気づいたら伝えてました。
今回はちょっとシリアスです。まれに見る真面目回です。
マキとの夕食後、風呂を済ませ自室に来ていた。まぁミーアと共用部屋なわけだけど。
この部屋はとても広い。具体的に言うと、この部屋に俺とミーア用の二つのベッドがあるのだが、あと五つぐらいは余裕で入る程広い。つまりまだここへ来たばかりの俺は何か落ち着かないのだ。
「気を紛らすために昼にできなかったことでもするか」
昼に見きれなかった資料を部屋に置いていたため、それを手に取り目を通す。しばらく見ていると、
「ただいま戻りました」
ミーアが帰ってきた。バスタオル一枚で。
「………………」
「無言で加護に触れようとしないでください!着ますから!ちゃんと服着ますから!」
ミーアは普段、蛇の下半身まであるカッターシャツを着ている。ラミア特製の服なんだろう。なのに今はバスタオル一枚で部屋に入ってきた。いくらなんでも挑発しすぎだろう………。俺はミーアに背を向け着替えるのを待つ。
「着替えましたよ。メディス様」
「もし今何も着てなかったからこの部屋から出ていってもらうからな」
「……………少々お待ちください」
やっぱりか。ミーアがこれで終わるはずないと思っていた。しかし俺にはお見通しだ。すると先程よりも遅く声がかかった。よし、もう大丈夫だろ。
振り返ると彼女はピンクのネグリジェに着替えていた。よかった。追い出さなくて済んで。
「また資料を見ているのですか?」
「あぁ、誰かさんのせいであんまり見れてないからね」
「ではそろそろ寝ましょう」
無視した挙句に話をそらされた。ミーアのスルースキルが日に日に上がってきているような気がする。
「悪い。もう少しこれに目を通したら俺も寝るから」
「ダメですよ、メディス様。明日は正式な魔王様お披露目式なのですから。早く寝て早く起きて準備を万全にしないと」
魔王様お披露目式か。明日はここで働く人に、つまり魔王城で働く人全員を集めて正式に俺がここの主となる式を開くらしい。
「話は聞いてたけど急だな。俺はもう少し後に開くと思ってたよ」
「善は急げということです。早くするほどメディス様とイチャイチャできる機会が増えるということですから」
「理由が不純すぎる」
まぁそれが明日にあるならそろそろ寝るか。
俺は資料を机に置き自分のベッドへと向かった。ベッドに入るため掛け布団を持ち上げると、
「さぁ、貴方の眷属、このラミアのミーアと一夜をとも、ふごっ!?」
ミーアがいた。ので、掛け布団をもう一度ベッドに戻した。
「何故です!?何故ここは貴方のベッドなのに寝ようとしないのです!?」
バッと勢いよくミーアが俺のベッドから出てきた。
「なら俺も聞こう。何故君は俺のベッドに潜りこんでいる?」
「ア、アレー?ワタシドウシテココニイルノカナー?オカシイナー?」
「無視できるのに嘘つくの下手だな」
「そ、そんなことは気にせず、さぁ!寝てください!私と一緒に!」
「…………はぁ、仕方ないな。一緒に寝るよ」
「本当ですか!?」
「ただし、俺に触れたらお仕置きだからな」
「へ………それってつまり………」
ミーアが考えてるうちに俺はベッドに入った。
「生殺しじゃないですか!?ていうかいつの間に!?」
「それじゃあおやすみー」
俺は明日のために目を瞑った。するとミーアは俺の腕にしがみついてきた。
「はぁ……ミーア、さっきの話を聞いて━━ 」
俺はその先を続けられなかった。何故ならミーアを見ると震えていたからだ。
「ど、どうしたんだ?もしかして寒い?」
「………いえ、怖いのです」
「怖い?何がだ?」
「メディス様が、です」
俺のこと?そんなにきつく言ってしまったんだろうか。
「今日………メディス様は私のことを家族だとおっしゃってくれました。とても嬉しかったです」
でも、とミーアは話を続ける。
「それと同時に怖いのです。言葉だけなのかもって。メディス様は人間で私は魔族です。人との接し方や距離の置き方などの違いがあるのも分かります。でも、人間よりも魔族は本能的な生き物で直接的な行動がないと不安になってしまうのです………」
ぐっとしがみつく力が強くなる。そうか、ミーアはそんなことを思って無茶苦茶な行動ばかり…………ちょっと無茶苦茶すぎた気がするけど。
「………ごめんなさい。わがまま言ってしまって。自分のところに戻ります」
俺から離れミーアはベッドから出ようとした。だから、
「ちょっと待って」
俺は彼女の腕を引いた。
「きゃっ!」
短い悲鳴を上げたミーアを再びベッドに戻す。
「は、離してください!これ以上メディス様にご迷惑はかけられません!」
「はぁ………俺に迷惑をかけたくないならそんな顔しないでくれ」
ミーアは昼のように涙を流していた。いや、昼の時以上に涙を流していた。
「それに俺はまだ何も言ってない。それだけでも聞いていってくれ」
ふぅと一息置き俺は話した。俺の想いを。
「俺もミーアのことは好きだよ」
「え………?」
「聞こえなかった?俺もミーアのことは好きだよ」
ミーアは何も言わなかった。だから俺は話を続ける。
「ミーアの明るいところとか、色々言いながらも俺を気遣ってくれるところとか、俺は好きだよ。変なやりとりも多いけどアレは別に嫌じゃないしちょっと楽しいとも思ってる」
ただ、
「そう簡単には応えることはできない。昼間話した通り、責任がまだとれないっていうのもあるけど、俺はまだミーアのことをあまり知らない」
だから、
「これからミーアのことをたくさん知ってからちゃんと気持ちに応えたいんだ。待たせてしまうのは悪いと思うけど」
言葉では伝えることは伝えた。あとは、
「だから、さ。今はこれで我慢してほしい」
俺はミーアに顔寄せ、そして━━
「あ………」
ミーアの頬にそっとキスをした。
「今はこれが限界、かな」
ミーアはしばらく固まった。俺が反応に困っているとふふっとミーアは微笑んだ。
「メディス様はいわゆるヘタレというやつですね」
「うぐっ………自分で分かってるけどそれが━━ 」
「でも」
ミーアはすっと俺に顔を寄せると、
チュッ
俺の頬にキスをした。
「そんな主に合わせるのも配下の役目ですから」
「ミーア………」
「それじゃあおやすみなさい」
俺のベッドから出て自分のベッドに戻ろうとする。
「まだ話は終わってないよ」
「え?」
「さっき話しただろ?俺に触れたらお仕置きだって。まさかあんな大胆に触れてくるとは思ってなかったよ。だから君に罰を与える」
ミーアの腕を引き俺の元へと抱き寄せた。
「き、今日はここで寝てもらう。身動きが取れないという苦しい罰だ」
恥ずかしさのあまり少しどもってしまった。俺はすぐさま目を瞑る。
「ふふっ、分かりました。私はその罰を受けます」
するとミーアは俺の背中に腕を回してきた。
「そ、それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい。ちょっと大胆になった私のご主人様」
俺たちは互いの温もりを感じながら眠った。
メディス「(これで気持ちよく眠れそ━━ )」
ミーア「(いぃぃぃぃいいいよっしゃあああぁぁぁあああああああああ!!!!メディス様のデレキタァァァァアアアアアアアアアア!!!!!)」
メディス「(さっきまでの雰囲気はいったいどこに…………)」