気づいたら反対されてました。
某モンスター娘マンガのヒロインと名前が被っていることをこの前知りました。なんかすいませんほんと。
朝目を覚まして食事を済ませる。朝にミーアと一悶着あったことやマキが張り切って作った大量のおにぎりと格闘したことは割愛しよう。
俺は正装に着替えていた。あの『主でも操れちゃいます』が売りの鎧と王冠ではない。普通の正装だ。そして黒いマントを付け俺は皆が待つ部屋へと向かっていた。
そう、今日は魔王様お披露目式だ。だから朝からバタバタする人をよく見かけた。これから俺は正式に魔王となるのだ。
「はぁ、なんか緊張してきた。なんて言えばいいんだろう」
「思ったことを言えばいいと思いますよ?」
「思ったことって言ってもなぁ……ってえ?」
いつの間にかミーアが後ろにいた。全く気がつかなかった。
「驚いてる暇はありませんよ。急がないと。皆が待っています」
「あぁ、分かってるよ」
歩く速さを上げ目的の部屋へと向かう。それに合わせるようにミーアもついてくる。
「そんなに難しい顔をなされなくても大丈夫ですよ」
「え?俺ってそんな顔してた?」
「はいそれはもう。ニシキヘビのパスタとマムシのパスタを選ぶ時の私のように」
どんな顔だよ。
「心配はいりません」
ギュッとミーアが俺の手を握った。
「私がついています。メディス様が困った時は私が必ずフォローします。だから気軽に行きましょう」
「ミーア………」
そうだな。ここには俺を慕ってくれる人が少なくとも一人はいる。そんな人が一緒にいてくれる。そう考えると自然と緊張感は薄れていった。
「よし。行くぞミーア!」
「はい!」
俺とミーアは、俺たちを待ってくれている人たちの元へ急いで向かった。
***
大広間。普段は埋まることのない部屋は、今はぎっしりと魔族で埋められていた。皆は待ち望んでいるのだ。実質トップだったミーアを救い、長年いなかった魔王へとおさまる男を。
魔族たちがざわめく中、俺とミーアは壇上へと上がった。するとざわめく声が一気になくなる。
まずミーアが前に出て話し出した。
「皆さん、今日はお集まり頂きありがとうございます。私はこれから王となられる方の従者兼秘書のミーアです」
するとミーアの声が部屋全体に響いた。何か魔法がほどこされているのだろう。
『うおおおぉぉぉぉおおおお!!ミーア様ぁぁああああ!!』
『相変わらずお綺麗だわ!』
『俺と結婚してくれぇぇぇええええ!!』
ミーアが名乗ると歓声が上がる。皆から人気があるんだな。実質トップだったんだから皆をまとめてたりしてたんだろうか?
「それではご紹介するとしましょう」
お、とうとう俺の出番か。
「あ、ちなみに私は人生をゆだねると決めた方がいるので、その人以外と結婚なんて考えられません」
チラッ、チラッと俺の方を見ないでくれ………。すごく恥ずかしいから。
「では、改めて紹介します。新魔王となるメディス様です!」
ミーアが後ろに下がったので俺はマイクの前に出た。すると、
(私は貴方の背中を見守っています。頑張ってください)
ミーアがテレパシーで話しかけてきた。
あぁ、ありがとう。行ってくるよ。
俺は短く息を吐くと俺の言葉を待ってくれている者たちに向けて話し出した。
「皆、俺は今日から魔王となるメデ━━ 」
「ちょっと待った!!!」
俺の初の発言に誰かが割って入ってきた。広間にいる魔族たちは声のした方に振り返る。それに合わせ、俺も声の人物を探した。すると、
「私は認めない。絶対に認めない」
声の人物はこの部屋の一番奥にいた。が、その人物は一瞬飛び上がったと思ったら、
「私は人間が魔王だなんて絶対に認めないぞ!!!」
俺の目の前に着地していた。
「ユーリ!?何をしているのですか!」
ユーリと呼ばれた女性の行動を見て、ミーアが声を荒げる。
ユーリ、どっかで見たような…………思い出した。彼女はこの魔王城の兵を束ねるリーダーで竜人族のユーリだ。昨日、夜に見た資料に彼女のことが載っていた。
ユーリ。鎧で身を固め、まさに戦士といった女性だ。赤く長い髪をポニーテールにしているのは戦闘で邪魔にならないためだろう。頭には竜人族特有の角が生えている。
竜人族は穏やかな種族だと書かれていたが、あれは嘘だな。彼女の鋭い目に怒りが込められ俺を睨んでいるもの。
「ユーリ!場を弁えなさい!」
「申し訳ありませんミーア殿。しかし!私は我慢なりません!こんな男が、人間風情が魔王になるだなんて!!」
キッ!と俺を見る冷たい目に鋭さが増す。全員が全員、俺が魔王になることに賛成してくれるわけじゃないとは思っていたけど、まさかこんな目の前で言われることになるとは。
俺が何か言おうとした時、不意に背筋に悪寒が走った。なんだ?振り返るとミーアがユーリよりも鋭い目で彼女を睨みながら負のオーラが放出していた。いや、実際はそんなの見えないんだけど。
「訂正しなさい」
そして低い声。今まで見たことのないミーアに驚かされる。
「メディス様は私の主です。私はこの方に全てを捧げるつもりです。そんな方をユーリ、貴方は侮辱しました。私は貴方を許しません。今ここで訂正し謝罪しなさい。さもなくば」
ミーアの負のオーラがこの広い部屋全体に広がる。これは魔力、なのか?魔力による圧力?しかし今はどうでもいい。早く止めなければ。
「ミーア。そこまでにしてちょっと落ち着いて」
「ですがメディス様!」
「別に俺はいいから。こういうことは何かしら言われると思ってたから平気だよ」
「でも私は!」
はぁ……仕方ない。
「命令だ。静かにしなさい」
俺は加護に触れ言葉を放った。
「っ!?………はい」
納得いかない顔をしているが契約の効力によりミーアは何も言えなくなる。これで大丈夫だ━━
「貴様!ミーア殿に命令などと、この無礼者!立場を考えろ!」
誰のせいでこうなったと思ってるのこの人?一応立場的にも俺の方がうえなんだけどなぁ。
「私は認めない!お前が魔王になどとは絶対に認めない!!」
「いやちょっと落ち着━━ 」
「まだ言うのですか!これ以上の侮辱は許しません!」
「ミーアもちょっと冷静に━━ 」
「ですがミーア殿!人間などという脆弱な種族が魔王なんて!」
「ねぇ、俺の話を聞い━━ 」
「ならどうすれば貴方は納得するのです!?」
「ねぇ!俺も少しは話さ━━ 」
「この男が力を証明すれば私は文句はいいません。だから人間。この私、ユーリと決闘だ!」
「え?決闘っていった━━ 」
「それで貴方が納得いくのなら仕方ありません。私は多くの者にメディス様を認めて欲しいですからね。その決闘、受けてたちます!」
「ミーア!?何勝手に決め━━ 」
「では、決闘は明日の朝ということでいいですか?」
「無理無理絶対ダ━━ 」
「もちろんです。一秒でも早く私の主様が認められて欲しいので」
「俺全然戦うつもりなんて━━ 」
「では式はここまでです!行きますよ!メディス様!」
俺の言葉は遮られ、俺の意見は無視され、俺の運命は決められ、俺の身体は引きずられていった。
この人たち、何勝手に決めちゃってんの?
マキ「(え?これって結局ぅ………)」
その他魔族たち「(何の式だったの………?)」