで!!」
「………なら最後に聞くが、見たのは今日だけか?」
「…………………えへっ☆」
「一回地獄に行って詫びてこい!!!」
「ぐへッ!?」
俺は剣の柄で思いっきり頭を叩かれた。そこで俺の視界は真っ暗になった。
気絶する前に分かったことがある。何も言えなくなる時って笑ってごまかすしかできないんだな。後でミーアに謝ろ。ガクッ。
***
「はぁ…はぁ………ッ!しまった!」
やってしまったとユーリは思った。また羞恥心に負けて主を傷つけてしまったからだ。
目の前のスケベな主は白目で気絶している。
「と、とりあえず何処かに運ぼう」
彼を背負い医務室へと運んだ。メディスの頭を見たが、幸い外傷はない。契約の恩恵のおかげだろう。
「それじゃあ寝かして…………ん!?」
そこでユーリは気づいた。医務室にはベッドが一つあるのだが、タイミングの悪いことに壊れていた。後は寝かせる場所といえば、石造りの長椅子しか残っていない。
「ベッドが壊れるなんていったい何があったんだ………」
呆れると同時に迷う。何処に彼を寝かせればいい?ユーリは考えた。
「石の上に寝かせるのは気が引けるし………あ!」
ユーリは妙案は思い浮かんだ。メディスを寝かせ上で、頭を硬い石に置かなくていい方法が。
「しかし………」
この案はユーリの決心が必要だった。詳しくいえば、羞恥心に打ち勝つ必要がある。
「これは私の責任だ。幸いメディスも寝てることだし………えぇい!しっかりしろ私!それでも竜人族、そして魔王様直々の配下か!」
自分を奮い立たせるように叫び、ユーリはその妙案を行動に移した。
その妙案。それは、
「んっ………」
膝枕である。
「あんなことがあったが、この服装でよかった」
いつもの鎧姿なら膝枕はできないが、スカートの場合は可能だ。むしろ太ももから下は露出していて服がないため、膝枕には向いている。
「…………フフッ」
自分の膝の上で寝息を立てるメディスを見てユーリは微笑んだ。
「こうして寝顔を見るのは初めてだな」
ユーリはメディスの寝顔をここ数日、毎日見ている。そもそも、ユーリもメディスたちと同じ部屋で寝ているからだ。
ユーリが希望した時、メディスは了承したがもちろんミーアは認めなかった。だが、『契約した者の権利だ!』と主張すると、しぶしぶミーアは認めた。二人の言い争うを見て、主であるメディスは部屋の片隅で震えていたりしたが。
ユーリは契約後、毎朝メディスの寝顔を十分に見てから起こしている。ミーアもぐっすり寝ているため、誰にも邪魔されないユーリの密かな楽しみなのだ。
そのメディスの寝顔が自分の膝で見れることが幸せなのである。
「………お前はいつも私の変なところを見ているな」
さするように頭を撫でながらユーリは呟いた。
ユーリの服装が変わったのはメディスという主、そして想い人ができたからだ。なので少しは女の子らしくしようとして、今日のように空回りしてしまうことが多い。
「私に非があるのにすまない」
寝ているメディスに彼女は謝った。きっと起きている時には上手く言えないからだ。彼女は話を続ける。
「羞恥心に負けてしまう弱い心しか持ち合わせていないんだ。変われるように努力はする。だから見守っていてほしい」
決して伝わることのないメッセージを彼女は伝えた。目の前に眠る、自分の大切な人物に。すると、
「………いいよ」
返事が返ってきた。慌てて見てみるが、メディスは寝たままだった。
「寝言か………」
しかしユーリは救われた気がした。例え寝言であったとしても、メディスは許してくれる。そんな気がした。
「本当に私の主は甘いな………フフッ」
呟きながら、ユーリはメディスの頭を撫で続けた。
しかし
「ひゃッ!?」
突然ユーリが悲鳴を上げた。それは何故か。
その原因はメディスの頭にあった。
「お、おい、メディス。その向きはいけな、あんッ!」
メディスが突然うつ伏せになるように寝返りを打ったのだ。そのため、彼はユーリの膝に顔を埋めるような体勢になってしまった。
メディスは今、ユーリの膝枕で寝ている。そして彼女はスカートを履いている。
なので彼の寝息が当たってしまうのだ。
「や、ダメ、くすぐっ、ひゃあぁッ!?」
ユーリは膝枕をしているため動くことができない。自分から気絶させてしまったため、起こすことも避けたい。なのでユーリはメディスが再び寝返りを打つか、目を覚ますまで耐えなければならないのだ。
「んっ、うぅん、んんっ」
必死に声を抑える。こんなはしたない声でメディスに起きて欲しくないからだ。しかし寝息は止まることを知らず、
「ぅぅん、あ、あぁん!」
どうしても我慢の限界が来てしまう。
「ひう!ダメェ!ダメ、あんっ!なんだもん!」
気がつくとユーリの口調は変わっていた。暴走時のものになっている。
「こ、こんな、ひゃあ!こと、ダメなの!」
段々とふわふわした気分にユーリは蝕まれていった。このまま何か戻れなくなるような恐怖心がユーリの中で芽生えた。そのため、
「そんなのダメなんだもん!!!!」
断ち切るように何かを蹴り上げた。はぁはぁと息を吐きながら気づいた。
「あれ?メディスはどこだ」
そんな彼女の上空で、蹴り飛ばされた何か、もといメディスが天井に向かって飛ばされていた。
「……んあ……あれ?ここど━━ 」
ドカーン!!!
轟音をたてながら彼は天井に突き刺さった。
その後、再びユーリに回収され膝枕をされるのだが、身体に痛みが刻まれたせいか、目を覚ますまで彼はまるで死人のようにピクリとも動かなかったという。
もしものショートストーリー帰宅編
ユーリの場合
ガチャ
ユーリ「おかえり」
メディス「ただいまー」
ユーリ「ご飯にする?お風呂にする?それともわた、わた」
メディス「綿?」
ユーリ「わた、私…………と特訓だ!早く支度しろ!」
メディス「今帰ってきたところなのに!?」
ユーリ「早くしろ!まずは走り込みで体力作りだ!」
メディス「そんなぁ………」
ユーリ(だって夜は体力が必要だもん♪)