気づきました。
今回は久しぶりにあの子が出てきます。サブタイトルもちょっとアレンジです。
薄暗いある家の中で、少女は一人、呆然としていた。
彼女は疲れきっていた。艶のあった長い黒髪は所々はねており、栄養不足なのか肌は青白く、目には隈がある。
「お兄ちゃん………どこなの………」
彼女の疲労の理由。それは彼女の家族が突然いなくなったことが原因だった。
「私を一人にしないでよ………」
いなくなった家族。その者の名はメディス。
「また一人なんて嫌だよ………」
そして彼女の名はユメ。
ユメはこの数日、メディスを探し回っていた。自分のことを気にせずに探し続けた。しかし、 見つけることはできなかった。
「こんなことなら……ちゃんと話しとけばよかった……」
コンコン
すると家に誰かが来た。無視するという選択肢もあったが、メディスの可能性もあるため、フラフラとした足取りでユメはドアを開けた。するとそこには鎧姿の男が何人も立っていた。
ユメは鎧の胸のあたりに彫られている紋章を見た。
(ユニヒルン王国の騎士がどうしてこんな田舎に?)
そんな疑問を感じながら、ユメは騎士に尋ねた。
「あの、何か?」
「ここはメディスという者の家で間違いないか?」
(なんでお兄ちゃんの名前が………?)
「はい、確かにそうですが」
「ちょっと呼んでもらえるか?」
「すみません。今、兄は出かけておりまして」
「いつ帰ってくるのだ?」
騎士はしつこく尋ねてくる。そのことにユメは疑問を感じた。
「あの、兄に何かあったんですか?」
もしかしたら、メディスが見つかるかもしれないという希望を含めて、騎士に尋ねた。
「知らないのか?」
「はい、このところ兄は帰ってきていないので」
「やはりか………」
「いったい兄に何があったんですか?」
すると騎士は答えた。信じがたい答えを。
「メディスという男は第二王子、サイド=ユニヒルン様を殺害しようとした大罪人だ」
「………え」
ユメは最初、何を言われているのか分からなかった。ユメの知っている兄は絶対にそんなことをする人物でなかったからだ。
「何かの間違いでは?兄がそんなことするはずがありません」
冷静に対応するが、心の中では不安でいっぱいだった。
この数日、彼は一度も帰っていない。そんな時にこんなことが起きた。ユメは信じていないが、これだけの騎士が動いているため、不安を拭いきれなかった。
「間違いではない。ある魔族ハンターからも情報が来ている。その者の証言では、お前の兄はラミアを使役していたようだ。そしてサイド様は仰るには、自らを魔王と名乗りドラゴンを使役して襲ってきたそうだ」
「ラミア……ドラゴン……魔王……」
ユメは信じられない言葉を繰り返した。
(なんでお兄ちゃんが魔族と一緒にいるの!?そもそも魔王って………もしかしてお兄ちゃんが今いるのって━━ )
騎士の話はあまり信じていない。しかしユメはメディスが行きそうな所を全て探した。だが、彼はどこにもいなかった。だから騎士の話と照らし合わせて、ユメはこう考えたのだ。
メディスはもうこの世界にいないのではないか?と。
(そうと決まれば早く準備しないと!)
ユメは慌てた様子で家の奥に入ろうとした。そんなユメを騎士は止める。
「ちょっと待ってくれ。君にも一つ聞きたいことがある」
「何ですか?私は急用を思い出したので、早くお帰りになって━━ 」
「君は誰だ?」
騎士の目は明らかに敵意があった。まるでユメを異物でも見るかのように。
「メディスという男を調べたところ、妹なんて存在していなかった。君はいったい誰なんだ?」
「わ、私はメディスの妹のユメです!変なこと言わないでください」
「だから君のような妹は存在しないんだ。もしかして君も魔族だったりするのか?」
「ッ!?」
「とりあえず来てもらおうか。メディスという男の話も聞く必要がある」
そう言うと騎士はユメに手を伸ばした。
騎士がユメに向かって『魔族』と言ったのは本気ではなかっただろう。
しかしユメには許せなかった。
メディス以外の人間には二度と言われたくなかった言葉だったからだ
「触るな人間!!」
ユメは叫んだ。敵意を越えて殺意すら覚えた。
そんなユメを見て騎士の背中に悪寒が走った。反射的に腰に差していた剣を引き抜く。
「王国軍に逆らう気か!ただの女がこの人数に勝てるわけ………」
バタンと突然、騎士が倒れた。その姿をユメは冷たい目で見下ろす。
『何があった!?』
『おい!しっかりしろ!おい!!』
『こうなったら全員で囲め!!』
ぞろぞろと騎士たちが入ってきた。一瞬にしてユメを取り囲む。
『どうするこの女』
『未発達だがなかなか上玉じゃないか』
『まずは拘束しろ!何をするか分からないぞ!』
「お兄ちゃんと私の家に勝手に入るなんて………本当にお兄ちゃん以外の人間、それも男は屑ばっかりね」
ユメに焦りはなかった。ただただ怒りがこみ上げてきた。
騎士たちはそれぞれ剣を引き抜く。その中の一人がユメに斬りかかった。しかしユメはまるで気にすることなく、
「はぁ嫌なこと思い出しちゃったな………早くお兄ちゃん見つけて慰めてもらおう。色んな意味で」
ふらっと避けると同時に腕を横に振った。それだけなのに、斬りかかった騎士はその場に倒れた。
『『『『『『『ッ!?!?』』』』』』』』
その場にいる騎士全員が息を飲む。そんな騎士たちを見てユメは言う。
「今なら許してあげるよ。女一人の相手に王国軍の騎士様たちが土下座するならね」
その言葉に数人がユメに斬りかかる。しかしまたしても簡単に避けられ、ユメが腕を横に振ると騎士たちは倒れていく。
『う、うわぁぁぁあああああ!?!?』
正体不明の現象に怖気付いた一人の騎士が悲鳴を上げながら逃げ出した。
「逃げられると思ってるの?」
だが彼女が騎士に向かって腕を振ると、当然のように倒れていく。
気がつくと、残りの騎士は三人になっていた。
「もうめんどくさいから終わらしちゃうよ」
彼女は両手を振り上げた。その動きを見て残りの騎士たちは慌てて斬りかかった。しかしユメには通じない。あっさり避けた後、両手を振り下ろした。すると二人の騎士がその場に倒れる。
最後の騎士は倒れなかった。だからユメを殺す気で剣を振り下す………はずだった。
「腕だけだと思った?ざんねーん、目でも倒すのは可能でしたー」
その場に最後の騎士は倒れた。その騎士を見るユメの目は妖しく光っていた。
「久しぶりに使ったなぁこの魔法」
この場に倒れた騎士たちを見て、ユメは呆れたようにため息をついた。
「一人ぐらい気づくと思ったのになぁ。自分たちが弱くなってたことに。騎士って言ってもたいしたことないんだね」
彼女は家の外に出た。今は夜だ。満月が輝いている。
「あの時もこんな夜だったなぁ」
ユメは振り返り、自分と兄の家を見る。
「私の大好きな場所はお兄ちゃんがいる場所なの。だからもうここには帰ってこないかな」
そしてユメは空を見た。満月のため、夜のわりに明るい。
「それじゃあ行こっか」
すると突然、ユメを黒い霧のようなものが飲み込んだ。霧が晴れると、そこには、
「この姿になるのも久しぶりだなぁ」
魔族がいた。
必要な部分しか隠されておらず、へそや鎖骨などが見えている挑発的な服。背中には黒いコウモリのような羽が生えており、小悪魔のような尻尾が揺れていた。
ユメは羽を動かすと、月に向かうように飛び上がった。
(ねぇ、お兄ちゃん)
ユメは羽ばたき、夜の森を見下ろす。
(私、気づいたんだ)
ギュッと両手で自分の胸のあたりをおさえる。
(ずっと言いたかったけど言えなかった。でもお兄ちゃんがいなくなって本当に後悔したんだ。本当の自分を見てもらえないのはとっても辛いんだよ?)
目には少し涙が溜まる。でもまだ溢れさせる時ではない。
(お兄ちゃんは………)
何故なら
(こんなサキュバスでも受け入れてくれるかな?)
メディスに会った時こそ、ユメが涙を流す時なのだから。
「待っててね。お兄ちゃん」
そしてユメは飛び続ける。魔界を、そして兄を見つけるために。
ヨウブン(作者)「…………あれ?この子強くない?」